「Nokia Connected Future 2023」Review【2:ネットワークを取り巻く環境の課題】
SpecialReport 有料2030年の世界を形成する主要なトレンド
エコシステムとネットワークへの要求事項の推進
柳橋氏からは、2030年の世界で、通信コミュニケーションのテクノロジーがどのような形で貢献できるのかが解説された。
ノキアは2030年の世界を様々な観点から予測している。こうしたトレンドのキャプチャを得意とするノキアは、世界に影響を及ぼす技術トレンドとしてメタバース、クラウド、Web3という3つの領域、そしてこれらに深く関わるAI/MLに着目。また、こうした技術の領域以外では、脱グローバル化や、ミレニアル世代・Z世代による消費行動の変化といった新しい要件にも目を向ける必要があるという。
本記事では、柳橋氏の解説を基に、脱グローバル化、サイバーセキュリティ、カーボンニュートラル、デジタルネイティブといった、ネットワークを取り巻く環境におけるそれぞれの変化と課題を明確にした後、ノキアのメタバースに対する考えをご紹介する。
1:脱グローバル化は、標準化や調達の決定など多方面に影響を及ぼす
グローバル化した経済は基本的にオープン性を高めていく方向に進んでいく傾向にある。だが歴史を振り返ると、その例外となった脱グローバル化のケースとして、第一次世界大戦後の状況や、世界恐慌による保護主義があった。そして柳橋氏は「我々は現在、不況、ポピュリズム、地政学が牽引する、脱グローバル化の第二の波に直面している」と指摘し、その影響による見逃せないトピックとして次を挙げている。
・サプライチェーン
・技術主権(調達に関するガイドライン)
・ネットワークアーキテクチャ
・標準化のプロセス
・セキュリティ
2:ポスト量子コンピュータを含むサイバーセキュリティ対策は、人類の生命にとって差し迫った脅威となる
デジタル化は生物学的・物理学的世界に浸透しつつあり、セキュリティは生死に関わる問題となっている。また、サイバー犯罪は急速に増加しており、プライバシーは極めて重要なセキュリティ問題になっている。そうした中、IC3機関は、2020年のサイバー犯罪の被害額は40億米ドルを超えると報告している。
柳橋氏は「サイバー犯罪によって引き起こされている損害額は、年々、指数関数的に増えている状況となっている。その一旦を担っているのがテクノロジーの進化であり、AIマシンラーニング等はその最たるものだ。さらに量子コンピューティングに目を向けると、例えば63量子ビットの量子コンピューティングの処理能力を従来型のコンピュータで再現しようとすれば一世紀という膨大な時間が必要となるので、量子コンピューティングがどれだけ破壊的な能力を持っているかが読み解ける」と警鐘を鳴らす。
近年のセキュリティの状況として、堅牢性の高い2048ビットの鍵を持つRSA暗号方式が広く使われており、この暗号を解読するには4099 量子ビットが必要とされている。
サイバー犯罪者による2048-RSA解読の可能性を考えた時、現在の利用可能な量子コンピューティングは数百量子ビットであり、近々に1121量子ビットの登場が想定されているので、現実的ではないと判る。だが柳橋氏は「まだ時間的な猶予があるかのように思われているが、実はそうではない。例えば、今のうちに秘密性の高い情報を取り分けておいて、将来にその暗号を解くことができる量子コンピューティングを利用することが可能だ。そのため、量子コンピューティング対策は今日の喫緊の課題として認識する必要がある」と指摘している。
3:カーボンニュートラルの旅は、まだ初期段階
ESGは、ノキアが真剣に取り組んでいる領域の一つであり、2030年に向けた取り組みとして引き続き重視しているという。この領域において、多くの通信事業者や企業がScope1と2のみに焦点を当てている中、柳橋氏は「ノキアでは、Scope3にも関心を向けていく必要があると考えている」と話す。
柳橋氏はCDPのデータを引用し、Scope3の上流活動と下流活動の排出量を合わせると全体の70%を占めるとし、Scope1と2を足しても全体の30%にすぎないと指摘した。
柳橋氏は「Scope3は排出量に対処する可能性のある最大の領域であり、これからの企業活動の中でカーボンニュートラルに取り組むという意味において関心を向けていく必要がある」とし、「ノキアの場合、上流活動は基地局のような製品を様々な部材を調達して組み上げて製品を製造する過程で必要な温室効果ガスであり、下流活動はノキアの製品を販売・納品そしてお客様がご使用する中で間接的に排出されている温室効果ガスとなる。ノキアは2030年に向け、引き続き重要な領域の一つとして取り組んでいく」と説明している。
4:ネットワークは、ミレニアル世代とZ世代による消費者行動の変化に備えなくてはならない
2030年の世界人口予測では、ミレニアル世代とZ世代が約70%を占めるとされている (出典:Population Pyramids of the World from 1950 to 2100) 。これは、2030年の労働人口全体の約70%をデジタルネイティブの世代が占める、と言い換えることもできる。これにより消費者行動が変化するので、ネットワークもそれに備える必要があるというのがノキアの考えだ。
柳橋氏は「McKinsey の分析によると、ミレニアル世代とZ世代の特長として、新しい体験に貪欲であり、物ではなく事・時間にお金を消費する傾向が非常に強いとされている。通信事業者様は、そういったユーザ様の要求を満たすために、今まで以上にダイナミックでフレキシブル、アジャイルなサービスを提供できるインフラストラクチャである必要がある。その消費行動の変化に伴うネットワークの進化というものは、非常に重要な要素になってくる」と話している。
Report目次
1:低消費電力等でSociety 5.0に向けたデジタル化を推進
2:ネットワークを取り巻く環境の課題