世界最高速、1波長あたり2Tbps超の光伝送実験に成功【NTT】
テレコム 無料IOWN/6Gにおけるオールフォトニクス・ネットワークの大容量化・長距離化技術として期待
NTTは9月22日、世界最高速となる1波長あたり2Tbpsを超えるデジタルコヒーレント光信号の光伝送実験に成功したと発表した。
同実験では、NTTが独自に開発した超広帯域ベースバンド増幅器ICモジュールと、光送受信回路の歪みを超高精度に補償可能なデジタル信号処理技術との高度な融合により、世界で初めて、1波長あたり2Tbpsを超えるデジタルコヒーレント光信号の送受信を実証し、2.02Tbps光信号の240km光増幅中継伝送実験に成功した。
この成果は、従来の実用レベルの2倍以上となる波長当たりの大容量化と長距離化を両立可能なデジタルコヒーレント光伝送技術の更なるスケーラビリティの可能性を示したものであり、将来のIOWN/6Gにおけるオールフォトニクス・ネットワークの実現につながるコア技術として期待される。
同技術の詳細は、9月18日からスイス、バーゼルで開催される国際会議ECOC2022(European Conference on Optical Communication)の最難関発表セッションであるポストデッドライン論文として発表予定だという。
研究の背景
将来の様々な社会課題を解決する5Gサービスの普及と将来のIOWN/6Gサービスの実現に向け、通信トラフィックは今後も増え続けることが予測されている。IOWNの基幹光通信ネットワークであるオールフォトニクス・ネットワークにおいては、さらなる大容量化を経済的に実現することが求められている。
将来的には1.6Tbps以上の超高速イーサネット信号などを経済的に長距離伝送するためには、光信号1波長あたりの伝送容量を拡大することが有効であり、信号のシンボルレートを上げ、1シンボルあたりの情報量を最適化することで、1波長あたり毎秒マルチテラビット(毎秒2テラビット)以上の長距離光伝送の実現が望まれている。
1波長あたりの伝送容量を拡大するためには、シリコンCMOSによる半導体回路の速度限界を克服する必要がある。これまでNTTではAMUXを用いてシリコンCMOSの速度限界を打破する帯域ダブラ技術を使った光伝送方式ならびに集積デバイスの研究開発を進めており、100ギガボーを超えるシンボルレートの光信号生成に成功している。
しかしながら、毎秒マルチテラビット以上の光伝送の実現には、光送受信機内の電気の増幅器(光変調器駆動用のドライバアンプ)の更なる広帯域化と高出力化の両立が課題となる。
加えて、更なる高速化に従って、光送受信回路部の理想からの“ずれ”(信号経路長差や信号経路による損失ばらつき等)を極めて高精度に補償する技術が必要であり、1波長あたり毎秒マルチテラビット以上の光信号を生成することは困難だった。
研究の成果
今回、世界で初めて、1波長あたり2Tbpsを超えるデジタルコヒーレント光信号の送受信を実証し(図1左図)、2.02Tbps光信号の240km光増幅中継伝送実験に成功した(図1右図)。この成果は、NTT独自の超広帯域ベースバンド増幅器ICモジュールと、超高精度なデジタル信号処理技術の高度な融合により達成された。
超広帯域ベースバンド増幅器ICモジュール
これまでNTTで研究開発を進めてきたInP系ヘテロ接合バイポーラトランジスタ(InP HBT)技術による超広帯域ベースバンド増幅器ICを、110GHzまでの周波数に対応する1mm同軸コネクタ付きのパッケージに実装し、超広帯域性能(図2左図)と十分な利得と出力パワーを有するモジュールの実現に成功した(図2右図)。今回、同ベースバンド増幅器ICモジュールを光変調器駆動用のドライバアンプとして適用した。
デジタル信号処理技術による超高精度な光送受信回路歪補償技術
NTTで開発したInP HBT技術による超広帯域ベースバンド増幅器ICモジュールにより、超高速信号の生成が可能となった。しかし、光変調器駆動用のドライバアンプとして使用する際には高パワー出力領域での動作が求められるため、ドライバアンプ出力の非線形性(入力パワーに対して出力パワーが比例しないこと)が問題となり、光信号の品質(信号帯雑音比)が劣化してしまう。加えて、超高速信号では、光送受信機内部の理想からの“ずれ”による信号品質の劣化が顕著に現れる。
同実験では、NTTが有する世界最先端のデジタル信号処理技術により、変調器ドライバで生じる非線形歪み、および光送受信機内部の理想からのずれを超高精度に補償することにより、超広帯域ベースバンド増幅器ICモジュールの動作範囲を拡大し、光信号の品質の改善に成功した(図3)。
この高品質な超高速光信号を用いて、光増幅中継伝送実験を実施した。176ギガボーの超高速光信号に対して、信号点の分布を最適化したPCS-144QAM方式を適用して、最大2.11 Tbpsの光信号を生成した。更に、伝送距離に応じて最適な情報量を割り当てる技術により、2.02 Tbpsの光信号を240km伝送することに成功した(図4)。
今後の展開
NTTは「本技術を用いることで、1波長で2Tbpsを超える光信号を多数波重多重した大容量信号を高信頼に伝送することが期待される。特に、光信号の変調速度の高速化技術は、1波長当たりの大容量化に資するだけでなく、図5に示すように波長資源拡張技術と融合することにより、大容量信号が長距離伝送可能になる技術としても期待されている。NTTでは、IOWN/6Gにおけるオールフォトニクス・ネットワークの実現に向けて、独自のデバイス技術、デジタル信号処理技術、光伝送技術の融合を深化させ、研究開発を進めていく」との方針を示している。