三菱電機の通信・映像ソリューション ~郡山工場の展示会と、IoTで効率化を実現した新生産棟~(1)
SpecialReport 有料三菱電機は昨年10月、コミュニケーション・ネットワーク製作所の新生産棟を、福島県にある同社の郡山工場内に建設している。この生産棟は光通信機器、無線通信機器、映像監視システム(ネットワークカメラ)の生産拠点となっており、竣工時には、これらの製品の生産規模を増強することで、IoT社会の進展による通信トラフィックの増加をはじめ、ビッグデータやAIを活用したソリューションの多様化などにより需要拡大に対応する、と目標を示していた。
それから一年が経った2019年10月10日と11日、三菱電機は同工場で展示会を開催。展示テーマを「安心・安全な社会に貢献する三菱電機の通信・映像ソリューション」とし、映像セキュリティにおける「業種別ソリューション」「画像解析ソリューション」及び、「光通信システム・無線通信システムとの連携ソリューション」が紹介された。三菱電機 通信システム事業本部 コミュニケーション・ネットワーク製作所長の清水克宏氏は「三菱電機全体の取り組みとして、社会インフラ、産業、生活、交通における様々な課題に対して、技術とサービスでソリューションを展開していく。その中で、コミュニケーション・ネットワーク製作所が担当している通信・映像伝送は必要性が増している分野なので、我々の責任として、これらの技術を用いて力になりたいと考えている」と話す。
今回は清水所長から展示内容をご説明いただくと共に、新生産棟でネットワークカメラや10G-EPONを製造している様子を特別に見せていただいた。
(OPTCOM編集部 柿沼毅郎)
コミュニケーション・ネットワーク製作所が扱う製品
三菱電機が提供する光通信製品は、アクセス系のPON、メトロ系のWDMやRODAM、そしてコア系のOXCと幅広い。また、ホームゲートウェイや、工場など施設向けのIoT装置も提供している。
無線製品は、列車無線やスマートメーター用通信ユニットを扱っている。同社の列車無線システムは長年にわたり鉄道分野で活用されており、指令室と各電車を無線で繋ぐシステム、特に最近では信号の代わりに無線で列車の停車や発車を決める制御システムも実績を伸ばしており、新幹線、在来線で高いシェアを獲得している。スマートメーターの分野では電力用の自動検針システムを扱っており、従来は人手で行っていた電力検診を無線で収集できる製品は、既に1,000万台以上の出荷実績があるという。
映像監視システムでは、ネットワークカメラから映像解析ソリューションまで手掛けている。清水所長は「以前のカメラやレコーダは撮影して保存しておくものだったが、最近はネットワークに接続することで、セキュリティ、センサの効率化、そういった目的に合わせてAIを駆使するケースがどんどん増えている。ネットワークカメラを、このAIの技術、そして無線や光のネットワーク技術を組み合わせることで様々なソリューションを提供していきたいというのが、我々の考え方になっている」と話す。
展示ソリューション
展示会場では、「骨紋」「映紋」といった同社が商標登録している画像処理技術を使った「製造業向けソリューション」を郡山工場での使用例を交えて紹介。高機能なカメラを使った「防災・減災対策ソリューション」も紹介されていた。光通信を使ったカメラ映像伝送では、PONシステムを使ったデモが実施されていた。その他、混雑検出等の画像解析や、顔認証システムを使った特定人物検知などの「店舗向けソリューション」や、カメラ映像上の人・物・状況を自動検知する「画像解析ソリューション」、施設の規模別に最適化された監視カメラシステムのラインアップも紹介されていた。
AIでカメラ映像から特定の動作を自動検出する「骨紋」
清水所長が「来年度以降の技術」と話す「骨紋」は、三菱電機のAI技術「Maisart(マイサート)」を用いて、カメラ映像から作業者の骨格情報を抽出・分析し、特定の動作を自動検出する作業分析ソリューション。生産現場の作業者の動きをカメラで撮影するだけで作業内容を認識・特定し、作業時間や作業ミス・無駄を自動検出することで作業分析を効率化でき、生産現場の生産性向上に貢献する。
技術の原理は、カメラ映像から抽出した2次元の骨格情報をAIで分析し、作業内容を90%の精度で特定するというもの。その特定結果から作業時間や作業ミスを自動検出する。同社工場による検証では、監督者による作業分析工数を10分の1に削減できたという。
この「骨紋」で得られた情報を、疲労を最も少なくして有効な仕事量を増やす「動作経済の原則」に基づき骨格の動きを分析することにより、目視では見逃しがちな無理、無駄などの体の動きの課題を自動検出して見える化できる。今後、同社の生産現場への試験導入を通じて実用化開発を進め、製造工程監視装置や作業分析ソフトウエアとして、2020年度以降、順次市場投入する予定だという。
カメラ映像から作業者の動作を表す「映紋」を抽出
「映紋」は、AIを使わない非常にシンプルな画像処理技術であり、映像データに含まれる動き情報をコンパクトなパラメータで表すことができる。例えば、基準となる代表作業の「映紋」との比較により、作業時間の自動計測を簡単に実現できる。また、作業抜けや手順間違いの認識など、不良品を作り込む作業を特定できるので、品質向上や生産性向上に役立てることができる。
映像データに含まれる動き情報を活用するため、解析処理が軽く、センサなどの特別なハードウェアは不要になる等、コストパフォーマンスに優れている点が特長だ。
高機能カメラによる防災・減災対策
「防災・減災対策ソリューション」では、道路や河川監視で活躍している高機能旋回カメラを中心とした屋外カメラシステムを、各種要素技術と運用事例を通して紹介。カメラが旋回している最中でも方位方向が分かるように文字表示する機能や、トンネル内からの撮影で逆光でも被写体を把握できるWDR(ワイドダイナミックレンジ)機能、自動車の振動や風の影響を最小限にする揺れ補正機能のデモが行われていた。
光通信を使ったカメラ映像伝送
カメラと伝送システムを組み合わせたソリューションでは、PON方式が使われていた。デモは、4台のカメラをONUで集約して20km伝送し、OLT側のレコーダに記録するという構成。
また、三菱電機ではNTTドコモの5Gオープンプログラムパートナー企業として、5Gを利用したネットワークカメラ・ソリューションの検証を推進している。ドコモ5Gオープンラボの性能評価では、上りのH.264 FDH映像×16ストリームを実証し、遅延はLTEの1/10以下で有線LANと同等だったという。一回線で複数カメラ映像を伝送でき、カメラ操作が遠隔から低遅延で可能になる。清水所長は「5Gが普及していくと共に、カメラ映像を更に高解像度化したIoTが次々と出てくるだろう。そうして5Gでの無線伝送容量が大きくなれば、より遠くへ伝送するための光回線の伝送容量も大きくなっていく。その光回線が10Gなのか、それよりも少なくても良いのかというのは、様々な議論があるところだ」と話している。