6G時代の高機能サービスの利用に向け、ネットワークとサービスの連携によるコンピューティングサービスのオンデマンド一括制御の実証に成功【NTT、ドコモ】
DX/IoT/AI 無料In-Network Computingによる6G時代のAI活用に向けて前進
NTTとドコモは3月3日、6G/IOWN時代のコアネットワークとして提案する「インクルーシブコア」構想をもとに、モバイルネットワークとAI等のサービスに用いるコンピューティングサービスのコントロールを連携させ、低遅延・帯域確保などエンド・ツー・エンドの品質をコントロール可能とするIn-Network Computing(以下、INC)アーキテクチャの実証実験を行い有効性と実現性を実証したと発表した。
本実験では、6G時代の実用化を見据え、GSMAが規定するOpen Gateway/CAMARA APIを用いて、モバイルネットワークの状況に合わせて経路制御を行う技術のほか、INCとしてユーザ通信装置の近くに設置するサーバ(コンピューティング)と接続、および連携制御を行う技術を新たに開発し実装した。これにより、ユーザ要望に基づき、ネットワークとコンピューティング双方の区間にまたがる品質要件を、APIだけで短時間に実現できることを確認した。INCアーキテクチャで、実際にリアルタイムに映像データを転送しAI解析を行うケースに適用した結果、AIモデルの性能限界90%を達成可能であることを確認した。
本実験はNokiaの協力を得て行ったもので、本実験成果についてMWC 2025(3月3日~6日:バルセロナ)のNokia社ブースにおいて次世代のアーキテクチャの取り組みとして展示される。

図1:実証実験の概要
背景
現在、6Gの国際標準化に向けた議論が各国各団体にて行われており、3GPPにおいて2025年以降にアーキテクチャやプロトコルなど技術仕様の策定が予定されている。6Gのユースケースとして、新たに没入型XRやAI/ML、センシングなどのサービスが提案されている。これらのユースケースに対してユーザが臨場感を損なわず、高品質なサービスを得られるために、6G時代のネットワークは通信の処理だけでなくサービスのデータ処理までを含めてコントロールし品質を担保することが期待されている。
このような期待をとらえ、NTTとドコモは、6G時代のサービスを支えるネットワークの要素技術としてIn-Network Computingを検討している。国際標準化の議論においても多くの企業から同様の提案があり、INCは6G時代のサービスを実現する主要な要素となると考えられている。
INCでは、ネットワークでサービスの計算処理を支援することで、機能が簡素化された端末においても、6G時代のサービスを快適に利用できるようになることが期待できる。
ISAP(In-network Service Acceleration Platform)概要
NTT、ドコモでは、上記の背景のもとINCの基盤としてISAPの研究開発に取り組んでいる。ISAPは、モバイルネットワークと連携しコンピューティングサービスを提供する基盤であり、以下の技術的特徴を備えている。
A:端末のモバイルネットワーク接続状態に合わせた通信へのコンピューティング設定
B:クラウド側のサービスの利用状態の変化に合わせたモバイル回線へのコンピューティング設定
C:モバイルネットワークやクラウド側のサービスの状態や特徴・特性に適したコンピューティングに用いるコンピューティング機能の制御
アーキテクチャ仕様拡張
従来、モバイルネットワークシステムは移動通信端末の接続や移動管理を担い、端末から外部ネットワークに至る低レイヤの接続性を対象としていた。昨今、XRやエッジコンピューティングなど高機能サービスの拡大により、モバイルネットワークシステムにおいても上位のレイヤまたはアプリケーションを意識した通信の制御が求められ、6G時代のユースケースでは一層求められることと考えられる。
NTTとドコモは、INCのアーキテクチャとしてユーザプレーン機能に計算機能を配備し、API経由でモバイルコアネットワークの制御インタフェースを介したコンピューティング機能のセットアップと、端末のネットワーク接続の同時制御についてアーキテクチャを検討し仕様拡張要素を見出した。
提案するアーキテクチャのポイントは以下3点となる。(図2)
①API経由でのサービスの属性・要件プロファイルから通信と計算に関する制御ポリシの導出・解決
②UPF上のコンピューティング機能の開始と連動した、スライスおよび通信品質の制御
③UPFに対する制御インタフェースにおける通信セッションと計算機能の設定能力の追加

図2:INCアーキテクチャの仕様拡張
実験の概要と成果
本実験は、NokiaのGSMA OpenGateway/Linux Foundation CAMARA Projectで検討されているAPIの管理やルーティングを行うプラットホーム(Network as Code)と、3GPP標準準拠のモバイルコアネットワーク(CoreSaaS)をAWS上に設置し、モバイルネットワーク通信環境を構築して実施した。
モバイルコアネットワークには、プラットホーム(Network as Code)を介してコンピューティングサービスの起動要求を受けることでISAPへの通信経路設定を行う制御を新たに導入した。ISAPのDPUやGPUなどのアクセラレータを搭載したコンテナ基盤上での制御も併せて、コンピューティングサービスの起動要求に応じて通信と計算を一括して起動制御する構成を実装した。(図3)

図3:実証実験のシステム構成
実証実験において、CAMARA APIベースのコンピューティングサービスの起動要求に応じたモバイル接続を提供する機能の動作を確認し、実用に向けてモバイル端末でのオンデマンドなコンピューティングサービス利用が可能なことを確認した。また、例としてAIによる映像解析アプリケーションを本環境で動作させ、モバイルネットワークと連携したコンピューティングサービスの効果として、端末~サーバ間のデータ交換遅延と揺らぎを最小限に抑えたことで、従来アーキテクチャでは57%だった正答率を90%のAI自体の性能限界まで向上することを確認した。

図4:ネットワークを介して映像を送信しAIで解析した結果の表示画面
各社の役割
NTT:全体アーキテクチャ・方式検討を実施し実証を計画、インクルーシブコア・ISAP技術検討・試作、オンプレミス・クラウド実証実験環境を提供
ドコモ:モバイル通信システムのグローバル標準仕様に関する知見を活かし、本実証におけるモバイルネットワークの品質・経路制御の方式検討を実施
Nokia:クラウド上の3GPP標準準拠のCoreSaaS、GSMA OpenGateway/CAMARA準拠のAPI管理プラットホームNetwork as Codeの提供
今後の展開
NTT、ドコモは、6G時代のモバイルネットワークと連携したコンピューティングサービスの提供に向け、INCの検討を継続するとともに、低遅延と帯域確保を必要とする高機能なソリューション・サービスへの展開をめざし、技術検討を進めサービス具現化を進める。
NTTとドコモは「Nokiaとも連携し、2025年の議論開始が予定されている6Gのアーキテクチャの3GPP等での国際標準化に向けて通信事業者・通信機器/端末メーカ、クラウド事業者、サービス提供事業者などとの連携を広げ、INCの研究開発およびサービス提供に向けた検討を推進していく」との考えを示している。