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ビッグデータや4K・8K映像データに最適な高性能データセンター

INTERVIEW 有料

Special Interview:データドック

 データセンター事業に新規参入するデータドックは、外気と雪氷を活用することで機械冷房の使用時間を劇的に削減するデータセンターを新潟県の長岡市に建設している。

 今年10月の竣工を予定している長岡データセンターは、安定した地盤の上の免震構造建築、ビッグデータ対応ストレージが設置可能な床耐荷重3.0t/㎡、電力量30kVA/ラック、100Gbpsバックボーンといった万全のインフラを有し、サービスメニューはキャリアフリー・ベンダフリーの徹底的なユーザ目線で柔軟に構築している。SDNやSD-WANといった最新技術も導入していくという。データドック 代表取締役社長の宇佐美浩一氏は「ビッグデータや4K・8K映像データによるトラフィック増加にも対応できるスペック、今後10年を見通した競争力を念頭に置いている。新規参入である我々は、既存の自社サービスと競合することや現行の機器を処分するといったリスクを負うことなく、最先端のデータセンターを作ることができる」と話す。

 今回はデータドックから、データセンター事業へ参入した理由や長岡データセンターのスペックや提供サービス、そしてSDNやSD-WANのメリットについて聞いた。

(OPTCOM編集部 柿沼毅郎)

マーケティングプランニングからデータセンターまで一気通貫で展開

OPTCOM:データセンター事業へ参入した理由を教えてください。
宇佐美氏:
親会社のメディックスはインターネット広告の代理店です。インターネット広告の市場ではデータの活用が重要視されてきていますので、メディックスとしてはデータの活用、そして年々大きくなっていくビッグデータにどう対応していくのかという課題に対して様々な取り組みをしてきました。その答えの1つが、マーケティングプランニングからデータセンターインフラまでを一気通貫で展開するサービスです。
 データ活用の世界では攻めのIT、守りのITと言われていますが、分断されていることが大きな課題です。経営やマーケティング部門はデータを活用し、情報システム部門はデータを護る、というのが象徴的ですね。同じ企業に属しているので方向性は一緒のはずですが、上手く協力体制を組めていないのが課題です。そこで我々のグループで、攻めのIT、守りのITを一気通貫でご提供したいと考え、データドックを設立しました。マーケティング、データ活用はメディックス、データをしっかり護る、使えるようなデータに仕上げるのはデータドックという方向性です。
 現在、データセンターへの新規参入はほとんど無いと思いますが、データセンターの建設と並行してデータ活用サービスも今年の秋から立ち上げる予定もあり、メディックスとデータドックのシナジー効果を見込んでいます。

10年先の競争力を見据えた最先端のデータセンター

――なぜ寒冷地でのデータセンター事業を選ばれたのでしょう。
宇佐美氏:
総務省が10年来提唱しているデータセンターの地方分散化は意義のあることですし、それに伴う地方創生への貢献というのは重要な要素だと思います。地方創生という観点は私がいつか取り組みたいと考えていた事業でもありました。
 データセンター事業で後発となる我々にはビジネスの見通しとして他社との差別化が必要だと判断し、寒冷地GEDC(Green Energy Data Center)推進フォーラムの研究成果である外気や雪氷を用いたサーバルームの冷却を取り入れました。この方式の実現には寒冷地であること、そしてハウジングサービスを考えると首都圏からの移動時間も重要になります。その環境として最適だったのが、東京から1時間45分でアクセスできる新潟県長岡市です。この冷却方式では、冬は外気冷却を使い、夏は保存した雪による冷却を中心にするというハイブリッドな空調の運用となります。これにより、電気料金のランニングコストを約40%削減できます。PUEについては、通年で1.19を想定していますが、今後は実測値としてより良い数値を公開していけると思います。
 データドックの本社も新潟県長岡市です。東京の企業が地方に出張所を出すのではなく、本社そのものを現地に置くことにこだわったからです。フジミック新潟様、BSNアイネット様、新潟ベンチャーキャピタル様といった地元企業の皆様にも快く受け入れて頂けました。我々は新潟県でデータ活用が促進されるようなインフラサービスや、データ活用そのものを促進するソリューションも提案していきたいです。
 また、今回の資金調達はほぼ地方銀行なのですが、これが内閣府でご注目頂いているようです。地方創生にあたり地方銀行を中心にシンジケートを作るというのは、低金利時代における地方銀行のビジネスモデルとして、地域に貢献するトピックスになるのではないかというのです。
 我々としては一企業としての成功や、新潟県からスタッフを募り地域の活性化に貢献したいという思いがあります。更には、同じようなプロジェクトが今後も寒冷地で展開されていくキッカケになればとも思っています。

――長岡データセンターの規模を教えてください。
宇佐美氏:
2期工事を計画しており、現在建設中の第1期データセンターは今年10月の竣工となります。第2期データセンターについては2020年4月のサービス開始を想定して計画を立てています。第1期データセンターでは500ラック、第2期データセンターは1,500ラックを見込んでいますので、合計で2,000ラック相当の仕上がりを想定しています。非常に多くの電力を使用できる高集積のデータセンターとなりますので、2,000ラックといっても標準的な東京のデータセンターの8,000から10,000ラック相当のキャパシティはあると見込んでいます。
 外気や雪氷による省電力のコンセプトと併せて、データセンターの排熱も有効活用します。水耕栽培や水産養殖を想定しており、我々と協業して頂ける専門の事業者を募っているところです。雪氷の活用、データセンター、排熱の再利用、というエネルギー循環の取り組みというのは、我々の調べたところでは世界的にも他に例は有りません。

奥村氏:自然災害への対策にも注力しています。長岡データセンターの建設地は地下2mにN値60の支持層がある強固な地盤です。その支持層の上に直接基礎を1m打ち、その上に免振装置を設置するので、非常に安定した構造です。また、水害の対策として建物を2mの擁壁で囲んでいます。災害対策と共に機器の冗長構成にも注力しており、サービスレベルはJDCCティア4に適合しています。

長岡データセンターのイメージ

――最高ランクのティア4に適合したデータセンターは希少ですね。
宇佐美氏:
インフラですので、今後10年を見通した競争力を念頭に置いています。ティア4適合だけでなく、提供電力ではラックあたり最大30 kVA、床耐荷重は1平方メートルあたり3.0tと、今後10年を見据えて、ビッグデータや4K・8K映像データを扱うのに最適な最高スペックのサーバやストレージを設置できる環境を構築しています。
 これまで問い合わせ頂いている案件ではHPCが目立ちます。国内でHPCに対応できる環境が少ないという理由からです。長岡データセンターに取り組んでみて、お客様側からするとデータセンターの場所はあまり関係無いのだと感じました。それよりも、提供電力や耐荷重といった特長にご注目頂いていますので、外気・雪氷冷却による電力コスト削減、そして土地代が安価であることにより、他の部分にコストを充てることができる地方データセンターのメリットを感じています。
 ハウジングの需要も想定していることから、技術者の方々がお越し頂いた際に快適な環境をご提供できるようカフェスペースを作り、内装も落ち着いてストレス無く過ごして頂けるような装飾にしています。一般的にデータセンターはあまり来客を想定されていないと思いますが、我々は後発ということもあり、お迎えする環境に注力しました。快適に作業して頂くにあたり我々はラックの寸法も一般的なデータセンターよりも大きくしました。特注のラックで、設置できる重量も2tですので、どのようなサーバ・ストレージでも無理なく設置できます。

奥村氏:データセンター市場では機能のメリハリ化が進んでいることもあり、他のデータセンター事業者からご相談を受けることも増えています。例えば、その事業者が抱えている案件に対して長岡データセンターの提供電力や耐荷重が適している場合、より良い提案ができます。我々はキャリアフリー、かつベンダフリーですので、しがらみも無く声を掛けやすいそうです。

――ハイスペックのサーバやストレージを設置できるのは純粋な強みですね。どのようなサービスを提供していくのでしょう。
宇佐美氏:
ホスティングサービスでは、サーバホスティングとネットワークホスティングをお客様専用の環境として柔軟性をもってご提供していきます。マネージドサービスは遠隔地であっても安心してIT機器をお預けいただけるようなサービスを提供してまいります。
 ストレージサービスも床耐荷重や電力量、そして大容量のネットワークという長岡データセンターの特長を活かすサービスとしてご提供します。市場ではクラウドとオンプレミスを組合せて活用するのがトレンドになってきていると思いますので、我々はお客様の柔軟なインフラ構築に対応できるサービスと体制を組みたいと考えています。その中の象徴的なものの一つがこのストレージサービスであり、後発かつベンダフリーの我々がお客様のニーズに柔軟に寄り添えるということを示す重要な事例だと位置づけています。
 当面は自社でクラウド基盤を持ったサービスの展開は予定していません。なかなか投資回収が難しい領域ですので、今のところは検討という段階にしています。

100Gbpsバックボーンの構築や SDN・SD-WANの導入

――ネットワーク環境を教えてください。
齋藤氏:
まずバックボーンですが、東京の大手町にネットワークハブを構築しており、長岡との間は異キャリア、異ルートによるメイン・バックアップで接続しています。帯域は共に100Gbpsですので、万が一の事態でも必ず100Gbpsの環境を維持できます。通信分野の方々にこの話をすると驚かれますが、今後4K映像が本格的に扱われる時代になると100Gbpsの帯域が無ければ映像系データへの対応は難しくなると判断しました。
 メインサイトとしての利用はもとより、BCP/DR サイトとしてもご利用頂けます。また、大阪の堂島とも10Gbpsで接続する予定です。インターネット回線はJPNAPに繋いでおり、トランジットは各キャリアに繋いでいく形にしています。
 インターネット回線は、DDoS対策に加え、入口、出口でのセキュリティ機能(IPS/IDS/FW)も提供します。企業用ネットワーク回線は、NTTCom、KDDI、Softbank、TOKAI等の回線利用を可能とし、お客様がご利用中のネットワークを切り替えることなくデータセンターやクラウドサービスに接続することができます。
 長岡データセンターには1期工事だけでネットワークサービス用に光ケーブル200芯を使用します。2期工事を含めると合計400芯を想定しています。この光ケーブルを使用して、建物の完成後は様々なネットワークサービスを提供していきます。

宇佐美氏:お客様に長岡データセンターをご紹介すると、提携データセンター数の多さに対する反響が特に大きいです。NTTグループとの提携だけでもおよそ130ヶ所で、ヨーロッパ、アジア、アメリカと世界各国にも繋がります。

齋藤氏:バックボーンの運用には最新のSDNを選んでいます。一か所で各拠点の全てのハードウェアを設定できるというメリットから、SDNを採用しました。これにより、少数の技術者でバックボーンの運用ができます。また、仮想サーバ接続や仮想ストレージ接続、及びVLANが抱える課題もSDNにより解決できます。
 バックボーン運用にSDNを使用し、提携データセンター、長岡データセンター間を柔軟、且つ迅速に接続するハイブリッドデータセンターサービスを、来年1月から提供開始します。

バックボーンのイメージ

――SD-WANへの拡張も予定されていますね。
齋藤氏:
WANのクラウド化であるSD-WANのメリットとしては、WANの規模でのオーバーレイ機能があります。例えばお客様の拠点とデータセンターを結ぶ場合、お客様が既にご利用されている各キャリアのVPN回線とどのように接続するかが課題となりますが、オーバーレイ機能ではVPNの上位を仮想ネットワークで覆うことができるので、キャリアVPNに依存せず簡単に接続ができます。SD-WANは新規参入である我々にとって、非常に相性の良い技術です。
 SDNやSD-WANといった技術が注目されている理由は、通信トラフィックの増加です。企業トラフィックの調査資料を拝見すると、年間で約13%のペースでトラフィックが増えているそうです。特にビデオトラフィックは年間で25%から30%増えていくと予想されています。企業トラフィックが増えているのは、複数のデータセンター利用やパブリッククラウド利用が増えているためで、IP-VPNや広域イーサネットの帯域を管理して毎年増やしていくことが企業での課題となっています。それを解決するのがSDNやSD-WANの仮想化技術による柔軟なトラフィック制御です。特にSD-WANは通信の種類に応じてWANネットワーク経路の選択や自動迂回経路設定が出来ますので、WANをアプリケーションレベルでトラフィック制御できるメリットがあります。

宇佐美氏:SDNによるデータセンター間接続等のバックボーン運営は、2018年1月から開始します。その次に、お客様の拠点と我々のデータセンターや全国の提携データセンター、パブリッククラウドとをSD-WANで接続させていただくというビジョンです。SD-WANはお客様のコストにもメリットを出せる機能ですので、市場でSD-WANの機器が揃い、求められる機能をご提供できることを確認できたら、サービスとして展開していきたいと考えています。

SD-WANのオーバーレイ技術のイメージ。インターネット回線、VPN回線、専用線回線の上位を仮想ネットワークで覆う技術であり、異なるキャリアの複数の物理ネットワークを論理的に一つのネットワークとして運用することができる。また、SD-WAN ではAWSやAzure、Office 365といったパブリッククラウドに対し、ユーザ拠点からアプリケーションに応じてアクセス経路を変更する柔軟なネットワーク運用が可能になり、長岡データセンターのサービスの範囲で様々なパブリッククラウドを利用できるようになる。