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ミリ波帯ローカル5Gシステムに対応した無線基地局の自動配置計算を高速化【富士通研究所】

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従来比、最大で10倍の高速計算を実現し、企業のDXを加速

 富士通研究所は7月22日、ローカル5Gシステムに割り当てられている28GHzのミリ波帯に対応した無線基地局を自動配置するための高速計算技術を新たに開発したと発表した。

 ローカル5Gは、様々な企業におけるDXを支えるインフラとして期待されているが、その真価を発揮するには、現場に適した無線基地局の配置が重要となる。ミリ波帯は、広い帯域を持つ一方で、直進性が強いことから障害物により遮蔽を受けやすいため扱いが難しく、無線基地局の配置決定には無線の専門家による設計と、多大な現地調整作業が必要だ。

 今回、富士通研究所は、ミリ波帯のローカル5Gシステムに対応した無線基地局自動配置の計算を、送信電力やビームフォーミングなどのパラメータ調整を含めて最適化し、従来手法と比較して5倍から最大で10倍の速度で実行できる高速計算アルゴリズムを開発した。同研究所は「これにより、無線の専門家でなくても、ローカル5Gシステムの無線基地局設計が容易に実施可能となるため、様々な企業のお客様現場における、さらなるDXの加速に貢献する」としている。

開発の背景

 ローカル5Gは、企業や自治体などが自営で利用できる無線網であり、企業のDXを支えるインフラとして注目されている。

 このローカル5Gでは、これまで企業や自治体などが容易に活用できなかった28GHzのミリ波帯を利用できることが一つの特徴で、高速・大容量・低遅延な通信を実現することができる。これにより、例えば、高性能カメラで撮影した高精細な映像データを収集しAIと組み合わせて解析や制御をすることで、作業現場での人の行動分析による工場作業の効率化や、ロボットの遠隔操作による工場の自動化ができるため、様々な企業におけるDXの推進が期待される。

課題

 一般的に、無線通信の性能を十分に発揮するためには、無線基地局の設置場所、アンテナの向き、送信電力や通信チャネルの選択などを最適に設定することが重要だ。

 富士通研究所では、これまで培ってきたネットワーク技術の知見を活用した電波シミュレーション技術により、無線の専門家で従来7日かかっていた無線LANネットワークの設計・設置調整作業を、非専門家でも1日程度で実施できる無線基地局自動設計技術を開発してきた。しかし、ミリ波帯は、これまでのセルラーや無線LANで主に用いられてきた6GHz以下のマイクロ波と比較して直進性が強いことから、周辺に存在する人や設置物に遮られやすく、さらに無線基地局と端末の距離が長くなった場合に信号の減衰が大きいという性質がある。そのため、多くのアンテナ素子を持ったアンテナを制御してビームフォーミングを行うことで、各端末に電波を集中し減衰を補うことが重要となる。

 ミリ波帯のローカル5Gシステムの設計においては、ミリ波の減衰特性から必要な無線基地局数が増える上に、ビームフォーミングの効果を推定するために多くの組み合わせを探索する必要があり、無線基地局自動配置のための計算量が大幅に増加する。そのため、事務所などにある一般的なデスクトップパソコンでは、高精度なシミュレーション1回につき1日以上を要する場合があり計算時間の短縮が課題となっている。

開発された技術

 今回、富士通研究所は、ミリ波帯のローカル5Gの無線基地局自動配置計算を、送信電力やビームフォーミングなどのパラメータ調整を含めて、従来手法と比較して5倍から最大で10倍の速度で実行できる高速計算アルゴリズムを開発した。
 開発された技術の特長は以下の通り。

電波シミュレーション計算の最適並列化技術
 電波シミュレーションは、周辺物の移動や変化、無線基地局の候補位置、端末の候補位置などからなる計算シナリオに対し、無線基地局と端末のそれぞれの組み合わせにおいて経路ごとに伝搬のシミュレーション計算を行うツリー構造を有している。従来手法のように、最も小さい計算単位の経路レベルで計算を分割し並列化してCPUに割り当てた場合は、経路によって距離や障害物の有無が異なるため、シミュレーション時間がばらつき、並列化の同期処理によるオーバーヘッドが多く生じる。反対に、最も大きい計算単位のシナリオレベルで計算を分割すると、シナリオ数が少ないときにはプロセッサの計算資源を最大に活用できなくなる場合がある(図1)。

 今回、電波シミュレーションが持つ計算ツリーの各階層のノード間には依存関係がなく並列化が可能である性質を利用し、計算環境のCPU数を加味して、計算ツリーから常に最適な階層を自動的に選択することで、並列化で生じるオーバーヘッドを最小化しつつ、計算資源を最大限に利用できる電波シミュレーション計算の並列高速化技術を開発した。これは、計算環境のCPU数に対し、ツリー構造の上の階層から1層ずつツリーを下降してノード数を調べ、最初にツリー階層内のノードの数がCPU数と同数以上となる階層でノード毎に処理を分割してCPUにプロセス割り当てを行うことで実現している。同技術により、ノートパソコンからワークステーションなど様々なプロセッサやコア数構成の環境でも常に効率的な高速計算が可能となる。

図1:電波シミュレーションのツリー構造に着目した効率的な並列計算割り当てのイメージ図

 さらに、ミリ波帯のローカル5Gで重要なアンテナの方向性を加味したビームフォーミングのシミュレーションでは、無線基地局と端末のビームパターンの組み合わせを探索していた従来の方法ではなく、電波シミュレーションの結果で得られる電波の向きや信号強度と、無線基地局および端末のビームパターンの特徴量などの情報から探索の範囲を絞り込むことが可能となるため、ビームフォーミングの効果推定を、従来手法の10分の1の計算量で算出することが可能だという。

図2:電波シミュレーション結果を用いたビームフォーミングパターンの探索の高速化

効果

 今回開発された技術により、電波シミュレーションおよびビームフォーミングの性能推定の計算を5倍から最大で10倍程度高速化することが可能となる。例えば、面積10,000m2の工場を模擬した場所に、24点の無線基地局の候補位置と40,000点の端末の候補位置で高精度な電波シミュレーションを行った場合、デスクトップパソコンでは約2時間で計算を完了することができる。
 富士通研究所は「本技術を活用することで、無線の専門家でなくても、ローカル5Gの無線基地局自動配置の設計が高速、かつ容易に実施可能となるため、様々な企業のお客様現場における、さらなるDXの加速化に貢献する」としており「当社は今後、自動設計技術のさらなる高度化を進め、2020年度内にローカル5Gのシステムインテグレーションにおけるエリア設計での活用を目指す」との考えを示している。

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