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既存の光ファイバ伝送で、伝送容量と周波数帯域の世界記録を達成【NICT】

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マルチバンド波長多重技術により光通信インフラの通信容量を拡大

 NICTフォトニックネットワーク研究室を中心とした国際共同研究グループは3月29日、光ファイバ伝送で世界最大の37.6テラヘルツの周波数帯域を活用し、378.9Tbpsの伝送実験に成功し、既存光ファイバの伝送容量の世界記録を達成したと発表した。

 NICTは「今回は、商用の長距離光ファイバ伝送システムで利用されている波長帯(C帯、L帯)に加え、今後の利用が期待される波長帯(O帯、E帯、S帯、U帯)を活用したマルチバンド波長多重技術により、大容量化を図った。さらに、各波長帯に最適な光増幅方式を活用して全波長帯に対応した光ファイバ伝送システムを開発し、大容量伝送実験に成功した。今回の技術は、通信需要が高まる将来において、光通信インフラの通信容量拡大に大きく貢献することが期待される」と説明している。

 なお、本成果の論文は、OFC 2024(Technical Conference 3月24日~28日:サンディエゴ)で非常に高い評価を得て、最優秀ホットトピック論文(Postdeadline Paper)として採択され、現地時間28日に発表された。

 本研究に参加している研究グループは次のとおり。
NICTフォトニックネットワーク研究室:伝送システムの設計・開発
アストン大学(Aston University、英国): ラマン増幅器の開発
ベル研究所(Nokia Bell Labs、米国): 光スペクトル整形器の開発
アモニクス(Amonics、香港): 光ファイバ増幅器、ラマン増幅器の開発
パドヴァ大学(University of Padova、イタリア): 伝送実験に研修生が参加
シュトゥットガルト大学(University of Stuttgart、ドイツ): 伝送実験に参加

背景
 増大し続ける通信需要を支えるために、光ネットワークの大容量化が求められている。近年、光ファイバの利用可能な波長帯を拡大したマルチバンド波長多重技術の研究が進んでいる。既に配備されている光ネットワークにおいて、新たな波長帯の利用は光ファイバケーブルを増設せずに通信容量を増やせるため、経済的な大容量化方法として有用だ。また、研究が進んでいる新型光ファイバとマルチバンド波長多重技術を組み合わせることで、将来にわたって光ネットワークの大容量化が可能となる。
 これまでNICTは、商用の長距離光ファイバ伝送システムで利用されている波長帯(C帯、L帯)に加え、一般的に商用化されていないS帯、E帯を利用可能にした光ファイバ伝送システムを開発し、大容量伝送を実証してきた。更なる大容量化を実現するためには、新たにO帯、U帯を利用して波長帯を拡大する必要があるが、これら全ての波長帯に対応した光ファイバ伝送システムは実現されていなかった。

今回の成果
 NICTは、O帯、E帯、S帯、C帯、L帯、U帯を合わせて世界最大の37.6テラヘルツの周波数帯域幅、1,505の波長数を使用可能にしたマルチバンド波長多重技術をベースとした光ファイバ伝送システムの設計・構築を行った。
 伝送システムは、光ファイバ、光増幅器、送受信器、光スペクトル整形器、合波器/分波器などから成る。国際共同研究グループが製作したO帯向けビスマス添加ファイバ光増幅器やU帯ラマン増幅器、O帯・U帯用の光スペクトル整形器など、各波長帯に対応した光ファイバ増幅器・光スペクトル整形器を駆使し、光ファイバの波長特性に合わせて全波長帯の光信号強度を最適設計し、378.9 Tbpsの波長多重信号の50 km伝送を達成した。
 信号の変調には、情報量が多い偏波多重QAM方式を使用し、16QAMをO帯、64QAMをE帯、U帯、256QAMをS帯、C帯、L帯に使用した。過去の成果(2023年10月:当サイト内関連記事)と比較して、伝送容量25%、周波数帯域幅35%の増加を達成し、それぞれ既存の光ファイバ伝送における世界記録を更新した(図1、後述の図3参照)。

図1:(a) 波長多重光伝送のイメージ、(b)(c) 既存の光ファイバにおける伝送容量と周波数帯域について過去の成果との比較

 今後、新しい通信サービスにより爆発的に通信量が増加することが予想される。現在使用されている光ネットワークに新たな波長帯を導入することで、光ファイバケーブル増設などの多額の設備投資をせずに、伝送容量を経済的に増加させることができる。さらに、研究が進んでいる新型光ファイバとマルチバンド波長多重技術を組み合わせることで、将来にわたる通信需要の増大に対応可能な光ネットワークの実現が期待できる。

今後の展望
 NICTは「今後は、光ネットワークの更なる大容量化をめざし、光ファイバにおける波長帯の拡張をめざす。また、マルチバンド波長多重技術と新型光ファイバを駆使して、将来の通信需要を支える光通信インフラの基盤を確立していきたいと考えている」との方針を示している。

採択論文
国際会議:OFC 2024 最優秀ホットトピック論文(Postdeadline Paper)
論文名:402 Tb/s GMI data-rate OESCLU-band Transmission
著者名:B. J. Puttnam, R. S. Luis, I. Phillips, M. Tan, A. Donodin, D. Pratiwi, L. Dallachiesa, Y. Huang, M. Mazur, N. K. Fontaine, H. Chen, D. Chung, V. Ho, D. Orsuti, B. Boriboon, G. Rademacher, L. Palmieri, R. Man, R. Ryf, D. T. Neilson, W. Forysiak and H. Furukawa

今回開発された伝送システム

図2:伝送システムの概略図

 図2は、今回開発した伝送システムの概略図を表している。
① O、E、S、C、L、U帯の送信器において1,505波長の光信号を生成し、測定波長に偏波多重16QAM、64QAMもしくは256QAM変調を行う。
② 光スペクトル整形器を使ってO、E、S、C、L、U帯の光信号の強度を一定にし、光増幅器を使って光信号を増幅する。
③ O、E、S、C、L、U帯の光信号を合波器で多重化する。
④ 50 km長の光ファイバで伝搬させる。光信号の伝送損失をラマン増幅によって補償するため、結合器を用いて必要な励起光を光ファイバに入射する。
⑤ 伝搬後、O、E、S、C、L、U帯の光信号を分波器で分けて、光増幅器によって伝送損失を補償する。
⑥ O、E、S、C、L、U帯の受信器で受信し、伝送誤りを測定する。

実験結果
 上記図2の実験系において、送信および受信時に誤り訂正処理などの様々な符号化を適用することで、システムの伝送能力(データレート)を最大限効率化するための検証を行った。
図3の実験結果のグラフは、誤り訂正を適用した後の波長ごとのデータレートを示す。1,505波長合計で378.9Tbpsを実現した。

図3:実験結果

過去の成果との比較

表1:既存の光ファイバ伝送における今回と過去の成果の比較詳細