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世界初、大容量テラヘルツ波信号を光ファイバ無線技術で異なるアクセスポイントに分配・送信する技術を実現【NICT、住友大阪セメント、名古屋工業大、早稲田大学】

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Beyond 5G時代の無線システム社会実装に向けて 途切れることのない通信や省エネルギー化に期待

 NICT、住友大阪セメント、名古屋工業大、および早稲田大学は5月15日、共同で、テラヘルツ波となる285ギガヘルツの周波数帯で32Gbpsの大容量テラヘルツ波無線信号を異なるアクセスポイントへ透過的に分配・送信するシステムの実証に世界で初めて成功したことを発表した。
 これを可能にしたのは、新規開発のテラヘルツ波-光変換デバイスと光ファイバ無線技術だ。今回開発したシステムは、テラヘルツ波帯の電波のデメリットとされる「遠くに届きにくい、広い範囲をカバーしにくい」といった課題を克服することができ、無線信号のカバー範囲を拡大し、Beyond 5Gネットワークにおけるテラヘルツ波通信の展開に道を開くことができるという。
 4者は「本実験結果の論文は、OFC 2023にて非常に高い評価を得て、最優秀ホットトピック論文(Postdeadline Paper)として採択され、現地時間3月9日に発表した」としている。

背景
 テラヘルツ波通信は、Beyond 5Gネットワークのアクセスポイントで超高速データレートを得るための有力な候補だ。しかし、テラヘルツ波の信号は、5Gで使用されているマイクロ波帯やミリ波帯の信号に比べ、伝搬損失が非常に大きいため、長距離の送信や屋外から屋内など、障害物のある環境での通信が困難となる。また、テラヘルツ波帯の電波はカバー範囲が狭いため、ユーザの移動がある場合、途切れなく通信を実現することが困難だ。このような課題を克服するためには、テラヘルツ波信号を透過的に分配・送信することが重要だが、これまでこれらを効率よく実現する技術はなかった。

図1:テラヘルツ波-光変換デバイスの構成

今回の成果
 今回、NICT、住友大阪セメント、名古屋工業大及び早稲田大は共同で、テラヘルツ波信号を光信号に変換し、様々なアクセスポイントに透過的に分配・送信する技術を確立することに世界で初めて成功した。
 要素技術の一つ目は、共同開発した、テラヘルツ波を光信号に変換するテラヘルツ波-光変換デバイスで、強誘電体電気光学結晶(ニオブ酸リチウム)を利用した高速光変調器だ(図1参照)。結晶の厚さを従来比5分の1以下である100マイクロメートル以下とすることで、285ギガヘルツのテラヘルツ波にも対応可能な高速性を実現した。
 二つ目は光ファイバ無線技術で、テラヘルツ波信号の行き先を変更できる機能を付加した点だ。テラヘルツ波信号を搬送するために、波長可変レーザにより生成した異なる波長のレーザ光を用い、波長を切り替えることで、テラヘルツ波信号をスムーズに切替え可能にした。これにより、特定の波長が割り当てられた異なるアクセスポイントすなわちユーザの位置に応じて配信することが可能になる。
 これらの開発技術を組み合わせることで、4QAM変調で32Gbpsの大容量テラヘルツ波信号を直接光信号に変換し、異なるアクセスポイントに分配・送信する伝送システムの構築・実証に成功した。また、テラヘルツ波の信号を10マイクロ秒以下という極めて短い時間で切り替えることができる可能性を示した。
 4者は「本成果を応用することにより、テラヘルツ波信号をあるアクセスポイントから他のアクセスポイントへ透過的に伝送することが可能となる。また、アクセスポイント間のテラヘルツ波信号の経路制御や切替えを行うことで、途切れることのない通信や省エネルギー化が期待される」と説明している。

図2:テラヘルツ波-光変換デバイスと光ファイバ無線技術によるテラヘルツ波信号の分配・送信

図3:今回開発した薄板型ニオブ酸リチウム光変調器の概念

今後の展望
 4者は今後について「今回確立したテラヘルツ波-光変換デバイスと光ファイバ無線技術を活用し、Beyond 5G時代の無線システムに向けた更なる高周波化、高速化および低消費電力化をめざした技術検討を進めていく。また、技術検討と並行し、国際標準化活動並びに社会展開活動を推進していく」との方針を示している。

役割分担
NICT: 光・無線直接伝送技術の設計・技術開発・実証実験・標準化活動
住友大阪セメント: 無線信号を光信号へ変換するデバイス、高速光変調器の設計・技術開発・標準化活動
名古屋工業大学: 光局発信号発生器、光ファイバ無線技術の研究開発
早稲田大学: 光ファイバ無線技術の研究開発

今回開発したシステムの基本構成

図4:伝送システムの概略図

 図4の伝送システムは、下記の手順により、285ギガヘルツ・32Gbpsのテラヘルツ波無線信号伝送を実現した。

(1) 光ファイバ無線信号送信機
275.2ギガヘルツの周波数間隔を持つ2波長を用い、一方の波長は9.8ギガヘルツの信号で変調し、もう一方は無変調とした。変調された信号と変調されていない信号を再結合し、周波数間隔285ギガヘルツ(=275.2+9.8ギガヘルツ)のRoF信号を生成した(図4 (1)内の右上)。

(2) テラヘルツ波無線送信機
光ファイバを伝送後、テラヘルツ波変換部にて、高速光検出器をベースとした光電変換器により、RoF信号から285ギガヘルツのテラヘルツ波信号へ変換し、パワーアンプで増幅した。

(3) 中継ノード
受信した信号は、RFプローブを用いて、新たに開発した高速光変調器に接続し、光信号に変換した。テラヘルツ波信号の変調と切替えには、制御回路を備えた波長可変レーザを使用した。変調された信号は増幅され、波長ルータに接続され、異なるアクセスポイントに転送された。

(4) アクセスポイント
受信した光信号は、別の高速フォトダイオードに入力され、再び285ギガヘルツのテラヘルツ波信号に変換された。この信号を増幅し、48 dBiのレンズアンテナで自由空間へ送信した。

(5) テラヘルツ波信号受信機
約5 m伝送した後、別のレンズアンテナで受信し、増幅した後、サブハーモニックミキサで10.2ギガヘルツに下方周波数変換した。最後に、信号を増幅してリアルタイムオシロスコープに送り、オフラインで復調した。

実験結果

図5
(a) 285ギガヘルツのテラヘルツ波信号のデータレートを変えた場合の伝送性能
(b) 受信機で32gbpsの信号のコンステレーションを行う
(c) テラヘルツ波信号の切替時間10マイクロ秒以下

 図5の実験結果のグラフは、異なる波長で送られてきた信号の誤り率を示している。ビットレートが上がると誤り率が上がるが、32Gbpsまではデータ伝送可能であることが示された。誤り訂正前のエラーベクトル振幅値(EVM: Error Vector Magnitude、伝送誤りに相当)で、4QAMにおいては、オーバーヘッド20%で帯域幅32ギガビットに相当する。
 (b)は、受信時の4QAM信号で、4つのシンボルがはっきり見えるほど信号品質が良い(エラー訂正が少なくて済む)ことになる。
 (c)は、テラヘルツ信号の切替えを行っているところを可視化した図で、横軸が時間、縦軸が信号強度になる。途中くぼんでいる部分が切替えを行っているところ(データが止まっているところ)だが、テラヘルツ波信号の切替えを10マイクロ秒以下で行える可能性を示した。

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