「Nokia Connected Future 2023」Review【3:ノキアにおけるメタバースの機会に関するビジョン】
SpecialReport 有料 柳橋氏は「2030年に向けた通信事業は、メタバースに対してコネクティビティを提供するというビジネスチャンスがある。より多くの情報を扱うことができるキャパシティ リッチネス、また、現在のエクストラデバイスが実行している処理の一部もしくは多くを分散的に配置されたコンピューティングリースでの実行。こうしたデジタルなパブリックを2030年に向けて作っていく必要がある」と話す。
ここでは、ノキアにおけるメタバースの機会に関するビジョンを見ていきたい。
メタバースの標準化とAR系デバイスの進化を予測
柳橋氏はメタバースの構成要素として、バーチャルリアリティ(VRメタバース)、オーグメーテッドリアリティ(ARメタバース)、分散型インターネット(オープンメタバースやWeb&クリプト)に分けて提示し、「現在、メタバースを謳っているようなサービスの多くが独自の仕様で作られている。今後、メタバースが本格的に普及して行く将来の姿としては、メタバースとメタバースの相互接続が必要になると予想されるので、メタバースの標準化も非常に重要な要素になってくると考えている」と話す。
メタバース空間にアクセスするデバイスとして、VRデバイスとARデバイスといったものが挙げられる。ノキアでは2030年にメタバースは本格的に普及しており、その本命のデバイスはVR系ではなくAR系から進化したデバイスになると考えているという。
柳橋氏は「メタバースの世界に入る時に必要なデバイスが、例えば従来型のネットワーク系の場合は、参加する方の行動を非常に制限してしまう。そのため、将来系のメタバースは、現実社会とメタバース空間社会の違いが少ない、つまり境界が無いような形で本格的に普及すると考えている。そうなると、現在のスマートグラス型ARデバイスの能力では不十分となり、これがどんどん進化して、ビデオシースルーMRヘッドセットや、最終的には光学シースルーARメガネに進化していくと予測している」と話す。
メタバース商用化のリードは産業界に期待
ノキアではベル研究所を中心に、メタバースという言葉が普及する以前から物理の世界とヒューマンオーグメンテーション(人間拡張)というデジタルの世界を高度に融合するためのテクノロジーに着目してリサーチを続けている。そこから見えてくるメタバース市場の可能性について柳橋氏は「メタバース=コンシューマといったイメージがあるかと思うが、実はそうではなく、エンタープライズ系やインダストリ系で非常に大きなビジネスチャンスがあるのではないかと考えている」と話す。
ノキアはABIリサーチと共同でメタバース市場の推移もリサーチしており、柳橋氏はコンシューマ、エンタープライズ、インダストリの3領域に分けて提示した(上図)。そのトレンドカーブを比較すると、コンシューマとエンタープライズは同じような曲線を描いており、インダストリはこの二つとは異なる曲線を描いている。柳橋氏は「インダストリではメタバースを実行することによって得られる恩恵が大きいので、投資が早い段階から動く。一方で、コンシューマとエンタープライズのメタバースに関しては、デバイスのコストが劇的に下がらないと本格的な普及にはならないと考えている」と話している。
また、柳橋氏はこの領域における将来技術について、次のコンセプトを紹介している。
ヒューマンオーグメンテーション
・コネクテッド バイオメディカル インプラント産業用外骨格
・人間工学に基づいたテザリング不要のXRメガネ
・XRの相互運用性
デジタルフィジカルフュージョン(デジタルと物理の融合)
・複雑で全社的なデジタルツイン
・エコシステムの相互運用性
・インタラクティブな3Dデジタルツイン
・6Gネットワークセンシング
モバイルインフラは、2028-29年までにさらなる周波数と技術の向上が必要
AR/VRによるモバイルブロードバンドに与える影響について、ノキアは独自に調査している。上図の左に示されたグラフの緑の部分は従来のスマートフォン向けのトラフィック増加を示し、紫の部分はモバイルAR/VR向けのトラフィック増加を示しており、モバイルブロードバンドを支えるインフラはこれら全体を扱うことになる。柳橋氏は「モバイルテクノロジーそのものの進化として、5Gからさらに周波数が追加されていく。その観点で2030年のトラフィックと無線容量を予測すると、5G-Advancedに新スペクトラムが追加された無線容量がトラフィックに見合うと考えられる(上図の右)。これは、2030年以降のトラフィックにおいて5Gのテクノロジーでは不十分であるとも読み取れるので、6Gのようなテクノロジーが2030年に必要になってくると考えている」と話している。
XR処理におけるアーキテクチャ的な選択肢と進化モデル
2030年に向けた通信事業は、メタバースに対してコネクティビティを提供するというビジネスチャンスがある。これには、メタバースプラットフォームのレイヤだけでなく、デバイスのレイヤも含まれるという。
例えば、現在はメタバース関連デバイスにおける画像処理はすべてデバイス自身が実行している。そのため、デバイスの課題として、巨大な処理能力による高コストや、高い消費電力によるバッテリー負荷が挙げられている。柳橋氏は「今後は、デバイス処理の大部分あるいは一部をネットワーク側が実行する形に進化するのではないかと考えている。その実現には大容量伝送や低遅延を突き詰めていく必要があると考えている」と話し、その進化の流れを次のようにまとめている。
デバイス上での処理:巨大な処理能力。高い消費電力とコスト。
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完全クラウド処理:XRネットワークの容量を制限する主な要因はDLビデオ。XRの容量は遅延が一役買うため、データレートに応じて非線形に拡大。データレートは360°ビデオ/ボリュメトリックビデオ コーデックによって増加。
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分割処理:レンダリングパイプラインをクラウドとクライアントのコンポーネントに分離。新しい技術によりDL帯域幅の必要性を50%~80%削減し、遅延要件を低減。デバイスの負荷を軽減。
柳橋氏は最後に「このような機会を実現するためにネットワークが重要な鍵になり、変幻自在の機能と多彩な統合を必要とする。ネットワーク特性としては、サスティナブル、セキュア&プライベートも重要になる」とし、「CSPメタバースの想定されるビジネスモデルは、アプリケーションソリューション、アプリケーションイネーブルメント、コネクティビティ、デバイスと幅広い。その中で収益化を考えた時、エコシステム・パートナーシップがチャンスを広げるのではないか」との見解を示した。
Report目次
1:低消費電力等でSociety 5.0に向けたデジタル化を推進
3:ノキアにおけるメタバースの機会に関するビジョン