世界初、空間分割多重技術を用いた伝送容量拡大と消費電力低減の両立に成功【NTT】
テレコム 無料マルチコア構造を用いた一括光増幅器により消費電力を67%低減
NTTは9月28日、増幅用光ファイバに12コアを高密度に配置したマルチコア構造を用い、C-bandにおいて世界で初めてマルチコア一括増幅による、伝送容量拡大と省エネルギー化を両立したと発表した。
NTTは「本成果により、従来技術に比べ消費電力を67%低減できることを世界で初めて実証し、マルチコアファイバ(MCF)を用いた伝送容量拡大技術に省電力化の付加価値を見出した。本実証結果をもとにIOWN構想がめざす10チャネルを超える空間分割多重伝送路の一候補として2030年目途での技術確立をめざす」としている。
今回の成果は、スコットランドで開催されるECOCに採択され、現地時間の10月4日に発表される予定だ。
研究の背景
光ファイバを用いた通信基盤は現代の生活において必要不可欠となっており、今後も6G無線通信の導入、動画視聴、自動運転や生成AIなどの多様なサービスの普及に伴い、データ需要はますます増加すると考えられている。
このため、光通信基盤に求められる伝送容量も指数関数的に増大すると考えられており、NTTにおいても、光ファイバ通信の持続的な伝送容量の増大に向けた研究開発を進めている。例えば、マルチコアファイバなどの空間分割多重技術によって、今後更なる伝送容量の拡大が期待されるが、現状の光増幅方式では伝送容量の拡大に伴い、長距離光通信で必須となる光増幅器の消費電力も増大してしまうという課題があった。
そこで、伝送容量の拡大と抜本的な低消費電力化を両立すべく、光増幅器におけるマルチコア構造を用いた一括光増幅による省電力化について検討したという。
研究の成果
マルチコアファイバなどの空間分割多重技術による伝送路の容量拡大に伴い、既存の増幅技術では光増幅器の台数が増加するので、伝送システム全体の消費電力が増加してしまう課題がある。これに対し、マルチコア構造を用いた光増幅技術を適用すると、増幅用の励起光を複数コアで共有できるため、既存の単一コア構造を用いた光増幅技術に比べ省電力化が実現できると期待されていた。
今回の研究発表は、2つの要素技術を用い、従来技術に比べ消費電力を67%低減できることを世界で初めて実証し、マルチコアファイバを用いた容量拡大技術に省電力化の付加価値を見出したものとなる。
技術のポイント
増幅用光ファイバ断面内におけるコアの面積比率(コア密度)を最大化
図3に示すように、従来の光増幅器(コア励起方式)では、コア単位で励起光を入射してコア内を伝搬する信号光を増幅するが、今回検討した光増幅器ではクラッド励起方式という、光ファイバ断面全体に励起光を入射して断面内の複数コアを伝搬する全ての信号光を一括で増幅する技術を用いている。同方式では、1台の励起光用レーザを複数のコアで共有できるため、消費電力が低減できると期待されていた。一方で、励起光が広く光ファイバ断面全体を伝搬するためコア励起方式と比較して信号光と励起光の重なりが小さく、励起光から信号光へのエネルギー移行効率が低く(光増幅に使用されない励起光の割合が大きく)、その分多くの励起光パワーが必要となってしまい、期待される省電力性が得られていなかった。
同研究で用いた増幅用光ファイバは、図4に示すように、伝送路光ファイバと同等のマルチコア配置(コア数およびコア間隔)を維持したまま、増幅用光ファイバの外径(クラッド直径)とコア直径を、それぞれ縮小および拡大することでコアのクラッドに対する面積比率を最大化し励起光の使用効率を最大化した。
光増幅器構成の最適化により励起光の損失を最小化
増幅用光ファイバのコアの面積比率を高めるためにクラッド直径を縮小したことにより、伝送路光ファイバと増幅用光ファイバとの接続点でクラッド直径が整合せず励起光の一部が損失する課題が生じる。また、従来および提案技術のいずれにおいても、光増幅に使用されず増幅用光ファイバ伝搬後に残留し、除去されてしまう励起光が発生する。今回の検討では、図5に示すように、テーパー構造と反射デバイスを採用することで、励起光損失および残留励起光を低減し、さらに光増幅の効率を高めることに成功した。
- テーパー構造…増幅用光ファイバのクラッド径縮小により新たに発生する励起光の結合損失を最小化
- 反射デバイス…光増幅に使用されなかった励起光を再活用することで残留励起光の割合を最小化
今後の展望
NTTは「今回、伝送容量の拡大をめざしつつ地球環境に配慮すべく、光増幅器の抜本的な省電力化を実証し、伝送路の大容量化と省電力化を両立した。今後は伝送路光ファイバと本光増幅器を組み合わせた中継伝送路を構築し、省電力・長距離・大容量光増幅伝送を実証し、IOWNがめざす10チャネルを超える空間分割多重伝送路の一候補として2030年目途での技術確立をめざす。また、NTTが掲げるNTT Green Innovation toward 2040の推進に貢献する」との考えを示している。