光通信技術セミナー企画委員インタビュー:佐藤 良明氏【NTTエレクトロニクス】
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FOE-S
2023年 日本国際賞 受賞記念講演
■コースリーダー
NTTエレクトロニクス(株)佐藤 良明
■講演者
東北大学 中沢 正隆
国立研究開発法人情報通信研究機構 萩本 和男
中沢博士と萩本氏が、「半導体レーザ励起光増幅器の開発を中心とする光ファイバ網の長距離大容量化への顕著な貢献」により2023年日本国際賞(Japan Prize)を受賞した。
本講演は、その受賞を記念してセッティングされたものであり、中沢博士よりEDFAの発明の経緯とその後の光通信の発展について紹介。そして、萩本氏よりシステム側からのアプローチについて、経済化や標準化の取り組みも含めて紹介される。
今でこそ光通信に当たり前に使われているEDFA。中沢博士は、エルビウム添加ファイバを1.48 µmの波長の光を出す半導体レーザで励起することを世界で初めて提案した。これにより、それまで1.5m四方もある大がかりな励起光源を必要としていた光増幅器が、小型で電池でも駆動できる可能性が示された。これを受けて、萩本氏はすぐに実用的な光通信システムの構築に着手し、開発されたばかりの約10cm四方まで小型化したEDFAを用いて、1.8Gbpsの強度変調直接検波方式で試験を実施し、212kmの長距離伝送が可能であるという結果を得た。この成功により、光増幅器の実用性が世界で初めて実証され、その技術が非常に優れていることが認められたことから、開発からわずか5年ほどで世界を結ぶ幹線系長距離伝送網に採用されることになった。
こうして1990年代に導入された光増幅は、周知のとおり現在の光通信でも重要な役割を果たしている技術であり、ほかの光増幅法も開発されている中でもEDFAが世界の主流であり続けている。萩本氏らが国際標準化を主導したことも、この技術が優れていることを世界に示す結果に大きく貢献した。また、EDFAの多波長光信号を一括で増幅できるという特質はWDMの実用化に繋がり、1990年代半ばから光通信の大容量化をけん引し、テラビット光伝送の実現に至った。
このEDFAの実用化は、励起光源を大型のレーザから半導体レーザに代えただけというシンプルな話ではない。励起波長、高効率エルビウムファイバ、モードフィールドの形がほぼ円形となる設計を施した半導体レーザなどの様々な研究開発を経たうえでの成果だ。佐藤氏は「本講演では、当時どういうことを目指し、どういったキッカケでこの研究成果に辿り着いたかも語っていただける。聴講者の皆様には、今でも世界中で使われている技術がどのように生み出されたのかという実体験をご本人達から聴いていただくことで、ご自身の研究のブレイクスルーのヒントとしてお役立ていただければと思っている」と話す。
各講演のタイトルと講演者プロフィールは次の通り。
半導体レーザー励起EDFAの発明とその後の光通信の発展
東北大学
災害科学国際研究所 特別栄誉教授
中沢 正隆
1980年東京工業大学大学院博士課程修了(工学博士)。同年日本電信電話公社入社、1984年MIT電子工学研究所研究員、その後NTT研究所グループリーダ、特別研究員、R&Dフェローを経て、2001年東北大学電気通信研究所教授に就任。現在、特別栄誉教授。
2010年東北大学電気通信研究所長、同国際高等研究教育機構長、国立大学附置研究所・センター長会議会長、電子情報通信学会会長などを歴任。IEEEライフフェロー、OSAフェロー、電子情報通信学会および応用物理学会の各フェロー名誉員。EDFAの発明により、紫綬褒章、学士院賞、日本国際賞など数多くの国内外の賞を受賞。
EDFAによる大容量長距離光伝送網の発展と普及
国立研究開発法人情報通信研究機構
主席研究員
萩本 和男
1978年3月、東京工業大学工学部卒、1980年同大学院修士課程電子物理科学科修了。同年、日本電信電話公社に入社、長距離大容量光伝送方式の研究開発をリード、2005年NTTみらいねっと研究所所長、2009年NTT先端技術総合研究所所長、2013年NTTエレクトロニクス社長、2019年同フェロー、2021年12月NICT主席研究員現在に至る。IEEEフェロー、信学会名誉員、日本国際賞、紫綬褒章など受賞。
佐藤氏は「EDFAは小型で高出力、かつ利得が安定していることに驚かされた。この特徴により、長スパン、高速の光通信の道が開かれた。さらに、EDFAの発明前の光通信は、一つの波長を用いて80km毎に電気の中継器が必要だったが、EDFAが複数の波長を一括して増幅できる光の中継器として使えることがわかると、波長多重伝送の実用化が加速した。EDFAを用いた商用システムが導入された1990代から今日まで光通信の伝送容量は1000倍、つまりビット単価が1/1000になった。この劇的な通信コスト削減が実現できたのはお二人の功績によるものである。現在のようにSNS動画、オンライン会議、大容量のクラウドサービス等が安価に扱える社会を支えるネットワークがあるのもEDFAのおかげ」と振り返る。
およそ30年を経た今でも世界的に使われているEDFA。その誕生を境に光通信の世界がどのように変化したのかを、中沢博士と萩本氏の観点で語られるという点でも本講演は興味深い。
なお、日本国際賞は「世界の科学技術の発展に資するため、国際的に権威のある賞を設けたい」との政府の構想に民間からの寄付を基に設立され、実現したもの。授賞式には天皇皇后両陛下が毎回ご臨席される。光通信関係では、今回、中沢博士と萩本氏が受賞した他、2014年に末松安晴博士が「大容量長距離光ファイバ通信用半導体レーザの先導的研究」、1996年にチャールズ・K・カオ博士が「広帯域・低損失光ファイバ通信の先導的研究」で受賞している。
(参考:受賞当時の末松博士インタビュー記事はこちら)
(OPTCOM編集部)
特集目次
・「COMNEXT」開催直前 主催者インタビュー
「通信・放送Week」から新生した国際商談展「COMNEXT」が6月に開催。
次世代通信技術&ソリューション展として、光通信、6G、ローカル5G、エッジAI、映像伝送などを網羅
光通信技術セミナー企画委員インタビュー
・佐藤 良明氏【NTTエレクトロニクス】
FOE-S
2023年 日本国際賞 受賞記念講演
・谷口 和彦氏【富士通オプティカルコンポーネンツ】
FOE-1
データセンターのスケーリングおよび機械学習ネットワークにおける光技術の進化と役割
・黒部 立郎氏【古河電気工業】
FOE-2
光トランシーバ最新技術動向
・岡安 雅信氏【華為技術日本】
FOE-03
高密度光インターコネクトのトレンドおよび主要技術
・森 浩氏【アンリツ】
FOE-6
光ファイバが拓くインフラセンシングの未来
・土井 健嗣氏【日本電気】
FOE-9
クラウド データセンターおよびAIクラスター向けの次世代光トランシーバー
・和田 悟氏【フジクラ】
FOE-10
シリコンフォトニクス用光コネクタの最新技術動向
以下、後日更新
※各委員より、セミナーの魅力を紹介。