光通信技術展2018基調講演Preview ~5G時代におけるNECの社会価値創造への取組み~
INTERVIEW 有料 4月4日~6日に開催される「通信・放送Week 2018」は光通信、次世代モバイル通信、映像伝送、4K/8K機材を扱う4つの専門展から構成される総合イベントだ。その専門展の1つ「第18回 光通信技術展(FOE)」では、4月4日13:30から「5G・データセンタ・IoTにおける光通信の最新技術トレンド」と題した基調講演を予定しており、世界の通信業界に強い影響を与えている3名のキーパーソンが登壇する。その先陣を切るのは、NECの執行役員常務としてテレコムキャリアビジネス全体を統括している河村厚男氏で、講演タイトルは「5G時代におけるNECの社会価値創造への取組み」だ。
5Gの世界では、4Gからの「超高速化」という純粋な進化に加え、「低遅延」、「多数接続」という新たなアプローチにより、ヒト、モノ、コトとの関わりに革新的な変化をもたらす。スマートシティ、コネクティッドカー、AR/VRといった新たな社会価値の創造が進む今、その新しい価値観をいち早く感じることは、通信分野だけでなく様々なビジネスに役立つだろう。今回の基調講演では、AI、SDN、IoT、現在の4Gアドバンストに至る無線技術、そして光伝送機器と総合的に取り組んできたNECが描く、現実に即した知見と展望を知ることができる。
河村氏は講演において「5Gにより世の中がどう変わるのかをお話しし、一緒に共創したい」と話す。通信インフラの進化を最前線で支えてきたNECは今、5G時代をどのように見据えているのか。今回のインタビューでは河村氏より、講演のポイント、そして5G時代を支えるNECの通信技術について話を聞いた。
(OPTCOM編集部:柿沼毅郎)
NECが取り組むDX
NECが取り組むデジタルトランスフォーメーション(DX)では、企業・産業、都市、人に活力を生み出すことを目的としている。実世界とサイバー世界を連携させ、「見える化」「分析(ヒト・モノ・コトに新たな意味性を付加)」「対処」というサイクルを回すことで、それを実現するという。そのテクノロジーの中核を担うのがAIであり、NECは最先端AI技術群「NEC the WISE」を有している。また、NECは2020年にAI人材を1,000人にするという目標を掲げており、顧客と共に価値創出ができるAI人材の育成に注力している。
「NEC the WISE」には世界No.1の技術やオンリー1の技術が複数あり、今回の講演ではその中から生体認証をピックアップして紹介するという。河村氏は「IoT、AIを含めた5G時代では、人を特定することによって、その人の趣向に合わせたサービスを提供する世界になる。そのファーストステップとなるのが、個人を特定する技術だ。今回は弊社の生体認証技術を事例として交えながら、人に対して価値を提供する5Gの世界、そしてカスタマー・エクスペリエンスの重要性についてお伝えしたい」と話す。
NECの生体認証の1つに顔認証があり、NIST(米国国立標準技術研究所)のベンチマークでは静止画において長年No.1の評価を獲得している。更には、昨年から新たに設けられた動画の評価でもNo.1を獲得しており、セキュリティをはじめ様々な分野での活用が期待されている。河村氏の講演では顔認証技術の精度、そしてその他の生体認証技術についても解説されるだろう。なお、ドコモ、NEC、ALSOKが参加している総務省の「5Gを活用した高度な警備サービスの実現に向けた実証実験」でも、この顔認証技術が使われる。
ネットワークの進化がもたらすDX
4Gまでの進化はヒトに対するサービスの提供だったが、5Gではその進化に加え、モノ、コトとの接続も加わる。河村氏は「5Gの世界では、新たなデバイス、車、ロボット、遠隔医療など、様々なモノと繋がることになる。非連続な革命を目指す世界が5Gであり、これが今までの世代と大きく線が引かれるところだ。では、5Gを牽引するのは何だろうと考えた時に、人に対してはスマートフォンの次のデバイス、そしてモノやコトに対しては新たなデバイスを繋ぐ世界になるのではないか。そしてこれらのデバイスは最適なサービスを要求する軸に変わり、多様性も加わる。それに応えるインフラを提供するのが我々の役割だと思っている」と話す。
そういった中でNECは、5Gに関する事業コンセプト「5G. A Future Beyond Imagination.」を打ち出している。河村氏は「このコンセプトには、社会における価値創造の変革、事業者の運用効率化、ネットワークのマイグレーションといった3つのトランスフォーメーションがある。講演ではその詳細に触れ、弊社が5G時代にどのような価値をお客様に提供するかを説明する」と話している。
5G時代のネットワーク
こうしたDXを実現する5Gネットワークとはどのような構成となるのか。5Gネットワークでは、4Gを発展させた「超高速」に加えて、「低遅延」や「多数接続」といった新たな要件が要求される。こうした3つの要件は同じ利用シーンで同時に求められるのではなく、例えば超高臨場感映像伝送では「超高速」、自動運転では「低遅延」、監視カメラでは「多数接続」といったように、目的ごとに要件が異なる。河村氏は「低遅延や多数接続といった新たな要件を満たすためには、ネットワークトポロジを変化させる必要がある。ここでは、波長多重を活用したスライシング技術も重要になる。講演ではこうした5Gの要件を満たすアクセス、アグリゲーション/メトロ、バックボーンのネットワークセグメント、そしてスライシング技術について、ネットワーク構成図を交えながら説明する」としており「我々が考える5Gに向けたトランスポートネットワークのマイグレーションシナリオについても、イラストを交えながら説明する。2020年の5Gサービス開始時は限定されたエリアでの展開となり、本格展開は2021年以降と想定している。このサービス開始時と本格展開時では、アクセス領域でそれぞれどのような課題と対策が施されるのか、また、光ファイバのメッシュ化がどのように広がっていくのかも時系列で分かるようなイラストにしてある。情報を処理するデータセンタ(DC)も、例えば自動運転の進捗に伴い低遅延を実現するリージョナルDCがアクセスに近いところに配置されるなどの変化が出てくる」と話す。
様々なサービス、それに伴う要件を収容する5Gネットワークでは、その管理も重要な要素となる。河村氏は「光トランスポートネットワークをマルチドメイン/マルチレイヤで、End to Endで統合管理、制御することが重要だ。我々はそれを実現するソリューションとして、Transport-SDN(T-SDN)を提供していく。T-SDNはマルチベンダ、マルチオペレータとなるので、様々な事業者との実証実験も行っている。我々はエンドユーザにどのような形で価値を提供できるかが大切なことだと思っており、エコシステムとして業界を活性化することで、新しいサービスが生まれることや、新しいリファレンスが生まれることを望んでいる」と話している。仮想化や物理のオーケストレーションにおいてNECは、グループ会社のネットクラッカー社と共にグローバルで活躍し、市場からの評価としても、常にイノベイティブなポジションを得ている。SDNに率先して取り組んできたノウハウと併せ、オーケストレーションによる業界の活性化に期待したい。
NECの光トランスポートネットワークソリューション
NECは光トランスポート製品もEnd to Endで揃えており、コア、メトロ、MFH、DCI、そして世界トップシェアの海洋システムまで提供している。河村氏は「デバイスのポートフォリオも最新技術を揃えており、アクセスからコア・海洋まで装置・システムごとに最適化した製品系列を提供している。これにより、システムのTime to Marketに貢献する。遅延の観点から光通信の注目は高まっており、例えば海底ケーブルプロジェクトではDC間を効率良く繋ぐためにOTTの参加も増えてくるだろう。今回は基調講演ということで細かな製品説明は割愛するが、展示会場の弊社ブースでは光の製品について詳しくご紹介する」と話している。
本記事では補足として、出展製品にも少し触れておきたい。「SpectralWave DW7000」シリーズのメトロ向けモデルでは、光共通部分を圧縮して1枚のカードにしたことで、6Uの1筐体に2方路分の共通部+トランスポンダを最大で7~8枚を収容するという小型化を実現している。これは5G時代のネットワークインフラを意識して開発した製品である一方で、既存ネットワークのサービス継続も考慮し、多種多様なインタフェースを効率よく収容するトランスポンダも準備している。この他、ブースでは参考展示としてDCを想定した機器や、LPWAも含め多様なアクセスメディアを収容できる機器も展示される。河村氏は「OTT市場のある部分では今後、伝送製品のライフサイクルが早くなるのではないかと思う。我々はそうしたニーズに合う製品開発も意識していく」と話している。