通信、電力分野で培った知見を活かす、ミライトグループの新事業拡大
SpecialReport 有料 ミライト・ホールディングスは11月12日、2021年3月期第2四半期の決算、および今後の経営方針として同グループの中核企業3社を合併することを発表した。
同社の業績はコロナ禍でも好調だが、速報でもお伝えした通り、同グループをとりまく事業環境の急速な変化から、合併により事業構造の転換を加速するという。同日に開催された記者説明会で、ミライト・ホールディングスの代表取締役社長である中山俊樹氏は「事業環境の認識として非常に強い危機感がある。そこで、新分野への事業拡大という事業構造の転換を図った」と述べ、今後の成長市場であるDXやスマートシティに対する期待と、同市場に対するミライトグループの強みや実績を語った。
本レポートでは、中山氏が記者説明会で述べた各決算項目の見解、そして今後のビジョンについて纏めた。
(OPTCOM編集部 柿沼毅郎)
2021年3月期第2四半期の決算
決算発表によると、売上高は前年同期比で88億円増の1,917億円であり、五期連続増収と同時に過去最高更新だったという。中山氏は「コロナ禍の影響は少なからずあったが、我々のお客様である通信キャリア各社は重要な社会インフラである工事を継続した。当社グループもそれを継続し、工事の進捗に努めた。その結果、全体的には大口案件が無かったことが減収として働いた面もあったが、NTT事業部門、マルチキャリア事業部門、ICT事業部門の増収により、過去最高を更新した」と説明している。
営業利益は前年同期比で18億円増の67億円で、こちらも過去最高を更新した。中山氏は「増益となった要因は売上増だ。工事総利率が前年よりも0.2%改善した。また業務効率化を推進し販管費率が0.3%減少したということが増益に結び付いている。一昨年、弊社グループはTTK、ソルコム、四国通研の三社との経営統合があり、そのシナジーの効果が徐々に表れてきていると認識している」と話す。
当期純利益は前年同期比で14億円増の47億円。こちらも中間の決算としては過去最高となる。中山氏は「シンプルに営業利益が好調だったことに加えて、営業外の特別利益、例えば政策保有株式の売却などもあり、14億円の増益となった」としている。
2021年3月期の修正業績予想
ミライト・ホールディングスは、下期を含めた21年3月期の業績予想の修正を考えているという。中山氏は「策定時は年度の当初ということで、コロナの影響が非常に不透明な時期であり、経営の意志としては前年並みの水準を維持したいということで策定た。それから半年が経ち、コロナの影響はまだ不透明であり不確定要素も有るが、上期の決算が比較的好調に推移している事、さらに、改めて各事業部門の対応状況等を確認して、再策定をして、精査をしたうえで業績予想を若干上方修正した」と説明している。
修正業績予想は次の通り。
受注高 :4,500億円(+200億円)
売上高 :4,450億円(+100億円)
営業利益: 230億円(+10億円)
当期利益: 160億円(+5億円)
一株当たりの配当は5円の増配となる45円。中山氏は「上期の増収増益の結果、それから業績予想の情報の修正、あわせて、ミライト・ホールディングス10周年ということもあり、中間と期末それぞれ2.5円ずつ増配となった。これにより配当性向は30.3%になる予定だ」としている。
中核3社の合併により、Bマーケットに向け事業構造を転換
ミライト・ホールディングスは同日の取締役会で、ミライト・ホールディングス、ミライト、ミライト・テクノロジーズの3社の合併を決議した。中山氏はその理由について「事業環境の認識として、非常に強い危機感があった」と述べている。
同社グループを取り巻く事業環境を見ると、主軸である通信キャリアの設備投資が減少しており、そのキャリア自身はサービスソリューション事業へのシフトを進めている。また建設業界は厳しい人手不足だという。中山氏は「通信キャリア様自身が業態をサービス事業に変化させることで新しい道を切り開かれている。また、建設業界の人手不足が解消されることは見込めないので、我々自身の業態を労働集約ではない分野に変えていく必要に迫られている」と話している。
そこで同社グループが活路を見出しているのが、DXが象徴しているような企業・官公庁(Bマーケット)向けのICTソリューション事業だ。同社は既にこの分野での実績を伸ばしており、2019年度の事業構造を見ると、中核であるキャリア向けの通信建設事業の比率が57%であるのに対し、Bマーケット向けのソリューション事業の比率は43%となっている。中山氏は「我々は“超・通建会社”を目指す。2022年にはキャリア向けの通信建設事業とBマーケット向けのソリューション事業の比率を50%ずつにし、その後もBマーケット向けの比率を増やしていく。今回発表した3社合併の狙いは、この事業構造の転換に尽きる」と話す。
ミライトグループはこの事業構造の転換により、自社の体制も大きく変化せざるを得ない。例えば営業面では、キャリア向けの事業では通信事業者やCATV事業者への提案だったものが、Bマーケット向けでは企業や自治体含む官公庁にも提案していくことになるので、営業先の数は数百、数千社と一気に膨れ上がる。中山氏は「こうした営業は世の中の企業では当たり前にやられていることだが、我々、通信建設業にとっては非常に大きなビジネスモデルの変化だ。今回の合併では、新しい事業分野においてミライトとミライト・テクノロジーズがそれぞれ運用しているリソースを一本化し、1つの事業計画、営業戦略、サービス提供戦略で、ワンユニットで運営していく。この合併は、グループ内の再編成が大きな狙いだ」としており、「ホールディングスを存続会社とする2社の吸収合併となる。定款変更のため株主総会決議が必要なものとなる。合併の日程は2022年度の早期の予定だ」と説明している。
4つのフロンティア事業
最後に、新しく注力する事業分野におけるミライトグループの強みを見ていきたい。彼らが広げるフロンティア事業は4つ。「IoT・5G」「エネルギーマネジメント(EMS)」「スマートシティ(土木等)」「グローバルエンジニアリング」だ。
IoT・5G
まず、企業や自治体のDXを支えるIoTや5Gに関しては、通信キャリア事業で培ってきた圧倒的なアドバンテージがある。実際のDX構築に際しては、無線の伝搬に対する知見が非常に重要なスキルとなる。無線規格の広帯域化が進むにつれて、電波の指向性は強くなる。今まさに注目を集めているローカル5Gも、特に屋内では無線の反射などの特性に精通していなければ効率的な無線環境を構築することはできない。これに関しては、通信建設業者、そして通信キャリア、通信機器ベンダ、SIerが抜きんでており、エコシステムを組む上で彼らの存在は欠かせないだろう。
また、ミライトグループは大阪でDCを建設して運用しているほか、今年7月にはドローン事業を専門とする企業「ミラテクドローン」を設立しており、既にパイロットの養成で高い評価を得ている。中山氏は「これから日本中のインフラが設備点検で非常に悩まれると思う。膨大なコストがかかるので、これをどうやって正確に、かつ簡素に実施していくのかは大きなテーマだ。ミラテクドローンではこうした設備点検分野を中心として幅広いサービスメニューの提供により、インフラ設備会社、地方公共団体、ビル管理会社、農業法人等を対象に事業展開をしている」と話す。
EMS
日本政府がCO2などの温室効果ガスの排出量を2050年までに実質ゼロにすることを掲げていることもあり、EMS市場も活況だ。ミライトグループは、EMSでも自治体を中心に実績を増やしているという。中山氏は「VPP(仮想発電所)のような、世の中から脚光を浴びている新しい取り組みに関しても、POCレベルだが幾つか参加している。我々は通信だけでなく電気の分野でも70年以上にわたり取り組み、一定のポジションを得ている。電気やエネルギーの分野で我々が貢献していくことは十分に可能性のあることだと思っている。この市場の新しい流れ、社会のトレンドというのが、我々としては新しいターニングポイントになっていく」と話す。
スマートシティ
ミライトグループには、通信建設で培った土木工事のスキルがある。スマートシティの分野では、道路や河川の下に張り巡らされている通信路を構築してきた知見を活かすという。中山氏は「地中の水道・ガスインフラの老朽化は社会問題となっている。これをAI診断し、劣化ヵ所を判別し、効率よく保守をしていくサービスの提供を始めた。また、地中の工事では、地中にセンサを入れて、見える化、デジタルデータ化するデジタルツインにも取り組んでいる。地中を見える化することは、作業の効率化や安全を確保に繋がる」と説明している。
グローバルエンジニアリング
海外での展開は、LAN 配線の設計・施工・保守・コンサルティング業務を中心にアジアでビジネスを展開している子会社、Lantrovisionが軸となる。中山氏は「Lantrovisionはインターネット系企業や銀行系にDCのビジネスを頂いており、非常に優良なお客様に恵まれている状況だ。今年から中国で基地局シェアリングのビジネスをスタートし、着々と建設を進めている。中国においてタワーシェアのビジネスを展開して、新しい5Gの世界に貢献していきたい」と話している。