“ポスト5G”を担う世界初のGaN-HEMTを開発【住友電工】
モバイル/無線 無料高出力・高周波ニーズに対応する次世代情報通信システムの実現に前進
住友電気工業(以下、住友電工)は10月18日、さらなる大容量・高速通信を実現する “ポスト5G”を見据え、GaN結晶にN極性を、そしてゲート絶縁膜に世界初のハフニウム(Hf)系の高耐熱高誘電材料を適用した窒化ガリウムトランジスタ(以下、GaN-HEMT※)を開発したと発表した。
- ※GaN-HEMT:「HEMT」は「High Electron MobilityTransistor(高電子移動度トランジスタ)」の略であり、その名が示すようにトランジスタの一種。世界各国の衛星放送受信機への搭載を皮切りに、携帯電話端末や基地局、衛星ナビゲーション用受信機、自動車衝突防止のためのミリ波レーダなど、マイクロ波・ミリ波領域の各種装置で不可欠なデバイスとなり、現在に至るまで情報通信社会を支える基盤技術として貢献し続けている。住友電工は長年に渡る「HEMT」の技術をベースに、より優れた材料物性を持つGaNと組み合わせて、「GaN-HEMT」を世界に先駆けて製品化し、GaN-HEMTの市場を牽引してきた。
GaN-HEMTは、5Gに代表される高周波増幅器用途に広く用いられている。将来の“ポスト5G”においては、データ伝送量を増やすために、通信機器内で使われるトランジスタには高出力化・高周波化に対応することが求められている。
従来、GaN結晶にはGa極性(面方位0001)が広く用いられてきたが、さらなる高出力化・高周波化をめざすにあたり、素子設計の自由度が高まり、かつ漏れ電流が抑制可能な逆HEMT構造を実現するN極性(面方位000-1)(Ga極性とは結晶方向が異なる)による特性改善が注目されている(図1)。
一方でN極性の結晶はヒロックと呼ばれる異常成長部による凹凸が発生しやすいという課題がある。また素子設計においても、逆HEMT構造の実現には従来の半導体バリア層に代わりゲート電極に対してバリアとなる良質なゲート絶縁膜の開発という課題があった。
そこで住友電工は長年の結晶成長技術を活かし、ヒロックの無い高品質なN極性の結晶を実現すると共に(図2)、課題であったゲート絶縁膜に最先端のSiトランジスタで用いられるハフニウム(Hf)系の高耐熱高誘電材料の一種を世界で初めて適用することで、高誘電材料を用いたN極性結晶のトランジスタを完成させ、良好な高周波特性を実現した(図3)。
今回の成果はNEDOの委託事業「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」の結果によるものであり、詳細は米国フエニックス市で開催されるBCICTS(2022 IEEE BiCMOS and Compound Semiconductor Integrated Circuits and Technology Symposium)にて、10月17日(現地時間)に発表されるという。
住友電工は「高周波特性・低消費電力に優れるGaN-HEMTは“ポスト5G”の実現には不可欠となるため、特性の更なる改善が期待されており、今回開発した新しいGaN-HEMTは特性改善に大きく貢献していく。当社はこれからも技術開発を進め、高周波通信のさらなる高度化や社会の省エネルギー化、脱炭素化に貢献していく」との方針を示している。