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テラヘルツ帯で動作する、超高精度・広帯域の小型周波数カウンタを開発【NICT】

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図1:今回開発されたテラヘルツ周波数カウンタ

 NICTは7月29日、半導体超格子ハーモニックミキサを用いたテラヘルツ波用の周波数計測システムを開発し、電波の上限帯域を網羅する0.1 THz~2.8 THzという広帯域において精度16桁の計測を実現したことを発表した。
今回の開発により、小型・室温下で動作する広帯域・高精度なテラヘルツ周波数カウンタが実現したことになる。

 この技術は、未開拓周波数領域と呼ばれてきたテラヘルツ帯を次世代情報通信基盤Beyond 5G/6Gにおける新たな電波資源として利活用するための計量標準技術。NICTは「今後、Beyond 5G/6G時代における電波産業などの様々なニーズに対応し、本技術をNICTで提供している周波数標準器の較正サービスに活用していく予定だ」としている。

背景

 次世代情報通信基盤Beyond 5G/6Gの貴重な周波数資源として、未開拓周波数領域と呼ばれてきたテラヘルツ帯の利活用に高い関心が寄せられている。テラヘルツ帯を有効利用するには、スマートフォンなどで利用されているマイクロ波・ミリ波帯の電波資源と同様、様々な産業や研究に向けて周波数バンドを正確に区分でき、適正な運用を可能にする計量標準技術の確立が重要だ。
 これまで、テラヘルツ周波数計測システムの多くは、高感度化のために大型の低温装置や複雑な機構を持つ超短パルスレーザを必要としていた。そのため、小型化が難しく、装置のオペレータには光学機器の取扱いが求められた。また、計測は可能だが動作帯域が狭い、若しくは、動作帯域は広いが計測限界が未確認など、装置の動作帯域と計測精度に関する包括的評価も十分でなく、実用化を視野に入れた際に解決すべき課題が残されていた。

今回の成果

図2:今回開発されたテラヘルツ周波数カウンタの動作帯域と計測精度

 NICTは、テラヘルツ波の計量標準技術として、半導体超格子ハーモニックミキサを用いたテラヘルツ周波数カウンタを開発し(冒頭の図1)、4オクターブを超える広帯域0.1THz~2.8THzにおいて精度16桁の計測を実現した(図2)。
 今回、超格子構造を持つ半導体ハーモニックミキサをキーデバイスとして採用することで、入力したマイクロ波帯の局部発振器信号を基にテラヘルツ基準を等間隔に多数生成し、それらを広範囲に分布した「精密な目盛り」にしてテラヘルツ波の周波数測定を実現した。これにより、従来システムで装置の小型化と運用コスト削減の障壁になっていた超短パルスレーザが不要となっただけでなく、原子時計からのマイクロ波標準信号を直接入力して使えるため、堅牢でより信頼性の高いテラヘルツ周波数の較正も可能になった。
 今回、テラヘルツ周波数カウンタの測定性能は、従来は不可避であった被測定テラヘルツ発振器の雑音に影響されないように設計・構築した評価系を使って確認した。その結果、本カウンタ1台だけで電波法で定義された電波の上限帯域を幅広く網羅しつつ、計測精度が16桁に到達することを実証した。これは、1THzの電波周波数を100μHz(1THzの1016分の1)以下の精度で決定できることに相当する。これらの性能は、小型かつ室温動作するテラヘルツ周波数カウンタの動作帯域幅と計測精度として、共に世界トップの性能だ。

今後の展望

 NICTは、情報通信技術による革新といえるBeyond 5G/6G世界の実現を目指し、未開拓周波数領域であるテラヘルツ帯を新たな電波資源として積極的に利活用するための計量標準技術の開発に取り組んでおり、今回開発した超高精度・広帯域の小型テラヘルツ周波数カウンタを活用して、Beyond 5G / 6G時代の様々な産業や研究を支える技術基盤を確立することに貢献する。特に、電波産業などの様々なニーズに応えるべく周波数標準器の較正サービスの拡大に取り組んでいくと同時に、NICT発のテラヘルツ標準技術のグローバルな普及をめざす」との考えを示している。

今回開発された技術の詳細

半導体超格子ハーモニックミキサを用いたテラヘルツ周波数カウンタ

 テラヘルツ波は1秒間に1011~1013回も振動する電磁波で、現代の高速電子回路技術を用いてもその振動回数を直接計数することは困難だ。そのため、テラヘルツ波の測定では計数可能な周波数帯まで下方変換するために、既知の周波数値を持つテラヘルツ基準との周波数差を得られるビート計測法を利用する。このとき、テラヘルツ基準を定規の目盛りのように等間隔で広い周波数範囲に分布させると、様々な被測定テラヘルツ波に対応できるため、複数のテラヘルツ基準の集合体である周波数コム(テラヘルツコム)が利用される。
 これまで、半導体や光学結晶の非線形効果で発生させたテラヘルツコムを用いた周波数計測システムの開発が報告されてきたが、組み込まれている超短パルスレーザが装置の小型化や運用コストの削減を妨げていた。その上、動作帯域と計測限界に関する包括的な性能調査は行われていなかった。
 

図4:テラヘルツ周波数カウンタの性能評価系

 今回開発された半導体超格子ハーモニックミキサを用いたテラヘルツ周波数カウンタは、半導体超格子デバイスの特徴的な性質の一つである負性抵抗と呼ばれる非線形効果によって、デバイスに入力されたマイクロ波帯の局部発振器信号からテラヘルツコムを直接発生できる簡便な原理に基づいており、実用化に向けた重要な目標点であった小型化と操作性の良さを同時に実現した。NICTは「以前に開発した従来型の計測システムと比べて、装置の専有面積は約40分の1に縮小され、レーザに関する専門知識を必要としない操作も可能になった」としている。
 帯域1THz以下の性能評価では、高安定度なテラヘルツ発振器の周波数を2台のテラヘルツカウンタで同時計測した後、それらの周波数差からカウンタ本来の測定精度を求めた(図4a)。一方、帯域1THz以上では、テラヘルツコム基準に安定化されたテラヘルツ量子カスケードレーザーの周波数を独立したカウンタで相対計測することで評価した(図4b)。

図5:テラヘルツ周波数カウンタの測定の不確かさと安定度

 これら2つの相補的な評価系を採用して、4オクターブを超える非常に幅広い帯域0.1THz~2.8THzで高精度に計測限界を確認することに成功し、カウンタ本来の計測限界が1×10(-16乗)以下に到達することを実証した(図5a)。より詳細な調査から、将来的には3.7 THzまで動作帯域を拡張できることが期待される。また、開発したカウンタは高い周波数安定度を持ち、短い測定時間内にテラヘルツ周波数の値を精度よく決定することも可能だ(図5b)。

 NICTは「これらの結果は、Beyond5G/6G時代に向けて周波数標準器の較正サービスを電波産業などの様々なニーズに応えて高周波化することに貢献し、また、極低温分子を使ったテラヘルツ周波数標準の開発にも役立つ」との考えを示している。

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