Orbray (旧アダマンド並木精密宝石)が、秋田県湯沢市での新工場建設、一部本社移転の計画を発表【1】
SpecialReport 有料 Orbray (オーブレー)は5月25日、秋田県湯沢市での新工場建設、一部本社移転の計画を発表し、同市との調印式および記者会見を開いた。
Orbrayの代表取締役社長である並木 里也子氏は「今回の新本社・新工場の構想は、私たちOrbrayが百年先も続く企業であるための第2の創業と考えている」と意気込みを示している。
工業用宝石部品、光通信部品、DCコアレスモーター、医療装置、その他精密部品の製造・販売を手掛けるOrbray。同社は、赤字だった業績を2018年にV字回復させており、その後の業績も順調に推移している。そうした実績を示した経営陣が未来を見据えて取り組む新本社・新工場の狙いはどういったものなのか。
今回の記事では、記者会見で示された同社の業績の推移、新本社・新工場の役割、そして本件に対する並木氏の想いについて纏めた。
(OPTCOM編集部 柿沼毅郎)
業績の推移
グループ連結の売上と営業利益の推移
2016年、2017年では、サファイアなど一部事業が不振で、-10億円~-20億円の赤字だった。その対策として、湯沢(秋田県)、黒石(青森県)、中国などの事業所を中心に人員削減、拠点整理、ボーナス削減など大規模な構造改革を実施。同時に旧並木精密宝石と旧アダマンドの合併も実施した。以降、2018年には業績が黒字回復し、2019年も続いた。
2020年にコロナショックで減収減益となったが、2021年以降は湯沢工場の精密宝石部品、横手工場(秋田県)の光通信部品含めて全社的に売り上げが成長し、2022年の売上は249億円、営業利益は39億円と大きく改善した。
Orbrayの代表取締役副社長である和田 統氏は「今期2023年は売上が若干減少するが、15億円の営業利益は確保できる見通しだ」と話す。
グループ連結の財務推移
業績改善に伴い、財務も大きく改善している。
2017年では純資産が50億円、借入金は100億円と厳しい状況にあったが、2022、23年の純資産は150億円と2017年比で3倍の増加に改善した。また、2020~23年の借入金は50億円と、2017年比で半分となる大幅削減を実現している。
和田氏は「現預金は、100億円近い水準を確保できている。これら業績財務改善を受け、これまでの再建フェイズに目処が立った。今後、長期将来に向けた事業策を講じていける状況まで改善できた」と説明している。
中期計画
中期計画の詳細は今年中の具体化を予定しており、今回はその概要として、今後5年間、2028年にかけて更なる売上の成長を計画していることが示された。2028年の売上高は320億円、営業利益は30億円、従業員数は2,400人への成長を計画。引き続き、更なる売上成長を軸に積極投資および人員増強を図っていくという。次に、その実現のための主要施策を見ていきたい。
横手工場と湯沢工場のフォトニクス事業部、精密宝石事業部、ダイヤモンド研究所では、2028年は売上160億円を計画している。和田氏は「2022年の横手工場と湯沢工場を合わせた売上は140億円弱という状況だ。横手工場は通信の事業、湯沢工場は半導体、時計、アナログレコードと、基本的に無くなる需要では無いので、既存の需要のまま横這いで推移すると予測している」とし、「そこからのプラスアルファとしては、現在、人工ダイヤモンド基板でのEVや半導体関連が多くの企業様より引き合いを頂いているので、売上強化につなげていく。また、EV部品を柱とした新規ビジネスを本格的に立ち上げる。EVに関しては現在、アライアンスやM&A含めた様々な引き合いをいただいている。それを、本年中に方向性をまとめる予定だ。加えて、工場の老朽化対策および新規ビジネス強化の目的で、新工場を建設する」と説明している。
モーターと医療装置に関して、2028年は売上160億円を計画している。和田氏は「売上強化の中心は、医療用ポンプの新製品の本格立ち上げになる。すでにお客様より引き合いを頂いており、今後の大幅な売上増加の確度は高まっている。加えて医療用・ロボット用の小型モーターを強化していく」と説明している。
湯沢工場、横手工場で取り組む課題と方向性
国内の製造拠点の体制は、現在、湯沢工場と横手工場を合わせて約700名、黒石工場は約100名、東京本社は約200名、合計で約1,000名となる。湯沢市の工場は二か所あり、愛宕町にある湯沢工場と山田にある湯沢第二工場がある。また海外製造拠点はタイのチェンマイにあり、現在1,000名の体制だ。
主力製品
湯沢工場:精密宝石部品。主に半導体用の基板や消耗材、時計の外装品、レコード針、人工ダイヤモンドなどを製造している。
横手工場:光通信部品。フェルール、スリーブなど光コネクタ部品や、ファイバアレイなどを製造。また、ジルコニアパウダーを使用した、歯科用のデンタルブロックも製造している。
和田氏は「当社の業績財務が大きく改善した中、将来の長期継続発展に向けた足元固めを今後しっかり取り組んでいく」としており、湯沢工場、横手工場において今後取り組むべき課題と方向性について、次の4点を挙げた。
1)建物インフラの老朽化問題:特に東京本社や湯沢工場では築年数が50年超となる建物が多数あり、今後、抜本対策に取り組む。
2)新規事業の取り組み強化:EV部品など新規ビジネス立ち上げについて、湯沢と横手が一体となって取り組む。手法として、アライアンスおよびM&A含めて現在検討中だという。加えて人工ダイヤモンド基板の売り上げも強化する。
3)地域におけるブランド魅力度向上、魅力ある拠点作り:現状、湯沢工場、湯沢第二工場、横手工場それぞれの人数規模は、秋田県県南地域の全工場の中で5~10番手となっている。今後、少子化採用競争激化に対応すべく、地域における位置付け、ブランド魅力度を更に高める。
4)事業承継リスクへの対応:和田氏は「現状、湯沢および横手工場でお付き合いさせていただいている近隣外注の数は20数社、200数十名の従業員がいらっしゃる。現在、20数社の近隣外注の中には、経営者、従業員の高齢化などにより事業承継に不安を抱える方々も一部いらっしゃる。今後、近隣外注のサポート含め検討していく」と話す。
これら4つの課題に対する抜本対策として、湯沢市の成沢に新本社・新工場を建設する方針だという。
目次
【1】業績の推移 / 中期計画