従来世界記録の2倍、伝送容量が22.9 Pbpsの光ファイバ通信を可能に【NICT】
テレコム 無料光ファイバ通信の最先端技術を集結し、飛躍的な伝送容量向上を実現
NICTは10月5日、同機構のフォトニックネットワーク研究室を中心とした国際共同研究グループが、1本の光ファイバで世界最大の伝送容量となる22.9Pbpsの通信が可能であることを実証し、これまでの世界記録であった10.66Pbpsを2倍以上更新したことを発表した。
この研究で同グループは、これまでに培ってきた、世界最先端の空間多重光ファイバを用いる技術と、世界最大級の波長多重を行う技術の融合に成功した。これにより、将来の大容量光通信インフラへの応用が期待される。
NICTは「本実験結果の論文は、ECOC 2023にて非常に高い評価を得て、最優秀ホットトピック論文(Postdeadline Paper)として採択され、現地時間10月5日に発表した」と説明している。
背景
増大し続ける通信量に対応するため、現在市中に敷設されている光ファイバよりも光経路の数が多い空間多重光ファイバを用いる技術や、波長ごとに異なるデータを載せて全体の伝送容量を増やす波長多重などの技術が開発されている。
NICTでは、マルチコア方式とマルチモード方式を組み合わせた、100通り以上の光経路を有する空間多重や、商用の波長帯(C、L)と商用化されていないS波長帯のほぼ全域を活用した、合計20THzの周波数帯域を有するマルチバンド波長多重などをこれまでに実現している(表1)。
しかし、空間多重とマルチバンド波長多重の併用に関しては、4コアファイバ中心に検討が進められており、より多数の光経路を有する光ファイバ(例えば、38コア3モード)においては、伝搬に伴い各コアやモード間で生じる信号同士の干渉を分離するためのMIMO受信機をマルチバンド伝送に対応させる必要があった。
今回の成果
NICTは、2020年に10.66Pbps伝送を実証した38コア3モード光ファイバ伝送システムのMIMO受信機をマルチバンド伝送用に拡張することで、マルチコア・マルチモード方式による空間多重と、マルチバンド波長多重の融合に成功し、合計22.9Pbpsに及ぶ超大容量光通信の可能性を実証した。
使用した波長数は、S帯で293波、C帯とL帯で457波の合計750波で、18.8 THzの周波数帯域を使用した。信号の変調には、情報量が多い偏波多重256 QAM方式を使用した。ほぼ周波数帯域の等しい4コアファイバでの実験と比べ、光経路の数を28.5倍に拡大した(図2)。
コアごとに約0.3〜0.7Pbps、全38コアの合計で22.9Pbpsの伝送容量が得られた。これは、現在の商用の光通信システムにおける伝送容量の約1,000倍に相当し、3年前の記録に比べ2倍以上の伝送容量拡大を果たした。
現在、4コアファイバの実用化が推進されているが、通信量が1,000倍になるといわれる将来に向けては光通信インフラの更なる高度化が求められ、超大容量の光ファイバを実用化していく必要がある。同研究は、将来の超大容量な情報通信ネットワークの実現に向けた、マルチコア・マルチモード方式による空間多重技術とマルチバンド波長多重技術の併用の初実証と位置付けられる。
今後の展望
NICTは「マルチバンド波長多重の適用範囲を、より大規模なMIMO受信機を要する結合型マルチコア光ファイバやマルチモード光ファイバへと拡張し、Beyond 5G後の光通信インフラ進化の道を築く」との考えを示している。
実験の詳細
① S、C、L波長帯で750波長の光を生成し、測定波長の光に偏波多重256QAM変調を与える。
② 各波長帯用の光増幅器を用いて送信信号を増幅する。
③ 測定コアとその周辺コアに対し選択的に光信号を入力するため、光経路スイッチにより出力経路を切り替える。
④ 38個の3モード多重器で、114本の従来型光ファイバ入力を38本の3モード光ファイバ出力に変換する。
⑤ 38本の3モード光ファイバ入力を、38コア多重器により38コア3モード光ファイバ出力に変換する。
⑥ 13 kmの38コア3モード光ファイバの測定コアとその周辺コアを光信号が伝搬する。
⑦ 38コア3モード光ファイバ入力を、38コア分離器により38本の3モード光ファイバ出力に変換する。
⑧ 38個の3モード分離器で、38本の3モード光ファイバ入力を114本の従来型光ファイバ出力に変換する。
⑨ 測定コアを伝搬した3モード分の信号を、光経路スイッチによって選択する。
⑩ 波長多重された3モード分の受信信号を、各波長帯用の光増幅器を用いて増幅し、波長可変フィルタによって波長多重分離し、3モード同時にコヒーレント受信する。
⑪ 電気信号に変換され、保存された受信データにオフラインでMIMO信号処理を行い、送信信号を復調し、信号品質を評価してデータレートを求める。
今回の実験結果
上記図3の実験系において、送受信時に誤り訂正処理などの様々な符号化を適用し、各コア・波長ごとにデータレートの最大化を行った。下記図4のグラフの各シンボルは、各コア・波長チャネルにおける誤り訂正適用後の3モード合計のデータレートを示し、全てのデータレートを合計すると、22.9 Pbpsだった。
国際共同研究グループ
本件の研究には、NICTフォトニックネットワーク研究室のほか、次の研究グループも参加した。
アイントホーフェン工科大学(Eindhoven University of Technology、オランダ): 伝送実験に研修生が参加
ラクイラ大学(University of L’Aquila and CNIT、イタリア): 伝送実験に研修生が参加