つくばフォーラム2016Preview:天野所長Interview
INTERVIEW 有料NTTアクセスサービスシステム研究所(以下、AS研)で10月25日、26日の2日間にわたり、アクセスネットワークサービス、システムに関する総合シンポジウム「つくばフォーラム2016」が開催される。
今回のテーマは「豊かな暮らしを共に創る、進化した社会インフラへ ~NetroSphere構想の実現に向け変革するアクセスネットワーク~」。NTTアクセスサービスシステム研究所 所長の天野博史氏は「これからのアクセスネットワークは、“つなぐ”ネットワークから“暮らしに付加価値をもたらすサービスプラットフォーム”をめざし、先進技術・サービス・モノ・お客様とが様々な形態でコラボレーションすることで、より進化した社会インフラへと変革し、私たちの生活に不可欠な存在へと発展させていく必要がある」としている。
今回のフォーラムでは、共催団体を始めとした参加企業とともに、「NetroSphere構想」の実現によってもたらされる「豊かな暮らし」とそれを支えるアクセスネットワークの最新技術や研究開発成果を展示するという。
AS研による展示項目は36件を予定。その中で新規展示は17件となる。会場ではこれらの展示を4つのコーナーに分けて紹介するという。今回のインタビューでは、おすすめ展示として全体からピックアップされた6件について、天野所長に解説して頂いた。
本特集では天野所長のインタビューの後、「つくばフォーラム2016」の魅力を3部構成でお伝えする。第1部では「つくばフォーラム2016」全体の概要、第2部ではNTTグループや共催団体の展示項目やメイン会場の見所、第3部では出展各社の製品をご紹介する。
豊かな暮らしを共に創る、進化した社会インフラへ ~NetroSphere構想の実現に向け変革するアクセスネットワーク~
日本電信電話株式会社 アクセスサービスシステム研究所 所長 天野博史氏
FASA:多様なニーズに対応するアクセスアーキテクチャ
FASAは、アクセス装置を構成する機能の部品化、ソフトウェア化を進め、それらを自由に組み合わせるコンセプトだ。これにより、専用ハードウェアよりも高機能かつ安価な汎用ハードウェアを用いながらサービス品質を維持し、新たに必要な機能を柔軟に、かつ経済的に組み込むことができる。
アクセス系ではPONやP2Pなど用途に応じて様々な伝送方式が用いられており、物理的な信号処理(Layer1機能)など高速処理が必要な機能が伝送方式ごとに異なる。FASAコンセプトでは、これらの高速処理が必要な機能を外付けモジュールで実現し、付け替え可能とすることで柔軟な変更を可能とすることを提唱しているが、さらに柔軟な機能変更を可能にするために、装置のソフトウェア領域の拡大を目指す必要がある。その方法として汎用ハードウェアの処理速度の向上があり、AS研では一般にCPUのアクセラレータとして用いられているGPGPUによる実装技術の検討を進めている。今回はGPGPUによるLayer1機能の処理速度の抜本的向上が紹介される。天野所長は「NetroSphere構想におけるハードとソフトの分離をアクセス系で具体的にしたのが、このFASAだ。将来のCPUアーキテクチャを見据えた実装法や低演算量なアルゴリズムの検討により、汎用的な機能の共通化を実現できる。アクセス系の設備は広範囲で使われているので、実用化されれば経済的な効果は絶大だ」としており、「Layer2機能のソフト化により、保守運用やマルチアクセス制御機能の変更が可能になり、GPGPUによるLayer1機能のソフト化により暗号化や誤り訂正符号化も機能変更が可能となる。現在は研究レベルでの基礎機能の性能を検証している段階だ」と説明している。
FASAの具体例として、OLTのアクセス機能を部品化し、サービスや通信方式に依存する機能を組み合わせ、アドオンするデモが行われる。天野所長は「ソフトウェアモジュールの追加により機能を追加するデモや、汎用部品であるGPUをアクセラレータとしてソフトウェア化領域を拡大し、暗号化や誤り訂正復号化機能を組み合わせるデモをお見せする」と話している。
5Gモバイルネットワークを支えるPONシステム
FASA関連技術の確立は2020年頃を見込んでおり、まずは2020年頃の実用化が想定されている5Gモバイルの基地局を収容するPONシステムに対し、部分的に適用することを検討しているという。
5Gモバイルでは、端末の通信速度向上の観点から、多数のスモールセル基地局が高密度に配置されることが想定されており、AS研はスモールセルの効率的な収容を実現するPONシステムの研究を進めている。天野所長は「無線トラヒックの増加に伴う“大容量化”、モバイルの遅延要求に対応するためのPONの“低遅延化”、FTTHなどの他システムと心線共用する“設備共用”などが課題となる。今回はPONで5Gモバイルのスモールセルを効率的に収容できることを示すコンセプトデモや、課題解決に向け現在研究開発中の要素技術をご紹介する」と説明している。
要素技術に関してAS研では、基地局の信号処理機能の配備変更による「伝送容量削減技術」、基地局からの無線制御情報を活用した「モバイル向け上りリンク低遅延化技術」、波長多重により心線共用を実現する「WDMオーバーレイ技術」を検討しているという。
設備点検のイノベーション技術
NTTグループは膨大な数の通信設備を保有しており、安心安全な社会インフラサービスを提供するために、これらの設備を維持運用している。今回はその運用に役立つ技術として、MMS(Mobile Mapping System)を用いた架空設備点検技術と、タブレットPCを用いた地下構造物の劣化部位計測技術が紹介される。
架空設備点検技術はMMSを搭載した自動車で走行しながら、高速レーザスキャナによる反射を点群計測するというもの。その点群データから、電柱・架線等ケーブルの状態を自動点検する。全方位カメラも搭載しているので画像解析も可能だ。現在はコア研究中で、天野所長は「電柱のたわみやケーブルの地上高など、設備を1つ1つ点検していた作業を自動車の走行だけで済ませることができるので、作業を効率化できる。点検の定量化、自動化による高精度化もメリットだ」と話している。
地下構造物の劣化部位計測技術は、劣化をタブレットPCで撮影し、画像上でなぞるだけで長さや面積を計測できる。すでに開発が完了しており、来年度には事業会社で導入される予定だという。
空間活用の極限に向け進化するマルチコア光ファイバ技術
通信トラヒックは年率数十%で増加していることから、将来的に基幹ネットワークの逼迫が懸念されている。その解決のために、限られた空間内の伝送容量と配線密度を最大化する「マルチコア光ファイバ技術」の研究が進められている。AS研では19コアを発表しており、天野所長は「2020年代の導入に向け、要素技術の確立を推進しており、今回は世界レコードの更新をご紹介する。また、高密度配線に必要な接続・ケーブル技術の確立も推進しており、その新規展示も行う。マルチコアの需要は、幹線系よりもデータセンタで先に出てくるかもしれない」としている。
地震で被災する管路を高精度に予測しNWの信頼性を向上する技術
AS研では、地下管路の構造的な地震耐力の診断、そして老朽管の劣化による耐力低下を診断する技術により、管路一本一本の耐震性能を従来の30倍を超える高い精度で把握することを可能にした。天野所長は「従来の被災予測はエリアという“面”で行なっていたが、今回の被災予測技術は個々の管路という“点”で行うので、対策が必要な管路数を飛躍的に絞り込むことができる」と話す。
会場では熊本地震の特徴や通信設備の被害の概要、被災予測技術の概要およびメカニズムの動態展示、そして耐震対策技術(PIT、ST-LONG管)の動態展示が行われる。
端末上にノウハウ情報を付加するアノテーション技術
アノテーションはパソコン画面上に付箋を貼りつける感覚で操作手順や注意喚起を表示できるツールで、誤作動の予防や新人教育時間の低減、またマニュアル閲覧の手間を省くことができる。
この機能はアノテーションプログラムをパソコンにインストールするだけで使用できるので、業務アプリケーションに直接改造を加える方法に比べ、低コストかつ短時間で実現できる。あらゆるアプリケーションに適用可能なツールだ。天野所長は「NTTグループの他、一般市場にも展開しているツールで、今回の展示ではその高度化機能を動態展示する」と話している。
表示機能の高度化として画像や動画の付与があり、テキストだけでは表現しづらい内容をユーザに判りやすく表示できるようになった。
また、状況に合わせて表示するアノテーションの種類を選択する機能も開発されており、例えばユーザの熟練度に応じた切り替えや、業務内容に応じた切り替えができる。外部アプリケーションとの連携により、ユーザ属性や業務状況等に併せて自動的に切り替えることも可能だ。
運用の高度化では、電子マニュアル情報と操作対象画面・要素の関連付けにより、マニュアル情報の中からアノテーションとして表示する情報を抽出して画面上に表示することができる。マニュアルとアノテーションを一元管理することも可能だ。
他、ユーザ端末上のアノテーションプログラムと配布管理サーバを連携させ、配布管理サーバで各端末での表示ルールを管理できる機能も開発された。管理者が各端末に表示させたい表示ルールを一元的に管理でき、グループ毎の管理も可能だという。
今回、天野所長が冒頭で解説したFASAは、通信機器のあり方を根本的に変える技術だ。また、5Gモバイル向けのPONでは、10G級や40G級の高度なPONの展開が期待できるだろう。設備の管理、運用に関する革新的な新技術からは、通信インフラを構築する技術だけでなく、維持する技術の高度化というニーズの高まりが感じられる。今回の各展示を見ることで、アクセスネットワークの方向性の変化を知ることができるだろう。
(OPTCOM編集部 柿沼毅郎)
目次
天野所長Interview
第1部「つくばフォーラム2016」の概要
第2部 展示会場の見どころ
第3部 出展企業・製品の見どころ