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光のトポロジカル特異点の生成手法を発見【NTT】

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 NTTは7月31日、東京工業大学(以下、東工大)と共同で、誘電体周期構造を変形させるという簡単な手法により、光のトポロジカルな特異点を自在に生成・制御できる手法を、世界で初めて理論的に明らかにしたと発表した。
 同成果は、レーザの偏光状態や出射方向の制御に利用可能で、光のトポロジカルな性質を利用した新しい光制御の可能性を示すものと期待される。
 同研究の一部は日本学術振興会科学研究費助成金の助成を受けて行われたという。

研究の背景

 トポロジーとは、物体に開いた穴の数のように、伸長や縮小などの連続変形では変わらない幾何学的な性質を扱う概念。この性質は構造が持つトポロジカル数と呼ばれる数で規定され、穴の数はその一例だ(図1)。この数で決定される性質があれば、形状の連続変形に影響を受けない強固な性質となる。この概念を固体中でバンド構造を組む電子に対して適用し、波数空間における電子の波動関数のトポロジーが様々な新しい物理現象を導くことを示した業績に対して2016年にノーベル物理学賞が与えられ、トポロジカル絶縁体を始めとする新しい物質相や新奇な物理現象が発見されている。最近になり、このトポロジカル物性は固体中の電子だけでなく、フォトニック結晶と呼ばれる誘電体周期構造中の光においても発現することが判明し、光のトポロジカルな物性が次々に見つかっている。この分野はトポロジカルフォトニクスと呼ばれ世界的に活発に研究されている。

図1:トポロジカル数

 光のトポロジカルな現象の一つとして、光トポロジカル特異点と呼ばれるものがある(図1)。これは光の偏光状態が決めるトポロジカル数によって発現する状態で、特にトポロジカル数が整数の時にはBound state in the continuum (BIC)と呼ばれる特殊な状態が実現する(図2)。BICとは、本来閉じ込められないエネルギー領域にある波動が空間的に束縛されて閉じ込められる状態のことで、1929年からその存在が予言されていたが、近年BICがフォトニック結晶中の光トポロジカル特異点として現れることが判っている。光のBICは、普通ならフォトニック結晶の外に光が漏れ出てしまうはずの周波数領域で、結晶の中に閉じ込められたモードとして出現する(図2)。
 フォトニック結晶において、面に垂直方向に光が出てこられない自明なBIC(垂直方向BIC)が存在することは以前より知られていたが、最近になり斜め方向に光が出てこられない非自明なBIC(斜め方向BIC)が存在することがわかり、新奇な光閉じ込め方法として注目されている(図2下)。このBICモードに利得を与えるとレーザ発振が可能であり、閉じ込め方向にレーザ光が出射されることが知られている。これまでに、垂直方向の自明なBICを用いたレーザ発振が実現されている。また、斜め方向の非自明なBICでは斜め方向にレーザ発振可能であり、かつ発振する角度を変更可能であると考えられている。さらに、斜め方向のBICは、閉じ込めモードであるにもかかわらず面内に有限な群速度を持つなどの新奇な性質を持っており、広く興味を持たれて活発な研究が行われている。
 ところが、これまで発見された非自明な斜め方向BICは、ある構造条件で偶然発現するものしか知られておらず、その生成メカニズムは不明で、計画的に生成できる手法は知られていなかった。つまり、実際に数値計算を行ってみないと非自明BICが存在するかどうかわからず、またフォトニック結晶の穴の大きさ・厚さ・屈折率などの構造パラメーターをどのように調節すれば非自明 BICが生成できるか明らかにされておらず、非自明なBICを実現する決定論的な手法が存在しなかった。

図2:フォトニック結晶における光のbound state in the continuum (BIC)

研究の成果

 今回NTTと東工大は、誘電体周期構造(=フォトニック結晶)を変形して対称性を変化するという非常に簡単な方法で、非自明なBICとなる光トポロジカル特異点を必ず生成できる方法を、世界で初めて見出した。同成果では、誘電体薄膜に丸い穴が三角格子状に周期的に開けられたフォトニック結晶を用いるが、この構造はトポロジカル数が-2の自明なBIC(垂直方向BIC)を持つことが知られている(図3中央)。この構造を図3のように横方向または縦方向に引き延ばすことによって、自明な垂直方向の自明BICが二つに分裂して、トポロジカル数が-1の非自明な斜め方向BICが対で生成されることを理論的に示した(図3左右)。

図3:対称性の操作による垂直方向BICの分裂と斜め方向BICの生成

 また、フォトニック結晶の穴の形状を丸から三角形に変形することによって、トポロジカル数が半整数となり円偏光モードとなる別種のトポロジカル特異点を生成することも発見した(図4)。

図4:フォトニック結晶の構造と光トポロジカル特異点の変化。数字はトポロジカル数。

 これらの操作は、元々6回回転対称性を持っていた三角格子結晶の対称性を壊すことに相当し、2回回転対称性にすると斜め方向BICが発現し、3回回転対称性にすると円偏光モードが発現します。また、これらトポロジカル特異点をレーザ等の光デバイスに応用した場合の、光出力の方向は変形の度合いによって可変となる(図5)。

図5:光トポロジカル特異点を用いた光制御のイメージ図。フォトニック結晶の対称性の操作により、トポロジカルな性質を持つ光ビームを様々な方向に出射可能となる。

 つまり、構造の対称性の簡単な操作により、様々なトポロジカル特異点を自由に生成、消滅でき、その方向や偏光の特性を制御できることを示している。
 従来の手法では、非自明な斜め方向BICは、フォトニック結晶を構成する材料の屈折率に応じて構造パラメーターが特定の領域にある場合のみしか存在せず、フォトニック結晶の構造を調節する必要があった。それに対し、今回の手法では材料の屈折率や構造パラメーターの値に依らず、6回回転対称性を持つ構造に変形を加えることで必ず非自明なBICが生成可能となるため、幅広い材料に対して自在に光トポロジカル特異点を形成することが可能となる。

原理のポイント

1:トポロジカル数-2の自明な垂直方向BICを持つ構造をベースとして用いる
 垂直方向 BICのトポロジカル数はフォトニック結晶の持つ回転対称性によって決まる。多くの場合垂直方向BICのトポロジカル数は±1だが、6回回転対称性を持つフォトニック結晶ではトポロジカル数が-2の垂直方向BICが存在できることが知られている(図3中央)。同成果ではこのトポロジカル数が-2の垂直方向BICに注目したという。

2:6回回転対称性を壊す変形を施す
 同成果では、上記(1:)のトポロジカル数が-2の垂直方向BICに6回回転対称性を壊す変形を加えることにより、非自明なトポロジカル特異点を形成する。従来、自明な垂直方向BICは、非自明な斜め方向BICとは成因が異なるため、垂直方向BICの角度は変更不可能と考えられていた。しかしこれはトポロジカル数が±1の場合のみであり、トポロジカル数が-2の垂直方向BICは、6回回転対称性を壊す変形によってBICの角度が変更可能であることを今回発見した(図3左右)。これはトポロジカル数が-2の自明なBICが2つのトポロジカル数が-1の非自明なBICに分裂することを意味する。特異点が分裂する際にトポロジカル数の合計は保存することが知られていることから、トポロジカル数が-2のBICを用いることが大事なポイントとなる。自明なBICから非自明なBICを生成できること自体、これまで知られておらず本成果が初めて明らかにしたことだ。自明なBICの存在とそのトポロジカル数はフォトニック結晶の対称性のみで決定され、材料の屈折率や構造パラメーターによらない。従ってこの手法を用いることでフォトニック結晶の構造パラメーターに依らず、フォトニック結晶を変形させるだけで必ず非自明なBICを生成することができる。

今後の展開

 同手法を用いることで、非自明な斜め方向BICを幅広い材料や構造に対して容易に生成できることになるため、非自明なBICに基づく物理現象探索やデバイス応用に貢献できると考えている。特に、化合物半導体等の光利得を持った材料に対して本手法を適用することによって、図5のように出射方向やトポロジカルな性質に起因する特殊な偏光状態を自在に制御できるレーザなどの発光デバイスが実現できると考えられ、フォトニック結晶のトポロジカルな性質を反映した光出力を自在に制御できる新しい光制御デバイスの可能性も期待できる。