つくばフォーラム2022開催記念「NTT AS研 青柳所長インタビュー」【4】
INTERVIEW 有料期間限定無料公開中
運用を抜本的にスマート化する技術
設備・運用業務のデジタル化による究極なスマートアクセス実現の取り組みとして、スマートエンジニアリングでは遠隔 光路切替ノードや電柱把持施工技術などが紹介される。
無派遣で心線切替可能な遠隔光路切替ノード
エリアや心線数の予測が難しい今後の光需要に対しても、迅速・柔軟なサービス提供が求められる。この研究では、心線使用率向上でケーブル増設工事を抑制した、スピーディなサービス提供の実現をめざしているという。
これを実現する技術として取り組まれているのは、前述の多段ループ型光アクセス網構成法における、遠隔光路切替ノードの設置だ。青柳所長は「上位ループと下位ループの接続点に設置した所外ノードを、所内から遠隔制御で心線を切り替える技術となる。また、所内から光で電力供給することにより、各機能部が微小電力駆動できるようにもする」としており、「需要の変動や経路の切断が発生した場合でも、遠隔からネットワークを柔軟に切り替えることで、現地作業は不要となる。これにより、無派遣運用による地下作業工程の削減と、それに伴う二酸化炭素排出量の削減といった効果もある。今回は現時点での研究成果をご紹介するが、将来的には切替を自動化し、全体を見渡して様々な情報から最適な切り替えを実行する形を想定している」と説明する。
現場施工の負荷軽減・安全性向上を実現する電柱把持施工技術
今後、現場施工者は大幅に減少することが見込まれている。そうした中、工事量に占める電柱工事の割合は最も多く、危険作業のため、安全な施工には多くの人数が必要という課題がある。また、既存の機械、工法は『人の感覚や作業』に依存しており、現状のままでは大幅な変革は困難という課題もある。これに対し青柳所長は「電柱を重機で把持安定して運搬できるようにすることで、従来の『人の役割』を、電柱に損傷・破壊を与えず『機械に代替』する技術に取り組んでいる」と話す。
技術のポイントは、
- 電柱素材、施工条件によらず、損傷・破壊なく、滑らずに把持する把持力制御および把持部構造
- 把持することで振れ止めの役割を機械に代替
となる。重機のロボット制御や、アタッチメントの換装で様々な作業に対応することも検討されているという。
新ビジネス領域を開拓する技術
通信技術や設備・運用ノウハウを活かした新たな領域開拓の取り組みでは、通信設備を活用した光ファイバ環境モニタリングや、通信ノウハウを活用した社会インフラの維持管理・運用のスマート化や業務デザイン支援技術が紹介される。
設備アセットの有効活用により非通信分野のビジネス開拓をめざす光ファイバ環境モニタリング
この研究は、NTTアセットである光ファイバ網を、社会に張り巡らせたセンサとして活用することで、様々な社会サービスに還元可能な高付加価値情報を取得することを目的としている。このセンサ化により、『光ファイバ網での非通信サービス実現・新ビジネス創出』『既設心線や空き心線をセンサ媒体としてシェア活用し、通信設備に新たな価値を付与』『異常通信設備の遠隔検知、点検稼働削減』といった効果が期待できる。
この技術では、光ファイバ網が“感じている”振動を、高精度光ファイバ振動測定技術により面的にリアルタイムに収集する。そして、この大量かつ高精度な振動データを、IOWNのAPNによる高速伝送とDCIによる高度な処理・解釈で環境情報へ変換するという。
青柳所長は「既設のファイバを利用するので、新たな布設の必要は無い。また、高精度光ファイバ振動測定と言っても、その測定装置は従来の損失測定にも対応できるよう研究を進めており、環境モニタリング専用の設備投資を極力抑えるよう検討している」としており、「様々な現象をデータとして取得し、それを環境情報として社会課題の解決に役立てる。この技術の肝は、高精度な振動測定と解析技術によって、検知した振動が風の揺れなのか、何かの接触なのか等を見分けることであり、そこがビジネスに繋がるのではないかと考えている」と説明する。
社会インフラの維持管理・運用のスマート化
老朽化設備の急増や技術者不足は、電力、水道、ガスなど社会インフラ全般の共通の問題点だ。持続可能なスマート社会の実現には、こうしたインフラの効率的な維持管理の仕組づくりが必要となる。この研究では、社会インフラ全体の設備情報が反映された『4Dデジタル基盤』での一元管理による運用の効率化をめざしているという。
青柳所長は「MMSやドローン等による一括点検や、AIによる点検診断により『4Dデジタル基盤』を構築する。例えば、地上から目視できない地下の状況をタブレット等で可視化することで、埋設物の施工・設備管理・点検・立会いの効率化などが期待できる」と説明している。
この『4Dデジタル基盤』を実現するための技術のポイントは、AIを用いた効率的かつ高品質な設備の点検診断や、紙図面などのアナログ位置情報を高精度な座標取得によりデジタル化することだという。
業務改善立案に役立てる操作プロセス分類型業務デザイン支援技術
DXの推進のためには、客観性の高い業務分析に基づく現状把握が必要となる。しかし、複雑な業務プロセスの業務分析には専門スキルや、膨大な時間が必要であり、その実現は困難だ。
この研究では、操作プロセスを分類することで業務デザインを支援することを目的としており、操作ログを作業パターンごとに自動分類する技術や、シーケンスアライメントにより頻出の操作フローを抽出することで分析者の業務理解を支援する技術に取り組んでいるという。
青柳所長は「操作ログの共起性に着目し、操作手順のゆらぎを吸収しながら類似の作業に自動分類する。例えば、ブラウザの閲覧やエクセルの操作といった一連の動作をログ取得し、そのログの中で決まった動作を抽出して可視化し、RPA化する。これにより、分析の専門スキルが無くても簡単に業務改善を実現できる」と説明している。
インタビュー目次
1:ミッションや研究開発の方向性、今年の展示
2:『サービスの高度化・多様化を支える技術』(前編)
3:『サービスの高度化・多様化を支える技術』(後編)
4:『運用を抜本的にスマート化する技術』『新ビジネス領域を開拓する技術』
5:技術交流サロン、ワークショップ