世界初、5G無線子局用ミリ波チップで最大4ビームの多重技術を開発【NEDO、富士通】
モバイル/無線 無料10Gbps以上の高速かつ大容量通信と消費電力30%削減を実現
NEDOと富士通は8月28日、NEDOの「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業/ポスト5G情報通信システムの開発(委託)」で、富士通が5G基地局の無線子局(RU)において一つのミリ波チップで最大4ビームを多重できる技術を開発したと発表した。
マルチビーム多重(偏波多重を除く)に対応した5G向けミリ波チップの開発は、世界で初めてとなる。
従来はミリ波チップ一つで1ビームを生成していたため、RUが大型化し消費電力が増加する課題があった。今回開発した技術を実際の基地局に適用した場合、従来型のRUを用いて4ビーム多重での電波発射を実施した場合と比較すると、2分の1以下の装置サイズで10Gbps以上の高速かつ大容量通信を実現できる。また、RUチップ数を削減したことで、RU一つあたりの消費電力を従来比で30%削減できることを確認したという。
富士通は、2023年8月から同技術を搭載した基地局装置の開発を開始し、グローバル市場でのミリ波の普及推進と通信事業における脱炭素化に貢献していく。
NEDOは同技術をはじめ、今後もポスト5Gに対応した情報通信システムの中核となる技術を開発することで、日本のポスト5G情報通信システムの開発および製造基盤の強化をめざす。
背景
5Gシステムが、様々な産業で進むDXの基盤としてグローバルに展開されている。将来的には、5Gが持つ超低遅延や多数同時接続といった機能を強化したポスト5Gの普及が見込まれており、その移行と普及を円滑に進めることが企業のビジネス発展や市場の活性化、エンドユーザの利便性向上において重要だ。
現在の5Gでは、高速かつ大容量通信を実現する手段として、広帯域の周波数割り当てが可能なミリ波の活用に注目が集まっている。ポスト5Gでは、広帯域であるミリ波帯の無線リソースを有効利用することで、さらなる高速かつ大容量化が期待されている。一方でミリ波をはじめとする高周波数帯の電波は、障害物で遮蔽されやすい性質があり、離れた地点間での通信が難しくなる傾向がある。そのため、ミリ波の普及のためには、一つのエリアを多数の無線基地局でカバーする必要があり、RUの小型化や省電力化、コスト低減などが課題となっている。
こうした背景を踏まえ、NEDOの実施する本件の事業で富士通は、2020年6月から2023年6月まで、ポスト5Gに対応し情報通信システムに活用できるRUを高性能化する技術の開発に取り組んだ。
今回の成果
同事業の成果として、今回、ミリ波のビームフォーミングにおいて、1チップで複数のビーム多重に対応可能とする技術を開発した。マルチビーム多重(偏波多重を除く)に対応した5G向けミリ波チップは世界で初めてとなる。
従来のミリ波チップは、一つの入力信号に対して振幅と位相制御を行い、増幅器で増幅する構成となっており、一つのミリ波チップで1ビームを生成していた。一方で、ビーム多重を実現するには、ミリ波チップを複数使用する必要があり、実装面積が大きくなってしまうため、RUが大型化して消費電力も増える課題があった。
今回開発した技術では、四つの入力信号を中間周波数(IF)帯回路によって高密度集積し、四つのIF帯入力信号に対してそれぞれ独立した振幅と位相制御を行う。これら四つのIF帯信号を周波数変換回路によってミリ波帯へ変換すると同時に合成し、一本化された合成信号を一つのミリ波帯高出力増幅器で増幅することで、最大4ビーム多重を一つのミリ波チップで実現できる。
今回開発したミリ波チップを使用することで、実装面積を増やすことなく4ビーム多重に対応できるため、高速かつ大容量に対応した、小型で低消費電力のミリ波RUを実現できる(下図)。
今回開発したミリ波チップを富士通製のRUに適用したところ、従来型のRUを用いて4ビーム多重での電波発射を実施した場合との比較において、2分の1以下の装置サイズで10Gbps以上の高速かつ大容量通信を実現できたという。また、ミリ波チップ数を削減したことでRU一つあたりの消費電力を従来比で30%削減できることを確認したという。
今後の予定
富士通は、2023年8月から同技術を搭載した基地局装置の開発に取り組み、2024年度中に本事業で開発したビーム多重技術を適用したRUの商用展開をグローバルで開始する。その後、基地局の親局(CU/DU)製品にもビーム多重技術を適応し、2025年度よりグローバル提供を開始する。また、通信事業者などユーザの脱炭素化に加え、ネットワークの高度化に向けて継続して技術開発を行い、次世代通信基盤の早期展開に貢献する。
NEDOは、同技術をはじめ、今後もポスト5Gに対応した情報通信システムの中核となる技術を開発することで、日本のポスト5G情報通信システムの開発および製造基盤の強化をめざす。