つくばフォーラム2019Preview【青柳所長インタビュー】(2)
期間限定無料公開 有料つくばフォーラム2019・AS研の技術展示
研究開発・成果は、「支える技術」「拓く技術」「将来アクセスネットワーク」の三つのコーナーで展示される。「支える技術」は安心・安全な社会と現在のアクセスネットワークを支える比較的短期的な取り組み、「拓く技術」はスマートな世界の実現に向け将来のアクセスネットワークを開拓する中長期的な取り組み、そして、中長期的な取り組みの中でも将来のアクセスネットワークの実現に向けて特にキーとなる取り組みを展示した「将来アクセスネットワーク」となる。
また、今年に入りAS研の敷地に完成した「架空構造物総合検証設備」は電柱や支線にかかる荷重の影響を実物スケールで検証する施設であり、会場ではその展示も行われる。青柳所長は「従来は机上の計算で荷重を検証していたが、これは実際の電柱で検証できる設備だ。汎用的に実験に活かせるよう設計したものであり、世界の中でもAS研にしか存在しない設備なので、ぜひご覧いただきたい」と話す。
他、毎年恒例のモデルネットワーク展示として、NTTビル内から加入者宅までの実設備を用いたモデル展示もAS研が積み重ねてきた研究開発成果を知ることができる場である。
次に、AS研の展示の中でも特に注目の技術をピックアップしたい。
多様な高周波数帯無線システムを収容するためのアナログRoF技術
多様な高周波数帯無線システムの信号処理機能を、集約局に移行する研究に取り組んでいる。これにより集約局側からのオペレーションのみで無線システムへの対応が可能となり、張出局側は小型化・低消費電力化を実現すると共に、複数の無線システムが共用できるプラットフォームとなる。青柳所長は「このシステム構成が実現すれば、ビーム制御が必須の高周波数帯無線システムを、集約局からの遠隔ビーム制御により複数の無線端末を収容できるようになる。また、アンテナ方向調整フリーも実現でき、多様な無線サービスの同時提供が可能となる」と説明している。
張出局の小型化・低消費電力化は、経済性や設置性の向上というメリットもある。例えば、5G以降のシステムでは張出局のセルが小さくなり、設置数も増えるので、このメリットは設置数の増加に比例して大きなものとなる。
このシステム構成を実現するポイントとなるのは、光ファイバでアナログ信号を伝送するアナログRoF技術だ。この技術は、光信号を強度変調することで無線信号の形をした光信号を伝送するというものであり、伝送後はO/E変換するだけで元の無線信号を取り出すことができる。従来、張出局から集約局にアナログ信号を光伝送する場合は、張出局でアナログ信号を一旦ディジタル信号に変換して光伝送する必要があった(ディジタルRoF技術)。しかし、アナログRoF技術を用いれば信号を変換することなく集約局に伝送することができるので、光伝送帯域の増加がなく張出局の機能を省くこと可能になる。青柳所長は「無線は高周波数になるほど伝搬距離が短いので、光ファイバで距離をカバーできることもメリットだ。例えば、今後、人が住んでいないエリアまでをカバーするといった構想が出た時、光ファイバで距離を稼いで最後に高周波数帯の無線で送信する場合に、こうした光ファイバによる伝送距離のメリットは大きいだろう」と話す。
プロトコルフリーな管理制御技術
将来の膨大な情報量が飛び交うスマートな世界を支えるため、将来アクセスネットワークではあらゆる端末やあらゆる通信方式の収容を目指している。その実現にあたり、ユーザの端末・ネットワークの要件に依存しないアクセス系管理制御技術が必要となる。
青柳所長は「この課題を解決する方法として、プロトコルを気にすることなくネットワークを管理制御する仕組みを考えている。この実現のための技術的ポイントは、主信号には手を加えずに管理制御信号を送受信することであり、我々はそれを可能にする管理制御信号をAMCC(Auxiliary Management and Control Channel)信号と呼んで研究開発している。このAMCC信号はどのようなプロトコルの信号にも付加できるので、プロトコルフリーな遠隔管理制御が可能となる。AMCC信号を利用した上り送信波長の校正などの管理制御機能により、すぐに繋がる、そして途切れないネットワークが実現できる」と説明している。
AMCC信号は主信号と異なる周波数を使うことで、主信号に影響を与えずに、シンプルな構成で管理制御を実現できるという。ブースではAMCC信号を用いた波長の管理制御について、デモを交えて紹介される。
光ファイバセンシングを活用した環境モニタリング
光ファイバセンシング技術は、光ファイバ自体をセンサとして用い、ファイバの温度や振動(動的なひずみの変動)などの波形測定から、エリア内の光ファイバケーブルの様々な物理状態とその環境情報を面的にモニタリングするもの。
この光ファイバセンシング技術を進化させ、既設の通信光ファイバネットワークを環境モニタリングのセンサネットワーク基盤として活用し、通信設備としての光ファイバケーブルの物理状態の把握はもちろん、地域全体の環境情報を可視化するための研究を進めている。青柳所長は「NTTの資産である、日本中に張り巡らされた100万km以上の光ファイバケーブルを、更に活用する取り組みだ」と話す。
光ファイバ環境モニタリングの方向性は、環境情報を高精度に確実に検知することだ。これには、雑音除去の技術等による従来は把握できなかった微小な変化を測定する超高感度測定が必須となる。また、環境情報との相関をとるための様々なケースの測定データを蓄積する必要もある。既に、簡易な情報把握例として、故意に与えた打撃振動の検知技術を実用化している。これにより、マンホールの蓋を打撃することでそのマンホールの位置を光ファイバセンシングにて検知できたという。青柳所長は「こうした事例を重ねながら、地下の設備、地上の設備のセンシングデータや周辺の環境情報を取得、可視化し、地域の環境情報として活用できる技術にする」と今後の展望を話している。
外部連携を簡易に実現するユーザインターフェース拡張技術(UI拡張技術)
様々な企業で多くの業務システムが導入されている中、操作が複雑でオペレータのノウハウを必要とするシステムも数多く存在する。そこでAS研では、オペレータ間やシステム間の連携を、既存システムに手を加えることなく簡易に実現することで、業務プロセス全体の生産性を向上させる、UI拡張技術の研究に取り組んでいる。
この技術のポイントは次の二点。まず、既存のシステムを改造することなく機能を付加する為に、既存の操作画面の表面に拡張UIを張り付けるようなオーバーレイ表示を採用しており、短期かつ低コストで既存システムへの機能追加が可能となっている。青柳所長は「ARのように、お客様システムの画面上にフィルムを被せるようなイメージで、プルダウンやラジオボタンなど、様々な機能を付加できる」と説明している。次のポイントとして、エンドユーザにプログラミングなどの専門スキルが無くても、この拡張UIを設定することができるエディタが備わっており、システム開発における機能追加相当の作業を、ユーザが簡易に実践できる。 このUI拡張技術を製品化した「BizFront/SmartUI」が、NTTテクノクロスから販売されている。
AS研では外部システムとの連携など更なる抜本的な生産性の向上を目指して、新機能の実現に向けた研究開発を進めている。青柳所長は「お客様の声をヒアリングしたところ、初期操作にナビを付加するだけでもオペレータからの問い合わせが減ったケースもあり、ご好評いただいている」と話す。
地下管路の絶対座標取得技術
地下管路の位置情報をこれまでの図面管理から3D情報管理にシフトし、各種業務の自動化や効率化をする為、高精度に絶対座標を取得する技術の研究開発を進めている。青柳所長は「現状の2Dデータでの図面管理は相対座標管理なので、より高精度な3D絶対座標管理を実現する為に、GNSS等を用いた絶対座標取得技術の向上に取り組んでいる。地下という見えない部分を掘削する際、例えば管路の位置情報に1mの誤差が有ると設備事故発生の危険性があるため、誤差を±10cmに抑えることを目標に開発を進めている。こうした高精度な位置情報を把握しておくことで、現場における作業性の向上や運用方法の簡素化など、あらゆる業務の効率化に繋がる」と説明している。
今回開発した技術は、工事中等で地下管路が露出している間に効率的に座標を測位するものだ。現在の測位手順は、自設基準局でGNSS補正信号を取得して移動局へ送信、移動局で基準点の座標を測位、管路上の測定点をマーキング、ステレオカメラで撮影して相互の距離を測定、管路上の測定点座標を専用ソフトで自動計算、という流れになる。
絶対座標取得技術の課題として、都市部の中高層ビル街など高遮蔽物のある環境では、電波の反射によりGNSSの測位精度が下がってしまう点が挙げられる。そこでSNR(信号雑音比)仰角マスク制御によるマルチパス衛星フィルタリング性能の向上に取り組んでいる。従来方式ではSNRマスクは固定値だったが、これを仰角に応じ変動させることで、より的確な衛星フィルタリングが実現できるという。青柳所長は「その他、自設基準局設置により利用衛星数を増やしている。これらの組み合わせにより、高遮蔽物環境においても、安価な1周波GNSS測量機を用いた±10cm精度を実現できるよう取り組んでいる」と話す。
また、更なる効率化を目的として、管路の位置を直接測定することでステレオカメラでの測位を省くことや、移動体キャリア基準局のGNSS補正情報配信サービスを利用することで自設基準局を廃止することが検討されている。この二つが実現できるだけでも、現状は2名体制で40分かかっていた測位作業が、1名体制でも15分で済ませることができるようになるという。
このように露出管路の位置測定技術開発を推進しているが、地下に埋設されている管路についても位置測定技術の開発を実施している。これらの技術が完成すれば全ての管路の絶対座標取得が可能になる。また、地下にはNTTの設備だけではなく、電力、ガス、水道と様々な社会インフラが埋設されているので、絶対座標管理では、そうした情報の一元化も視野に入れているという。青柳所長は「最終的には各事業者が共有できる技術として展開することで、事業者間の調整稼動削減や誤掘削の撲滅などを実現し、国土交通省が推進している“i-Construction”に貢献できるようなデータに仕上げていきたい」と話している。
今回、青柳所長の説明の中で特に印象に残ったのは、AS研のミッションで語られた「現場担当者の声から工事や保守技術の最先端を把握し、その最先端を研究に活かすことに取り組んでいる」という点だ。
例えば、技術交流サロンのテーマの一つである「災害対応」の観点で考えると、災害の復旧現場に携わった担当者の声が研究に活かされるのであれば、災害時における通信の信頼性が更に高まると期待できる。また、「光ファイバセンシングを活用した環境モニタリング」や「地下管路位置の絶対座標管理」が通信事業者の枠を超えて活用されるようになれば、日常生活の利便性や、社会インフラ運用の効率化に役立つだけでなく、災害時の迅速な状況把握、ひいては迅速な対応に繋がるのではないかと感じた。
今年は9月、10月と大型台風の被害が発生し、その脅威を実感したタイミングでの「つくばフォーラム」開催となる。世界最先端の研究所を会場としたこのイベントに多くの来場者が集まり、多くの現場最先端の声が届くことを期待したい。
つくばフォーラム2019特集目次
Preview
青柳所長インタビュー(1)
青柳所長インタビュー(2)
出展製品ピックアップ
アンリツ
NEC
NTT-AT
FXC
協和エクシオ
住友電気工業
日本コムシス
原田産業
三菱電機
横河計測
以下、後日更新
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