CATVから見た、共同利用区域を設定したローカル5Gのサービス展開【3:ZTVによるFWA展開や、工場、農場、商業施設、行政施設でのサービス展望】
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ZTVは、三重県津市に本社を構えるCATV事業者。サービス提供エリアは三重県、滋賀県、和歌山県、京都府と広域であり、1府3県40市町村で約30万世帯がZTVのインターネットサービスおよびCATVサービスを利用している。
ZTVは無線事業に先進的に取り組んでおり、例えば2020年10月に関西エリア初となるローカル5Gの商用免許を取得している。その用途は、豪雪地帯を含む滋賀県長浜市において、交通量の多い道路や雪の多い道路などの4K高精細映像情報をリアルタイムに配信するサービスをローカル5Gで実施するというものだ。この高精細映像のリアルタイム配信によって、従来は確認が難しかった路面の状態(凍結の有無)や、積雪した雪の状態(氷のようにかたまっているのか、シャーベット状なのか)などを把握することが可能となり、自動車等での移動が日常生活に必要不可欠な地域において、様々なトラブルを回避することに貢献できる。
また、三重県津市と連携したローカル5Gの事例では、同10月にグランドオープンした最新の文化施設「久居アルスプラザ」内でローカル5Gを整備した。ZTVの新事業推進部 課長代理である小林 裕也氏は「2020年当時はキャリアさんの5Gもまだまだ地域に展開されていないような状況だったことから、地域住民の方にまずは5Gに触れていただくことを考え、体験環境としてご提供をしている」と話している。
ローカル5Gが制度化されて間もない頃から積極的に取り組んでいるZTVは、その後も総務省の課題解決型ローカル5G開発実証に令和3年度と令和4年度の二年連続で採択され、成果報告を提出している。
令和3年度は、三重県の鳥羽市で、船の安全な操船および港の安全管理を目的としたローカル5G活用の実証実験を実施した。そして令和4年度は三重県の尾鷲市でブリ養殖の給餌業務の効率化にローカル5Gを活用する実証実験を実施した。小林氏は「これらは単年度事業だが、令和4年度の事業に関しては今年度も地域デジタル基盤活用推進事業に採択いただいた。令和4年度は給餌の自動化をローカル5Gで実現するという実証実験をしたが、今年度はローカル5Gにより給餌で使う船の自動運転を実現する実証実験を予定している」と説明している。
また、ZTVは今年7月に、三重県と三重大学とのローカル5G連携協定を締結している。主な目的は、三者間でローカル5G等を活用して地域課題の解決やDXの推進を図ることであり、小林氏は「全国的にもまだまだローカル5Gは普及してないような状況かと考えているが、都市部の結果を待ってと言う形ではなく、三重県からローカル5Gを使った先進事例を発信して行くことを、産学官連携の体制として取り組むということで、連携協定を締結させていただいた。現在、様々な準備しているところだ」と話している。
主な連携内容は次の四点。
環境整備:ZTVによる県工業・農業研究所への基地局整備。
技術支援:普及促進 各研究所でのオープンラボや機器開放による技術支援。
DXの推進:県内事業者の課題に応じたスマート工場やスマート農業の実証。
人材育成:導入手法や活用推進のセミナーや体験会、現場見学会等を開催。
共同利用区域により、B2Cサービスを安定して提供
ローカル5Gのノウハウを有するZTVは、前述の通り、9月29日にZTVが全国初となる共同利用区域を設定したローカル5G無線局の免許を取得しており、その利点を活かしたB2CとしてFWAサービスを展開する。(当レポート内 1:共同利用区域の利点)
小林氏はローカル5GによるFWA展開の主なメリットについて二点を挙げており、「地域のFTTH化は進んできており、弊社のエリアでも屋外インフラは光化の整備が完了している。しかしながら、比較的古いマンションの棟内では新しく光を配線することが難しく、電話線などを使った低速のインターネットしか提供できていない物件の世帯が多く存在している。こういった世帯に対してローカル5Gを使えば無線によるサービス提供が可能となり、ギガビットのインターネットサービスも提供ができると可能性を感じている」とし、「また、新しい客層の取り込みも目的だ。総務省による電気通信事業分野の市場検証レポートでは、やはり若い世代は他の世代に比べて無線の固定インターネットサービスを選択する割合が高いというデータが出ている。こうした状況の中で“CATVは有線だけ”というわけにはいかないことから、ローカル5Gを使ったB2Cサービスを大きく展開していきたいと考えている」と説明している。
このB2Cサービスの懸念材料だったのが、後発のローカル5Gによるサービス停止リスクだが、制度改正による共同利用区域の設定により解消されることが期待できる。この改正について小林氏は「改正前は、電気通信事業者の立場として、サービス停止リスクの可能性を知りながらユーザに対してサービスを提供することはできないと考えていた。かと言って、マンション一棟や一つの物件の為に一つの基地局を立てるのは、全く事業採算が合わない。このような背景から改正前はB2Cの展開は難しいと判断していたが、制度改正により共同利用区域が設定できるようになったことで、安定して持続的にサービス提供が可能だと判断している。また、共同利用区域をうまく設定することで、従来よりも比較的広いエリアで業務区域を設定して営業ができるので、事業採算性も含めてローカル5Gを使ったB2Cの展開が可能な状況になったと理解している」と説明している。
ZTVは共同利用区域を設定したサービスとして、住居向けにローカル5Gを利用したFWAサービス「Z-LAN Air 5G」を予定している。小林氏は「従来のローカル5Gは、どちらかというとB2BやB2Gがメインだったが、ローカル5Gという名の通り、地域の住民の方にも気軽に使っていただけるサービスになればと思っている」と話している。
今後の展望
ZTVは、ローカル5Gの共同利用制度を最大限に活用し、地域全体の発展とデジタル化の推進に寄与する革新的なサービスの提供をめざす考えだ。ZTVの取締役 新事業推進部長である朝熊 淳氏は「ローカル5Gの価格は高いと言われているので、共同利用制度によって改善を図りたいと考えている。例えば、工場や農場、商業施設や行政施設がエリア内にあれば、共同利用することで、一つ一つの施設にローカル5Gを提供するよりも低コスト化が可能だと考えている。共同利用制度の活用として、まずは、B2CのFWAサービスを展開し、今後はB2BやB2Gも交えた形でサービスの展開を進めていく」と説明している。
レポート目次
3:ZTVによるFWA展開や、工場、農場、商業施設、行政施設でのサービス展望