光通信、映像伝送ビジネスの実務者向け専門情報サイト

光通信ビジネスの実務者向け専門誌 - オプトコム

有料会員様向けコンテンツ

遠隔手術を支えるロボット操作・同一環境共有をIOWN APNで実証開始【NTT、メディカロイド】

DX/IoT/AI 無料

100km以上離れた拠点間を同一手術室のようにする環境を実現

 NTTとメディカロイドは11月15日、将来一般化していくと想定される遠隔手術の実現に向けた研究として、国産の手術支援ロボット「hinotori サージカルロボットシステム」(※)とIOWNオールフォトニクス・ネットワーク(以下、APN)を接続することで、物理的に離れた環境を1つの環境のように統合し、手術室の状況をよりリアルに伝送でき、コミュニケーションがスムーズに行える場の共有をめざした共同実証を開始したと発表した。

 NTT武蔵野研究開発センタ内に、大容量・低遅延・遅延ゆらぎほぼゼロの特徴を持つAPNの実証環境(100km以上)を構築。その環境下でメディカロイドの「hinotori サージカルロボットシステム」を接続し、APN上で遅延ゆらぎほぼゼロでのロボット制御、非圧縮による超低遅延かつ暗号技術による高セキュリティな映像伝送での手術環境共有を行うとともに、NTTが長年取り組む音声技術を用いて、様々な音が飛び交う手術室でもクリアな会話を可能にする機械音除去等の技術の実証を行った。

※hinotoriサージカルロボットシステム:メディカロイド製の手術支援ロボットで、2020年8月に国産の内視鏡手術を支援するロボットとして製造販売承認を取得(承認番号:30200BZX00256000)。同年12月に 泌尿器科領域で1例目の手術を実施しました。2022年10月には消化器外科および婦人科への適応について承認を取得。現在は日本全国で使用症例を増やしている。

背景

 手術支援ロボットによる遠隔手術は、人口減少や外科医師数の減少、医療の均てん化といった社会課題の解決だけでなく、地域医療支援と若手外科医の教育・育成による医療レベルの向上にも寄与することが期待されている。
 一方で、実現に向けては次のような課題があるという。

  • 手術支援ロボットの遠隔操作は、ネットワークでの遅延やゆらぎの影響を大きく受けるため、執刀医がストレスなく、通常のロボット手術と変わらない形で遠隔手術を行えること
  • 遠く離れた環境では手術中の意思疎通を図るコミュニケーションが重要であり、執刀医や医療従事者が長時間ヘッドホン等のデバイスを装着することはストレスとなるため、デバイスを装着することなく空間環境全体の映像や音などの情報を高品質かつリアルタイムに伝送できること
  • 遠隔手術ではロボットにかかわる情報だけでなく、バイタルデータなどの個人に関わる情報を安全かつ正確に伝送するため、量子コンピュータでも解読されない高度なセキュリティ対策が講じられること

共同実証内容

 今回の研究では、APNを中心としたNTTの技術を応用することで次の実証を継続して実施する。

  • 拠点間で1波長あたり100Gbps以上の大容量、物理限界に迫る低遅延性、ネットワーク遅延の時間変動がない遅延ゆらぎほぼゼロの特徴を持つ光伝送パスを実現し、通常の手術と変わらない動きでの遠隔操作に関する実証
  • 超低遅延映像伝送技術により、8Kの超高精細映像で手術環境の共有に必要な手術支援ロボット以外の情報を光伝送パスに非圧縮でダイレクトに送出し、長距離かつ超低遅延のリアルタイムコミュニケーションを行うとともに、コミュニケーションの阻害要因となる音のみを除去するノイズキャンセリングにより同一環境で手術しているかのような手術環境の共有に関する実証
  • 量子計算機でも攻撃が困難な暗号鍵交換技術やセキュア光トランスポートネットワーク技術を用いて、遠隔手術で送受信するデータを耐量子計算機暗号技術で交換した暗号鍵で暗号化することによる、量子計算機時代のセキュリティ確保に関する実証

構成図

今後の展開

 NTTとメディカロイドは「今後、本研究および技術を適用した遠隔手術支援のフィールド実証を共同で進め、遠隔医療の更なる拡大による医療の質の向上、質の高い医療へのアクセシビリティの確保に貢献するとともに、この基盤であるIOWN APNの技術を、遠隔での低遅延、遅延ゆらぎのないリアルタイム制御の活用を通して、各産業分野における課題解決ならびに、社会課題の解決に展開していく」との考えを示している。