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Orbray (旧アダマンド並木精密宝石)が、秋田県湯沢市での新工場建設、一部本社移転の計画を発表【2】

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新本社・新工場の建設

 今回の土地選定は、横手市、湯沢市含めて検討を行なったという。和田氏は「横手市においては、県内外企業による工場進出が近年続いており、現在の工業団地の充分な空きがない状況だ。そうした中、湯沢市を新本社・新工場の建設地に選んだ」と説明している。
 成沢工業団地は、湯沢インターチェンジより北へ2,3kmのロケーションにある。その隣に、秋田県の所有地である旧湯沢商工高校跡地がある。和田氏は「今回、成沢工業団地および県所有地を一体での購入を考えている。土地の購入価格は両物件合わせて約4億円だ」と話している。
 今回の新工場は、この成沢工業団地および県所有地、そしてその近隣で今年の夏に稼働予定の岩崎工場(仮称)を合わせた、大きな一つのまとまりとして位置付けられている。
 現在、湯沢工場にある時計とレコード針製造部署などが、岩崎工場(仮称)へ移転する予定だという。

成沢工業団地:33,155㎡
県所有地  :22,334㎡
岩崎工場  :15,296㎡

新工場の建設構想

 新工場の建設に関する基本方針については、次の6項目に分けて説明された。

1)本社機能の一部移転および工場の再編集約:対象は湯沢工場、湯沢第二工場、横手工場、一部近隣外注になる。今後五年から十年後を目処に、本社や工場の老朽化対策および事業強化策として、本社機能の一部移転および次世代商品開発生産に対応した工場の再編集約を進める。
 旧湯沢商工高校跡地および成沢工業団地の空き区画を購入し、新工場を建設、既存工場プラス一部近隣外注を集約するとともに、本社機能を一部移転、一部近隣外注をサポートする。

2)秋田県湯沢市への本社移転登記:現在の本社は東京都足立区。その本社機能を一部移転後、秋田県湯沢市への本社移転登記を実施する。新本社の組織機能は、今年中に大枠を確定させる予定。

3)人員体制の増強:現状の湯沢・横手工場人員体制は700名強だが、更なる事業強化・近隣外注へのサポート、本社機能の一部移転により、800名強への体制増強を図っていく。今後、年間10~15名の新卒・中途採用を計画。この中には定年退職者の補充も含まれる。

4)魅せる工場作り、魅力ある職場作り:来工者が、この会社と繋がりを持ちたいと思うような快適な空間。充実した展示スペース、視聴室、体験工房など、一般の来工者も楽しめるスペースを作る。
 女性視点のレイアウト。他部署との交流が盛んな風通しの良い現場作り。リフレッシュルーム、交流スペースの検討など。

5)社員寮の建設、遠方通勤者への手当:近年、採用競争が激化している中、遠方・近隣他県からの採用および海外研修生向けの社員寮建設も併せて計画している。
 地域に対するエンゲージメント強化を目的とした、若手社員同士の交流イベント。これは社内と他社間の両方を含む。
 遠方通勤者向けの車便、最寄り駅(下湯沢駅)からの車送迎、遠距離に応じた通勤手当およびシフト勤務など検討する。

6)その他:今回の新本社新工場の総投資額は、100億円強を想定。
 補助金など勘案した実質負担額は、70~80億円前後になると想定。なお、今後の設計および建設作業の中で多少変動する可能性がある。
 湯沢市の既存工場(湯沢、湯沢第二)は、外部への売却を考えている。横手工場は現在検討中の新規ビジネスの兼ね合いもあり、今年中に最終方針を判断する。
 立体駐車場ないし屋内駐車場を現在検討中。
 新工場にかかる70~80億円の実質負担額への対応について和田氏は「手元預金、現預金残高は100億円あり、そのうち余剰現預金は数十億円ある。それに加え、今後の収益で賄う。弊社グループは年間15~20億円の利益を計画しているので、返済に特段の支障はない」と説明している。

新本社・新工場の建設スケジュール

 スケジュールは大きく三つに分かれる。

第一期工事(2025年後半~2026年)
【新本社建設】

・新本社社屋建設による、本社機能および工場間接の一部機能移転を開始。
・2026年前後、新本社への本社移転登記を実施。

第二期工事(2026年後半~2029年)
【湯沢工場、湯沢第二工場より移転】

・工場建設による、湯沢工場、湯沢第二工場から新工場への移転を実施。

第三期工事(2030年~2032年)
【横手工場より移転】

・工場建設による、横手工場からの移転を実施。

 和田氏は「新本社の組織・機能は本年中に大枠を確定させる予定だ。新本社・新工場のレイアウト面積などは、本年後半から来年での建築設計にて詳細の検討を予定している。規模感として、新本社は5,000㎡前後、工場は30,000㎡前後を想定している」と説明しており、「新本社および新工場が地域に根付き信頼され、秋田県の県南地域の活性化に貢献するとともに、地域社会に愛される企業となるべく取り組み、将来長期的な発展につなげていく」との展望を語っている。

岩崎工場(仮称)のコンセプト

 新工場の中でもいち早い、今年の夏に稼働予定の岩崎工場(仮称)。そのコンセプトは大きく3つある。

環境への配慮
・秋田県で生産された素材・製品を多く使用。近隣の秋田木工、また照明については秋田県に生産工場のある企業のものを採用する。
・湯沢工場で使用していた家具を転用し、別の家具へとリサイクルする。
・緑豊かなリフレッシュエリアの創出。地元の園芸店にメンテナンスを依頼する。

エンゲージメント
・光溢れる気持ちの良いエントランスおよび食堂エリアを提供。
・図書エリアやカフェスペースを設けることで、そこに行けば何かに出会える場所づくり。
・レコードブースなど、同工場で造っているものに直接触れることのできるスペースを設ける。

フレキシビリティ
・作り込まないインテリアとする事で、今後の変化に備えてカスタマイズしやすい空間を提供する。
・食堂の機能だけでなくWi-Fi環境、電源タップを充実させ、ミーティングでの利用や地域の学生の利用など、地域に開かれた空間を作る。

岩崎工場(仮称)の外観。レコード針やサファイア基板をモチーフに「切る、削る、磨く」のOrbrayの技術力を表現している。既存のダクトや窓などに重ならない位置にステンレスのプレートを配置することで、もともとの建物の歴史も尊重したデザインとなっている。建物の裏にもOrbrayのロゴを配置し、高速道路からも見えるようにするという。
エントランス、食堂のリニューアル含め、日建設計の建築家である伊庭野 大輔氏が担当。同氏はスペインの国立競技場カンプ・ノウの建築も担当している、国内外で活躍する建築家だ。
並木氏は「屋内は、ガラス窓を使用した光あふれる開放的なエントランスとなる。国内外で活躍する写真家による秋田湯沢の風景写真を展示して、県外からのお客様にも秋田県の魅力をアピールしていく。食堂は、地域に開かれたスペースを提供していきたい」と話している。

並木社長の、新本社・新工場への想い

Orbray
代表取締役社長
並木 里也子氏

 Orbrayには、湯沢市の誘致企業の第一号という歴史があり、昭和39年に創業者が一番初めの工場建設に選んだ土地が湯沢市だった。当時の秋田県では、出稼ぎとしての労働力が流出して行くために深刻な家庭崩壊の問題が起き、農山村の過疎化が問題となっていたことから、Orbrayは農家の収入の経済効果を高めるため、納屋工場や、農家のパートタイムの仕事を作った。さらに、当時は移動手段の無かった地域にバスを巡回させたことで、遠方の人材の確保に努めた。
 そして現在、秋田県が抱える大きな問題として人口の減少、特に学生・女性の人口流出が問題となっている。そこでOrbrayは、地域活性化をめざし、若い人や女性に働きたいと思ってもらえる場所、故郷に帰って来られる場所を作っていくという。今後、地域活性化の町おこしとして、次の取り組みを挙げている。
・社員寮の建設。これは、近隣企業との連携も視野に入れている。
・保育所の併設。子育て世代を応援していく。
・湯沢市との60年の付き合いを活かし、地域と協力、連携していく。
・再生可能エネルギーの有効活用等に取り組む。

 並木氏は「雇用については、湯沢市内の今年3月に卒業する学生へのアンケートにて、実は45%の学生たちが地元で働きたいという意思があることが分った。つまり、将来期待できる優秀な人材が県外に流出しているということだ。私たちの取り組みは、市内の優秀な人材確保の助けになると考えている」としており、「Orbrayに今年入社した新入社員の人数は、横手工場で7名、湯沢工場で9名の、合計16名だ。年間で10~15人の計画があり、今後の採用については特に心配はしていない。しかし、新入社員16名の中で女性は3名というのが現状だ。女性が働きやすい企業をめざす理由はここにある。しっかりと女性の活躍しやすい、働きやすい職場を作っていく。私自身、主婦経験もあり、3人の子供がいる。私自身が取り組んでいくことで、しっかりと実現させていく」と話している。

 Orbrayは、秋田から世界へ挑戦する企業となることをめざしており、並木氏はその実現の為に、地域へのコミットメントをトップ自身が進める必要があると考えているという。同氏は「今後、今まで以上に地域への貢献事業活動に取り組みたいと考えており、私自身も湯沢市への移住を予定している。私はアメリカ、上海、スイスと世界各国に住んだ経験があり、その中でも秋田県の安全な土地と食べ物が好きで、秋田の自然環境の中で子育てもしていきたいと思っている。そして、今後更に従業員の皆さん、地域の皆さんに寄り添って仕事をして行きたいという強い想いがある」と話している。

Orbrayと湯沢市
 Orbrayの創業者が最初の工場進出で湯沢市を選んだ理由は、当時の秋田県知事からの強力な誘いが有ったことの他、秋田県で一番困っていた地域であったこと、そして土地柄が技術職人の町があるスイスに似ていたことだったという。並木氏は「困っている地域というのは、この地にポテンシャルがあるという祖父(創業者:並木一氏)の先見の明があった。私も、誰もやっていないことにチャンスがあると信じている」と話す。
 創業者である並木一氏の自伝には湯沢市についても記されており、その章のタイトルは『人のやらないことをする 並木一の経営哲学』だという。並木氏はその章の一部を抜粋し、『小畑知事の強力な要請に対して、今後十年、若い労働力を供給できる地域を探して欲しいと条件を出すと、湯沢市を推薦してきた。秋田湯沢はスイスに似ているところがあった。ロンジンという時計会社のある、スイスの田舎の風景に似ている。景色は多少違うが、高台にある工場、低温多湿で良質な水に恵まれている。水質の良さは、爛漫、両関などの日本酒の生産地であることでも証明される。セイコー、シチズンなどが東北に進出していた経緯もあり、ここに決めた。集中力を要する仕事だから、雪に閉じ込められて暮らしている人たちの忍耐のある労働力も適していた。私自身、小柄で弱い体を鍛えるために若い頃からやっていたスキーもできる。雪の多いところというのも気に入った』と紹介。
 並木氏は「祖父が、60年前に湯沢の農地を開拓し、雇用を生み出し、チャレンジをしていたことは、私自身、大変励みになる。今後も湯沢市、秋田県また関係各所と連携を密にしながら、地域活性化に向けて、湯沢のみならず秋田県全域を盛り上げていきたい」とし、「今回の新本社・新工場の構想は、私たちOrbrayが百年先も続く企業であるための第2の創業と考えている」との想いを述べた。

目次

【1】業績の推移 / 中期計画

【2】新本社・新工場の建設 / 岩崎工場(仮称)のコンセプト / 並木社長の、新本社・新工場への想い