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世界初!異なる光周波数の二光子の干渉を実現

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 大阪大学大学院基礎工学研究科 井元信之教授、東京大学大学院工学系研究科 小芦雅斗教授、およびNICT 未来ICT研究所 三木茂人主任研究員のグループは4月19日、広帯域光周波数多重化を利用した大規模量子情報処理の基礎技術である周波数領域のスプリッタを実現し、これを異なる光周波数(異波長)の二光子に適用したHong-Ou-Mandel(HOM)干渉を世界で初めて観測したと発表した。これは、従来の空間光回路の集積化に加え光周波数多重化も実現する新しい道筋となる。HOM干渉は、従来のコンピュータをはるかにしのぐ性能が得られるとされる量子コンピュータの基本要素で、幅広く利用されている。
 本研究により、空間を光周波数に置き換えた新しい光周波数多重化量子演算の道が拓かれ、計算量や通信容量などの情報処理能力の飛躍的拡大が期待される。

研究の背景

 Hong-Ou-Mandel干渉は1987年にHong, Ou, Mandelの3氏によって提案され、観測された干渉効果だ。光ではビームスプリッタが使われるが、図1のように2つの入力(経路1および経路2)に対して2つの出力(経路3および経路4)がある。ここで経路1および経路2に1つずつ、計2つの「同一周波数の」光子を同時に入力すると、不思議なことに、2つの光子は経路3または4のどちらか一方に2つ揃って出力され、経路3と4に1つずつ出力されることはない(図2)。これが従来のHOM干渉だ。この干渉は光量子コンピュータの基本要素であり、ベル測定や量子テレポーテーションなど幅広く利用されていた。

図1:ビームスプリッタの配置図。経路1だけの入力の場合は50:50で透過と反射。経路2だけの場合も同様。

図1:ビームスプリッタの配置図。経路1だけの入力の場合は50:50で透過と反射。経路2だけの場合も同様。


図2:HOM干渉での入出力光子数分布。ビームスプリッタへの入力が各経路に1光子ずつの場合は、どちらか一方の経路に2光子が必ず出力される。各経路に1光子ずつ出力されるイベントは量子力学的な干渉効果で消失する。

図2:HOM干渉での入出力光子数分布。ビームスプリッタへの入力が各経路に1光子ずつの場合は、どちらか一方の経路に2光子が必ず出力される。各経路に1光子ずつ出力されるイベントは量子力学的な干渉効果で消失する。

今回の研究

 研究グループは、「ビーム」ならぬ「周波数」のスプリッタを非線形光学効果である和・差周波発生を用いて実現し(図3)、経路は同一だが周波数が異なる光子を1つずつ同時に入射したとき出力がどちらかの周波数に同一化された2つの光子となる「周波数領域でのHOM干渉計」を作り、その観測に成功したという。実験ではPPLN導波路による和・差周波発生(図4)および高性能な超伝導光子検出器(図5)を用いて、明確に量子力学的な領域の干渉性(図6、図7)を示すことができた。

図3:ビームと周波数のスプリッタ比較イメージ

図3:ビームと周波数のスプリッタ比較イメージ

図4:周波数のスプリッタとして利用したPPLN導波路

図4:周波数のスプリッタとして利用したPPLN導波路

図5:NICT開発の超伝導光子検出器(SSPD)

図5:NICT開発の超伝導光子検出器(SSPD)


図6:HOM干渉信号。周波数のスプリッタでの2光子の遅延がゼロのところで2光子同時検出率が0に近づく。

図6:HOM干渉信号。周波数のスプリッタでの2光子の遅延がゼロのところで2光子同時検出率が0に近づく。

図7:HOM干渉明瞭度の励起光強度依存性。励起光強度に依存して周波数のスプリッタの分岐比率が調整され、明瞭度が変化する。

図7:HOM干渉明瞭度の励起光強度依存性。励起光強度に依存して周波数のスプリッタの分岐比率が調整され、明瞭度が変化する。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

 現在までに考えられている光量子演算は空間光回路を利用するものだが、本研究により、空間を光周波数に置き換えた新しい光周波数多重化量子演算(図8)の道が拓かれ、計算量や通信容量などの情報処理能力の飛躍的拡大が期待できる。

図8:周波数のスプリッタの概念図。励起レーザによって周波数間の遷移が誘起され、ビームスプリッタと同様の操作を実現する。入力を多重化することで、多重周波数スプリッタとして動作する。

図8:周波数のスプリッタの概念図。励起レーザによって周波数間の遷移が誘起され、ビームスプリッタと同様の操作を実現する。入力を多重化することで、多重周波数スプリッタとして動作する。