光通信、映像伝送ビジネスの実務者向け専門情報サイト

光通信ビジネスの実務者向け専門誌 - オプトコム

有料会員様向けコンテンツ

毎秒数十ギガビットの伝送速度を有する300 GHz 帯を用いたテラヘルツ無線用小型送受信機を世界で初めて開発し、高速データ伝送実験に成功

モバイル/無線 無料

DVD1枚分のデータを数秒で転送するサービス実現に道

 NTT、富士通、NICTは5月26日、共同で、周波数帯域を広く確保できることから高速無線への適用が期待されている、300GHz帯を用いたテラヘルツ無線用小型送受信機を世界で初めて開発し、直交偏波を用いた多重伝送により毎秒40ギガビットのデータ伝送ができることを確認したと発表した。
 また今回、情報端末からスマートフォン等に動画や音楽などの大容量コンテンツをダウンロードするというユースケースを想定し、開発した送信機を情報端末に組み込み、同じく開発した受信機をスマートフォンサイズの小型端末に実装したコンテンツダウンロード実験を行った結果、毎秒2ギガバイト(DVD1枚分のデータを約3秒でダウンロードする速度に相当)のデータ転送を達成したという。
 これらの実験を通じて、300GHz帯のテラヘルツ波を使った大容量伝送に向けた小型無線機ならびに要素回路技術を確立したことを示しており、今後、300GHz帯を用いるテラヘルツ波の利用技術が大きく進展することが期待される。
 なお今回の成果は、平成23~27年度総務省の「電波資源拡大のための研究開発」による委託研究「超高周波搬送波による数十ギガビット無線伝送技術の研究開発」の一環として、NTT、富士通、NICTと共同で実施し得たものだという。

背景

 ブロードバンドネットワークの普及拡大に伴い、無線通信を利用した高速データ伝送の検討が世界各国で進んでいる。超高精細画像の非圧縮リアルタイム無線伝送や大容量データの瞬時転送を実現するための毎秒数十ギガビット級の伝送速度を実現するために、未利用周波数帯の活用が求められており、特に、高速データ伝送が可能な、かつ、小型の無線装置の開発が求められている。
 テラヘルツ無線は、上記ニーズに応えられる技術として有望であり、産業的に未利用である300GHz帯の適用は新たな周波数資源の開拓としても期待されている。

実験の成果

テラヘルツ無線用小型送受信機による高速データ伝送実験

 今回、超高速デバイスとして知られているインジウム燐高電子移動度トランジスタ(InP-HEMT)を用いて、送受信機向けに高周波回路を設計、および集積回路(IC)化し、300GHz帯を用いたテラヘルツ無線用小型送受信機を実現した。
 送信機は、ICを実装した金属パッケージ間およびアンテナを導波管で接続する一体化構造で実現し、毎秒20ギガビットのデータ送信を可能にする(図1)。一方、受信機は、スマートフォンサイズの端末への組み込みを想定して、アンテナ一体型金属パッケージにICを実装することで1ccサイズを実現し、無線区間を介して受信した毎秒20ギガビットの無線信号を復調し、データ信号として出力する(図2)。また、300GHz帯の電波伝搬・計測技術について、電波暗室内での実験で検証した(図3)。

図1:送信機(NTT)

図1:送信機(NTT)


図2:受信機(富士通)

図2:受信機(富士通)


図3:電波伝搬・計測実験(NICT)

図3:電波伝搬・計測実験(NICT)

 実証実験では、図4に示すように、NTTの担当した送信機、前方誤り訂正(FEC)などの信号処理部、富士通が担当した受信機、NICTが担当した電波伝搬・計測技術を持ち寄り、開発した送信機と受信機を対向させ、毎秒20ギガビットのデータ伝送を実施し、その結果、1mを超える伝送距離において、エラーフリー伝送が可能となることを確認した(図5)。

図4:システム構成

図4:システム構成


図5:実証実験系

図5:実証実験系

 さらに、2組の送受信機を用いて、互いに直交する偏波を用いた偏波多重伝送実験を行い、毎秒40ギガビットのデータ伝送が可能であることも確認。
これらの実験を通じて、無線機としての十分な特性と技術の有用性を確認したという。

データダウンロードサービスを模擬した実証実験

 今回開発した送信機を情報端末に組み込み、同じく開発した受信機をスマートフォンサイズの端末に実装し、スマートフォンをタッチすることでデータがダウンロードするサービスを模擬した検証実験を行なった(図6、図7、図8)。
 実験では、コンテンツサーバである送信側PC内に保管した映像ファイルを用いて、その転送速度について評価した。その結果、毎秒2ギガバイト(DVD1枚分のデータを約3秒で伝送する速度に相当)の高速データダウンロードが実証できた。現在、高速ダウンロードサービス実現に向けては、ミリ波により検討が進んでいるが、今回、更なる高速化に向けて、テラヘルツ無線が有効であることが確認された。

図6:情報端末

図6:情報端末


図7:受信機を実装したスマートフォンサイズ端末(115×69×20mm)

図7:受信機を実装したスマートフォンサイズ端末(115×69×20mm)


図8:情報端末にスマートフォンサイズ端末をタッチさせるところ

図8:情報端末にスマートフォンサイズ端末をタッチさせるところ

今後の展望

 今後、更なる伝送速度の高速化、通信シーケンスの効率化を図るとともに、周波数の利用検討を見越した、コンテンツダウンロードをはじめとするユースケースの検討に取り組んでいくという。