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寒冷地データセンターによる電力消費削減と地方創生

INTERVIEW 有料

Special Interview:NCRI

 寒冷地グリーンエナジーデータセンター(GEDC)推進フォーラムは、外気と雪氷冷房を利用することでデータセンターのサーバルーム冷却にかかる消費電力を大幅に削減することに成功している。

 データセンターにおける消費電力の削減は、環境問題、コスト削減の観点から従来より重要な課題とされてきたが、東日本大震災以降に電力料金が値上がりしたことで重要度は更に増した。2010年と2014年の産業向け電力料金を比較した資源エネルギー庁のデータでは38.2%の上昇が記されていることからも、焦眉の急であることが判る。

 寒冷地GEDC推進フォーラム(設立時は北海道GEDC推進フォーラム)を発足した津田邦和氏は、データセンター事業やクラウド事業を推進するNCRI社の会長としてGEDC構築技術の提供、および支援も行っている。津田氏は「通常、サーバルーム冷却にかかる消費電力コストはクラウド利用料金の約23%を占める。これをGEDC構築技術により削減できる」としている。

 そのGEDC構築技術を導入した最新のデータセンターが、今年10月30日に新潟県の長岡市で竣工する。GEDCは寒冷地での稼働を前提としていることから、地方に最新のデータセンターが立てられることになる。これは若者たちの職場として地方創生に繋がるという面でも注目を集めている。

 今回は津田氏より、データセンターの電力問題、GEDCの経済合理性、地方データセンターの社会的意義について話を聞いた。

(OPTCOM編集部 柿沼毅郎)

データセンターの急増と電力問題

NCRI 会長の津田邦和氏

OPTCOM:クラウド需要に比例してデータセンターは増加していますね。
津田氏:
手元のコンピュータの中枢部分を遠くのデータセンターに置くことのメリットが、世の中に広まったからです。手元のコンピュータが高度化すれば、コストや技術的な負担が増えます。コンピュータの中枢部分を遠くに設置することで、自分達の端末は軽くなり、様々なメリットを得ることができます。その典型的な例がスマートフォンですね。中枢部分をデータセンターに置くことで、高度な機械を使うコスト負担をシェアすることができます。
 これは機械だけでなく、高度なIT技術者にも当てはまります。ビジネスシーンではITの高度化に伴い、企業がクライアント・サーバを管理するIT技術者を維持する負担が大きくなります。そこでデータセンターを利用すれば負担が解消されます。
 情報やシステムを共同で利用すること自体もメリットです。例えば誰かとファイルを共有することで非常に低コストになります。ネットコンピューティングの世界では、ASP、SaaS、クラウドという段階を経て、皆で共有することのメリットが浸透していきました。情報やシステムの共有、そして中枢を遠くに設置する先としてデータセンターが生まれ、ITの高度化と共にデータセンターは巨大化しています。データセンターは誰かが考えて生まれたのではなく、社会のニーズから自然発生したのです。
 現在、日本には600ものデータセンターがあり(金融機関や官公庁、一般企業などが所有するデータセンターは除く)、水道や発電所と同様に非常に重要な社会基盤となっています。もともと日本のデータセンターは、電子計算センターが本郷の東京大学に構築され、他の国立大学も利用していたのが始まりでした。そして1995年頃からデータセンターの数が急激に増え始めます。その頃に京都議定書も始まり、電力節減の意識が高まりました。その後、私は政府の委員会のメンバーとしてITの電力消費について調査しました。放送局や家庭のPCなど様々な項目をグラフにして纏めたところ、データセンターの電力消費が日本全体の消費電力の約2%を占めるほど大きいことが判りました。

――日本の消費電力を減らそうという方針の中、データセンターが増えていくのですから大きな課題ですね。
津田氏:
クラウド利用料金の中で電力コストは50%近くを占めます。そして空調コストは電力コストの約45%を占め、クラウド利用料金の約23%を占めることも判りました。そこで私は、データセンターを寒冷地に造れば、外気と雪氷により空調の電力が不要になるのではないかと考えました。日本中からおよそ100名の技術者や大学教授にご賛同頂き、2008年に北海道グリーンエナジーデータセンター研究会(GEDC)を発足しました。
 寒冷地のデータセンターでは、冬は外気で冷却し、夏は雪で冷却する方式を考案しました。夏に雪というのは不思議な話と思われるかもしれませんが、寒冷地では冬に降った雪が夏になっても残っています。石狩市役所の雪捨場を拝見したところ、子どもがスキーを滑れるくらいの巨大な雪山がありました。こうした雪氷は水を掛けて溶かすのですが、雪捨場の土地代や氷雪の処理費用は膨大だというのです。私がその雪氷をデータセンターの冷却に使いたいと提案したところ、無料で使って良いとのことでした。我々は冷却用の雪氷が無料で手に入り、石狩市は雪氷処理のコストが低減されるのですから、お互いにメリットのある話です。
 100億円規模で建設したデータセンターの場合、電力料金は20年で200億円ほど発生します。その45%を占める空調電気量が無くなれば100億円近いコストダウンになります。つまり、無料で手に入る外気と雪を使うことで、データセンターの建物と同等の金額のコストダウンに繋がるという、インパクトのある計算が成り立ったのです。

グリーンエナジーデータセンターの経済合理性

――複数のデータセンターで実現できれば、日本の消費電力を大幅に削減するだけでなく、数兆円規模のコスト削減にも繋がりますね。
津田氏:
日本全国のデータセンターを全て寒冷地に移すというのは現実的ではありませんが、例えば既設のデータセンターの中には老朽化したものも有りますので、その機能を寒冷地に移していけば、日本のデータセンターの30%くらいが機械冷房を必要としないものになるのではないかと考えました。
 外気と雪氷によって機械冷房を使わない運用を総務省に提案し、札幌で実験したところ、成功しました。総務省がITUに実験結果を報告したところ、ベストプラクティスとして評価されます。(※2011年ITU-T勧告L.1300)
 これにより私も自信を持って論文を発表しました。機械冷房コストの削減は環境問題への取り組みだけではなく経済合理性もありますので、多くの自治体や民間のデータセンター事業者からも興味を持って頂きました。その最初が石狩市で、さくらインターネット様を企業誘致し同社はその後に東証一部上場を果たしています。次に青森県の青い森クラウドベース様も外気冷房と雪氷冷房を導入しています。そして今年10月30日に竣工する新潟県の長岡データセンターは、我々がこの10年で様々な工夫と改善を重ねてきた研究の最終バージョンを具現化したものになります。長岡データセンターは40億円を投資した500ラック規模のものとなります。更に土地を確保しており、第2棟として1,500ラック規模の設備も予定しています。合計2,000ラック規模のグリーンエナジーデータセンターが長岡に誕生します。

――国際的にも認められた画期的な技術が日本の地方データセンターで活用されているのですね。
津田氏:
今では海外からの視察もあるほどご注目頂いていますが、10数年前に思いついた時の技術では冷房の電気代よりも高額でしたので、それから熱効率を格段に改善したことで実用化に至りました。
 その過程で私は、まず反対意見を聞き、業際的にコミュニケーションをとりながら解決していきました。反対意見を聞くことで、その問題を解決すれば実用化できると判ります。私はIT分野の人間ですが、土木、建築、エネルギーと、異なる事業分野の方々と相談しながら、問題解決のヒントをもらいました。問題の解決に10年は必要だとも言われましたが、私は10年あれば解決できると考え、地道に技術開発を続けました。反対意見というのはその時点の常識ですので、それを解決していけばイノベーションとなります。

外気や氷雪を使った冷却のイメージ。間接冷却なので湿度を気にせずに使うことができる。

――外気と雪氷による冷房技術を採用したことで、機械冷房の設備は不要になるのでしょうか。
津田氏:
バックアップとして機械冷房の設備はあります。外気や雪氷という自然を扱いますので、経営計画上では念のため10%使う形にしていますが、殆ど使わないと思います。
 この長岡データセンターを建設、運用するデータドックは、長岡市を本社として起業されました。我々の研究成果による電力コストの低下に加え、東京に比べて土地代も安く、企業誘致ということで補助金もあります。これらのメリットにより、データセンター利用料金のリストプライスは東京のデータセンターと比べて半額を実現しています。更には構築にコストの掛かるティア4の完全準拠にも繋がりました。東京のデータセンターはティア3が多いので、高レベルの冗長構成や災害時のデータ保全などを実現した最高レベルのティア4はご注目頂いています。

地方データセンターの社会的意義

――ティア4の品質であれば、遠隔のデータセンターを利用する方々が気にされるリソースの監視、運用、保守も安心ですね。それでいてCO2の削減に貢献しているのですから、社会的にも意義のある取り組みだと思います。
津田氏:
社会的な意義ということでは、世界最高レベルのデータセンターを建設することで、地域に夢のある職場を作りたいという思いもあります。例えば新潟県にはコシヒカリや観光名所といった魅力がありますが、新潟県の大学生、特に理系の学生は東京に出て就職してしまうという話を聞きました。地方創生とは何かというと、若者が就職したい会社があるかどうかです。データセンター事業は東京か地方かということは関係なく勝負するビジネスですので、待遇も東京と同等です。
 また、データセンターを地方に分散することで、首都圏直下型地震が発生した際のリスクを低減できることも社会的な意義だと考えています。

――首都圏含めデータセンターは地震対策を採っていますが、それでも懸念は有るのですか。
津田氏:
データセンターの建物自体は堅牢ですし、免震対策もされています。問題は自家発電機のオイル補充です。実際、東日本大震災時に仙台のデータセンターでこの問題が発生しました。契約しているタンクローリーが来なかったのです。災害時におけるオイルの補充先としては病院、自衛隊、警察、避難所といった人命救助、災害対策が優先されるからです。私の知り合いのデータセンター事業者から、タンクローリーを紹介して欲しいという電話もありました。この時は北海道や鳥取県といった遠方からタンクローリーが駆けつけたので、止まる寸前で間に合いました。
 これが東京の場合、道路の遮断や大渋滞のリスクが増大します。様々な発表を拝見したところ、一週間は交通が遮断されると考えられます。データセンターの自家発電機の稼働時間は通常48時間なので、これでは間に合いません。政府の地震調査委員会は今後30年間に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率を示す全国地震動予測地図の平成29年版を公表しましたが、千葉県、茨城県、神奈川県でそれぞれ80%以上となっています。

――データセンターは日本の重要な社会基盤ですので、特定のエリアに集中することのリスクを感じるお話です。データセンターの地方分散に関する今後の展望をお聞かせください。
津田氏:
首都圏のデータセンターの中で築25年~30年と老朽化したものは35%近くに上ります。高性能な新型サーバやストレージの重量に耐えられない建物も多く、ITの基盤として効率が良いとは言えません。私はコンサルティングを委託されるのですが、土地のコストや首都直下型地震のリスクを考えると、やはり地方への分散が必要です。ただし、現在マーケットの7割を占めるハウジング用途も想定した場合は、首都圏から遠すぎてもいけません。首都圏から新幹線で2時間以内というのが現実的でしょう。これには宮城県、山形県、福島県、新潟県、長野県が該当します。今回の長岡データセンターのように首都圏から1時間45分ほどで行けるロケーションは、まさに理想ですね。
 私は長岡データセンターのようなものを10棟ほど建設したいと考えています。そうすれば、首都圏のデータセンター機能の30%を地方へ移すことができ、日本のクラウド基盤は更に良くなるでしょう。私自身の年齢を考えると長岡を含めて4棟ほど建設した頃に引退するかもしれませんが、社会的意義のあるグリーンエナジーデータセンターを皆さんに続けて欲しいと思っています。