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新規クラッド固化プロセスによる低損失全固体自己形成光導波路の作製に成功〜光通信部品の簡易低損失実装に期待〜【Orbray】

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 Orbrayは3月26日、宇都宮大学の寺澤英孝研究員、近藤圭祐助教、杉原興浩教授の研究グループとの共同研究で、クラッドを固化する新規プロセスを開発して低損失な全固体自動光接続を実現したと発表した。

研究概要

 自己形成光導波路は、光通信部品やシリコンフォトニクス部品間の簡易調心であるパッシブアライメントを実現する有望な技術として期待されている。これまでクラッドを固化させる方法において、サンプル上部から紫外光を照射する方法が提案されていたが、シリコンのような細線導波路の光接続では、自己形成光導波路コア周囲の樹脂の不均一硬化収縮によってコアに不均一な応力が発生し、損失が増大するという問題があった。

 本研究では、上記の課題を解決するために、全固体自己形成光導波路を作製するための先進的な光伝搬型選択重合プロセスを提案・実証した。クラッド固化は、光ファイバ中の短波長光の伝搬によって達成される。本技術の適用により、対向させた光ファイバ間の全固体自己形成自動光接続に成功し、波長1550 nmにおいて1.0 dB未満の低挿入損失が測定された。さらに、シリコンフォトニクスの自動光接続を達成するために、このプロセスが適用可能であることを実証した。本研究成果により、シリコンフォトニクスやマルチコアファイバなどの将来の大容量光通信部品間の簡易実装技術の実現と、それによる実装コストの低減が期待される。

研究の背景

 将来の情報通信で普及が期待されるシリコンフォトニクスにとって重要な課題は、光部品(シリコン導波路、光ファイバなど)のアライメントにある。シリコン導波路のコアサイズはサブミクロンオーダであるため、光ファイバや光源のアライメントには、精密な調心を行うアクティブアライメントを用いて実施されている。これまでスポットサイズ変換器など、アライメント誤差や結合効率を向上させる技術が提案されているが、光ファイバ/光源と、このような結合を採用したシリコン導波路との間にはアクティブアライメントや正確な位置合わせが必要だ。

 本研究では、近赤外自己形成光導波路技術を利用した革新的な低損失パッシブアライメントプロセスを紹介する。この技術は、光硬化性樹脂に光部品から発せられる光を照射することで、自己成長するポリマー光導波路の作製を可能にする。自己形成光導波路技術に宇都宮大学・Orbrayで開発した近赤外光硬化性樹脂を使用することで、パッシブアライメントを行い、シリコン導波路と光ファイバ間を自動光接続できいる。

 自己形成光導波路のシリコンフォトニクスデバイスへの実用化のためには、固体クラッドが不可欠となる。これまで溶液置換法、選択重合法など、固体クラッド形成プロセスが報告されてきた。溶液置換法は、コア作製後に周囲の未硬化樹脂を溶媒で除去し、クラッド材を充填する。しかし、このプロセスは、洗浄時に自己形成光導波路コアに大きなダメージを与える懸念があるため、細線デバイス適用には不向きだ。これに対処するため、選択重合法が提案されている。この方法は、屈折率と重合メカニズムの異なる2種類の光硬化性樹脂を利用し、コアとクラッドは異なる波長の光源を用いて作製される。クラッド固化では、混合した光硬化性樹脂溶液に上部から紫外(UV)光を照射する。しかし、この光照射によってコアの周囲で不均一な硬化収縮が生じ、コアに不均一な応力がかかるため、固化後に過剰な損失が発生する。

図1:新規光伝搬型選択重合プロセスの概念図
(a) 双方向光照射による自己形成光導波路コア形成
(b)相互拡散
(c) 片側光照射によるクラッド固化
(d) 周囲モノマ除去

 本研究では、低損失の全固体自己形成光導波路を実証するために、光伝搬型選択重合法を提案・実施した。波長405 nmにおける本重合法の実験結果から、コアとクラッドの両方を作製することができた。新規開発した光伝搬型選択重合法の挿入損失測定の結果、クラッド固化後の損失は1.0 dB未満だった。さらに、この方法がシリコンフォトニクスの自己形成自動光接続に適用できることを実証した。

研究成果

 提案する光伝搬型選択重合法の概念(図1参照)の詳細は次の通り。

 全固体自己形成光導波路の作製には、コア径8.2 μm、クラッド径125 μmの標準光ファイバを用いた。1対の光ファイバを100 μmのギャップを持つV溝付き基板上に配置した。実験材料は2種類の光硬化性樹脂混合溶液からなり、それぞれ異なる重合経路をたどり、異なる屈折率を有している。樹脂Aは樹脂Bより屈折率が低く、近赤外および紫光(UV光も使用、以下短波長光)で固化させることができる。樹脂Bは短波長光で固化させることができる。

 図1(a)では、対向する1対のファイバを用いて短波長光あるいは近赤外光を双方向に照射し、自己形成光導波路コアを形成する。この段階では、樹脂Aが優先的に重合し、樹脂Bがポリマーネットワーク、すなわちコア内に組み込まれている。その後、コア形成時に樹脂Aが消費されたため、自己形成光導波路コアの周囲に樹脂Aと樹脂Bの濃度差が形成される。樹脂AとBは互いに濃度差を緩和させるように反対方向に拡散する図1(b)。拡散が発生すると、コア周辺に樹脂Aが過剰に存在する瞬間があり、そのときコア周囲は低屈折率になる。この拡散時間は120秒で行った。

 次のステップ図1(c)では、光ファイバの片側から短波長レーザ光を照射し、過剰になった樹脂Aを導波路漏れ光によって固化させ、クラッドを形成する。このとき、コア組み込まれている樹脂Bの固化がより進行して高屈折率になる。結果として、コアは樹脂Aと樹脂Bの混合物から高屈折率に、クラッドは過剰な樹脂Aによって低屈折率になる。クラッド形成プロセスの後に、未硬化の樹脂を洗浄する図1(d)。 表1に、本研究で使用した光伝搬型選択重合法と従来法の概要を示す。

表1:本研究にて使用した樹脂と光源の波長

 光伝搬型選択重合法を検証するために、波長405 nmのレーザ光を用いて全固体自己形成光導波路を作製した。実験では、樹脂A1と樹脂B1を混合させて用いた。自己形成光導波路コアは、対向させた光ファイバから405 nmのレーザ光を双方向伝搬させることにより形成した。自己形成光導波路クラッドの作製は 405 nm のレーザ光伝搬を用いた。一方従来法は、試料全体をUV水銀ランプで露光してクラッドを固化した。

図2:光ファイバ間の自己形成光接続画像
(a)コア形成後
(b)クラッド固化し、未硬化樹脂洗浄後

 図2は、コアとクラッドの固化に 波長405 nm のレーザを使用し、1対の光ファイバ間に 全固体自己形成光導波路を作製した画像を示している。コアを形成した(a)の状態に比べて、クラッドも固化させた(b)の状態がより強固になっていることがわかる。

 405 nm光を使用した光伝搬型選択重合法で作製した自己形成光導波路の、波長1550 nmにおける挿入損失は、コア形成後で0.9 dB、クラッドの固化および洗浄プロセスを行うと0.4 dBだった。一方、従来方法での挿入損失は、コア形成後で0.6 dB、クラッド形成後で2.7 dBだった。従来型のサンプルの上部からUV光照射した場合、挿入損失が2.1 dB増加した。これらの結果は、新規提案方法が従来の方法と比較して低損失であることを示している。この低損失は、コアの周囲を均一に固化させた結果、硬化収縮によるコアへの応力が均一になり、コアの歪みが最小限に抑えられたことに起因する。

図3:シリコン導波路と光ファイバ間の自己形成光接続顕微鏡画像
(a)コア形成後
(b)クラッド固化し、未硬化樹脂洗浄後

 本提案の光伝搬型選択重合法の効果が明らかになったので、次に近赤外光硬化性樹脂を用いて自己形成光導波路を1対の光ファイバ間に作製した。波長1310 nmのレーザを用いて、自己形成光導波路コアを、波長380 nmの光伝搬でクラッドを固化した。

 自己形成光導波路コア形成後、挿入損失は0.8 dBだった。クラッドの固化および洗浄プロセスを行うと、挿入損失は0.7 dBまで減少した。これらの結果は、挿入損失1.0 dB未満の低損失全固体自己形成光導波路を実現する上で、本重合法の有効性を浮き彫りにするものとなる。全固体自己形成光導波路作製の総時間は約4〜5分であり、本光伝搬型重合法が短タクトタイムプロセスであることを示している。

 この技術は、シリコン導波路と光ファイバとの接続のようなシリコンフォトニクスの自動光接続に展開することができる。自己形成光導波路コアは、近赤外レーザをシリコン導波路と光ファイバから双方向照射した。自己形成光導波路コア形成後、拡散を行い、短波長光を光ファイバ側からコアへ光伝搬させてクラッド固化させた。図3は、(a) 自己形成光導波路コア、(b) 残留モノマ洗浄後の全固体自己形成光接続の顕微鏡像となる。提案した新規プロセスにより、シリコン導波路と光ファイバ間の全固体自己形成光接続に成功した。

今後の展望(研究のインパクトや波及効果など)

 本研究では、光伝搬型選択重合法を開発し、全固体自己形成光導波路を実現することに成功した。1対の光ファイバ間の自動光接続は、1.0 dB未満の挿入損失を示した。さらに、本プロセスを用いて、シリコン導波路と光ファイバ間の全固体自己形成光接続を実証した。

 マルチチャネル導波路やマルチコアファイバを含む将来の超高速光通信応用を展望すると、自己形成自動光接続は、複数の導波路からのレーザ照射によってポリマー導波路を同時に作製する方法として有望だ。コア形成工程とクラッド形成工程では、マルチチャネルから同時に光照射しても全体のタクトタイムは増加しないので、提案した全固体自己形成自動光接続法は、高スループットと自動光接続の点で有利だ。これらの結果は、自己形成光導波路技術が将来の光電融合技術で実現されるであろう光ネットワークの接続に関連するコストとタクトタイムの課題に対処する有力解であると期待される。

 本研究の成果は、OFC 2024(エキシビション3月26日〜28日:サンディエゴ)にて展示される。

論文情報

論文名: Cladding solidification process by fiber guided light: Fabrication of low-loss light-induced self-written optical waveguide
雑誌名: Optics & Laser Technology
著者: Hidetaka Terasawa, Tsuyoshi Namekawa, Keisuke Kondo, and Okihiro Sugihara
Digital Object Identifier: 10.1016/j.optlastec.2024.110786