光通信、映像伝送ビジネスの実務者向け専門情報サイト

光通信ビジネスの実務者向け専門誌 - オプトコム

有料会員様向けコンテンツ

つくばフォーラム2024開催記念「NTT AS研 海老根所長インタビュー」【4】

INTERVIEW 有料

期間限定無料公開中

新ビジネス領域を開拓する技術

光ファイバ環境モニタリング(豪雪地域の除雪判断支援)

 AS研では、既設ファイバから面的に収集した環境振動のデータを活用し、様々な課題解決・ビジネス展開をめざしている。この光ファイバ環境モニタリングの最近のユースケースとしては、NTT東日本やNECと共同で取り組んだ、豪雪地域の除雪判断支援が2023年11月に発表されている。
 このユースケースでは、ファイバセンシング技術で車両通行時の振動を収集し、教師あり機械学習にて除雪要否を推定。約90%程度の正解率(現地調査結果と比較)となり、除雪判断が可能であることが示された。
 海老根所長は「除雪事業を担う労働力の不足に対して、持続可能な体制への転換が必要であることから、除雪事業のDX化ということで光ファイバ環境モニタリングを提案した。こうしたファイバセンシング技術と機械学習の組み合わせは、除雪事業だけでなく様々なユースケースを試しており、本当に色々な使い方があると感じている。引き合いの多い技術なので、設備ビジネス展開も狙って取り組みを進めている」と話す。

光ファイバ環境モニタリング(豪雪地域の除雪判断支援)。

通信インフラ設備におけるアセットマネジメント技術

 IOWNの導入やグリーンエネルギーの拡大等によりインフラ設備の利用方法にも変化が伴うため、AS研では通信基盤設備のアセットを有効に活用する方法を検討している。
 海老根所長は「今後、既設のメタルケーブル等が除去されて管路が空くことが考えられるので、その空きスペースを通信以外で活用することも検討している。こうした基盤設備のアセット活用により経済的な設備構築を実現し、持続可能な社会に貢献したい」と話している。
 この取り組みでは現在、次の技術が研究されているという。
電力分野での活用:通信基盤設備を用いて送電するための熱、漏電を考慮した設計、構築。電力系統構築のための蓄電設備等の附属設備設置設計。
水素分野での活用:水素輸送のための水素パイプラインの二重管構築技術。

通信インフラ設備におけるアセットマネジメント技術。

社会インフラの被災予測技術

 災害時は通信を含むライフラインの機能維持が重要であり、被災を予測したプロアクティブな対応が社会全体で必要となる。その際、様々な災害や設備に合わせて、設備単位の被災リスクを高精度に予測することが課題となる。
 そこでAS研では、公開データとNTT保有の設備データを活用することで、いつでもどこでも被災リスクを高精度かつ定量的に評価する技術に取り組んでいる。また、被災メカニズムの分析で予測に有効な因子を特定・活用し、被災傾向を学習することで、設備単位での被災リスクの可視化にも取り組んでいる。
 海老根所長は「NTT保有の設備データとして、例えば電柱に対する豪雨、橋梁に対する水害、管路に対する地震といった被害状況データを活用している。公開データにこれらを追加したことで精度が増しており、多くの引き合いを頂いている状況だ。この技術により、効率的かつ効果的な防災・減災・復旧によるロバストな社会を創っていく。また、定量化した被災リスクを通信のみならず社会全体で活用したいと考えている」とし、「技術確立が終わったので、その成果の活用が始まる段階だ。今後の展望としては、対応する災害の種類を増やすことを考えており、例えば地滑りなどの対応を研究している、また、通信だけでなく電力やガスの設備でも精度良く適用できるようにしたいと考えており、例えば管路の被災データが通信と他では異なる可能性が有るので、そうした検証を進めていく」と説明している。

社会インフラの被災予測技術。

DXにおける人の判断や気づきを支援する「業務デザイン技術」

 業務の生産性向上には、他組織の優良事例や第三者機関からの提案の活用が重要となる。だが、他組織の優良事例や第三者機関からの提案と、自組織の作業プロセスとの適合性の判断は困難という課題がある。
 そこでAS研では、NTT-ATと共に販売しているWinActor のようなRPAツールでこうした課題が解決できるよう、様々な組織の作業プロセスを定量化して比較できる技術や、人が理解しやすい形式で作業プロセスを自動可視化する技術を研究している。
 これらの技術により、他組織の優良事例との比較による、自組織に適合する業務改善策の特定が可能となる。また、作業プロセス可視化に基づく第三者機関からの提案の質向上や、組織間の相互作用による持続可能な業務改善の実現にも繋がる。
 海老根所長は「こうした技術により実現した機能を、WinActor のような業務自動化のオペレーションツールで使い易いユーザインターフェイスとしてご提供することにより、業務の効率化をご支援する」と話している。

DXにおける人の判断や気づきを支援する「業務デザイン技術」。

ドローンを活用した微弱無線送受信技術

 拡大が予想される洋上風力発電は、設備が陸上よりも大型となるため、運転停止による発電量低下と洋上作業のための船舶確保などによる保守運用コスト増加への対策がより重要となる。
 そこでAS研では、運転したまま保守・点検ができるよう、自律飛行ドローンで設備に電波を照射して損傷を把握できる技術に取り組んでいる。ここでポイントとなるのは、周波数と送受信距離により決まるフレネルゾーン(無線が伝搬する空間)を簡単に変更可能な技術や、フレネルゾーン内の受信レベル等の変化を検知する技術となる。
 海老根所長は「簡易に導入できるよう、無線局免許不要の微弱送受信技術を搭載している。無停止点検による発電量増加と自律飛行ドローン活用による保守運用コスト削減を実現することで、カーボンニュートラルに貢献する」と話している。

ドローンを活用した微弱無線送受信技術。

編集後記

 様々な先進的な技術が紹介された今回のインタビュー中で特に印象に残ったのが、冒頭の研究開発方針の中で海老根所長が語った「これからご紹介する様々な技術を連携して将来のアクセスネットワークを創っていく」という点だ。
 IoTの普及以降、ネットワークのアクセス部分が様々な端末を接続するようになり、『Cradio®×低遅延FDN』のような無線と光の技術の連携により工場内DXを推進するサービスも増えてきた。更には、通信用途以外にもアクセス技術が広がり、『光ファイバ環境モニタリング』のようなユースケースも様々な業種で増えている。
 このように、アクセス技術の利用拡大にNTTの先進技術は欠かせない存在だが、NTTはあくまでも通信のプロフェッショナルであり、他業種との連携が重要だと特に感じたのは、『社会インフラの被災予測技術』だ。NTT保有の設備データを活かしたことで被災予測の精度を上げ、活用の段階に入ったこの技術が注目されたことで、より多くの災害・他業種の設備への適用という道が拓かれた。この流れから、NTT独自の先進技術が評価された後には、他業種への転用があり、そこでは他業種の知見との連携による協創が現実的であることが読み取ることができ、今後も様々なアクセス技術で起こるだろう。
 海老根所長の「様々な技術を連携して将来のアクセスネットワークを創っていく」は、他業種との共創にも当てはまることであり、つくばフォーラムのような様々な通信技術が紹介される場に様々な業種のプロフェッショナルが集まって意見交換をすることは、この協創を進める上で大いに役立つだろう。従来のつくばフォーラムは通信業界に閉じた専門的なイベントというイメージだったが、アクセス技術の利用シーン拡大と共に開かれたイベントになってきた。会場では、6G/IOWN時代の大容量・低遅延・低消費電力化といった通信の純粋な進化を見ると共に、アクセス技術が様々な業種に広がり始めていることを改めて感じることができるだろう。通信業界の方々には自分達の得意とするビジネスを拡大するチャンス、通信業界以外の方々には自分達のビジネスに通信技術を活かすチャンスを得ることのできる場になると期待できる。

特集目次

■NTT AS研 海老根所長インタビュー

・研究開発の方向性

・サービスの高度化・多様化を支える技術

・運用を抜本的にスマート化する技術

・新ビジネス領域を開拓する技術

■パネルディスカッションや技術講演

・技術交流サロン・ワークショップ

■出展社Preview

・NEC

・エクシオグループ

・住友電工グループ

・日本コムシス

・横河計測