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公衆網から自営網へスムーズに無線ネットワークを切替える技術の実証実験に成功【NICT、JR東日本、鉄道総研】

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線路沿線に仮設したミリ波帯の自営リニアスポットセルへの切替時間を平均5秒以下に短縮

 NICT、JR東日本、鉄道総合技術研究所(以下、鉄道総研)は4月16日、各機関で連携し、全国通信事業者が提供する公衆網に接続された列車や自動車上の端末などが、自営網事業者が設置する自営スポットセルの圏内に移動した際に公衆網から自営網へのスムーズな無線ネットワークの切替えを可能とする基盤技術の実証実験に成功したと発表した。

 この基盤技術はNICTが開発したもので、自営網事業者と公衆網事業者間で加入者情報を共有する必要がなく、公衆網などの一般的なネットワーク回線を経由して自営網に事前に一度アクセスしておくことで、接続切替えに要する時間を大幅に短縮できる。今後普及が期待されるローカル5Gのように建物や土地の範囲限定で自営サービスを提供するための自営スポットセルに対して、非常に短時間での接続が実現でき、サービスを安定して提供することが可能だ。
 今回、JR東日本 烏山線(栃木県)にミリ波帯を用いた自営のリニアスポットセルを構築し、列車に設置した端末を用いて、同技術の実証実験を行った。その結果、従来は4分以上掛かっていた公衆網から自営網への接続切替時間が、平均5秒以下、最大でも10秒程度に短縮できることを実証した。さらに、地上複数地点の動画をリニアスポットセル通過中の車上端末に同時に伝送し、公衆網接続時と比べて低遅延で動画伝送できることを確認した。同技術が実用化されれば、エリア限定の自営サービスを移動者にも安定して提供可能となることが期待される。
 同技術の実証実験に伴う成果の一部について、4月23日にオンライン開催される電子情報通信学会無線通信システム研究会にて発表する予定だという。

背景

実証実験での無線機設置の様子
(上:地上、下:車上)

 現在、公衆網としてインフラ整備が進む5Gの革新的な技術を用い、建物や土地など限定した範囲で自営通信サービスを提供するローカル5Gが注目されている。ローカル5Gでは、準ミリ波帯である28GHz帯(28.2-28.3GHz)が屋外利用の周波数帯として制度化されているが、使用する周波数が高いため、サービス提供可能なエリア(セルサイズ)が小さくなり、コスト的にも物理的にも面的な展開が難しいという問題があった。特に、列車や自動車などの移動車両にエリア限定で情報配信をするようなサービスでは、スポット的に配置された自営セル(自営スポットセル)への接続遅延が発生すると、移動車両がサービスの提供を受ける前に自営スポットセルを通過してしまうことがあり、自営スポットセルへの高速接続技術の実現が強く求められていた。

今回の成果

 NICT、JR東日本、鉄道総研は、列車のような移動環境でも公衆網から自営スポットセルへのスムーズな高速切替えを可能とするワイヤレス基盤技術の実証実験に成功した。
 同技術はNICTが開発したもので、公衆網などの一般的なネットワーク回線を経由して自営網に事前に一度アクセスしておくことで、スポットセル到着時のセルサーチや認証手続のような接続処理を大幅に短縮し、自営網と公衆網の事業者間で利用者の加入者情報を共有することなく、公衆網と鉄道用などの自営網の間でスムーズな接続切替えを実現する。
 今回、NICT構内、鉄道総研所内試験線での予備実験を経て、JR東日本 烏山線(栃木県)に、ミリ波帯を用いた総長3kmの自営リニアスポットセルを構築し、同技術の実証実験を実施した。その結果、従来の方法では、自営リニアスポットセル到着から接続まで4分以上要する場合や、サービス提供前にセルを通過する場合があったが、同技術を適用することで、平均5秒以下、最大でも10秒程度と、大幅に接続切替えの時間を短縮することができた。
 さらに、地上に設置した複数のカメラ映像を同時に車上に伝送する動画伝送実験も実施。公衆網利用時には約800ミリ秒だった往復遅延時間(ラウンドトリップタイム)が、自営網に接続を切り替えた後は約100ミリ秒とおよそ8分の1に短縮され、動画の品質が改善できることを確認したという。

今後の展望

 本技術は、ローカル5Gにも適用することができ、交通インフラのような移動体を対象とするサービスやシステムにおいて、専用装置を導入することなく高速移動のユーザ向けに自営スポットセルへの高速な接続切替えを実現し、安定的な接続環境を提供することができる。鉄道事業者に限らずエリア限定で自営サービスを提供する事業者にとって、多様なサービスの展開が期待できる。
 また、ローカル5Gは、農業、交通インフラ、防災システムなどの地域課題を解決する技術としても非常に期待されている。今後は、さらに本技術の高度化を目指した研究開発を推進し、農業のようにスポットセルを密に配置することが難しい環境など、より適用範囲を広げて様々な分野の地域課題の解決に貢献していくという。

各機関の役割分担

NICT:実験機材の開発、自営リニアスポットセルの構築及びそれらの運用。
JR東日本:実験線区の選定、地上インフラ設備の構築、保安体制確保、営業車による実証実験の実施、及び鉄道環境下での実験に伴う知見の提供。
鉄道総研:国立研究所の試験線における予備実験の実施、鉄道環境への導入に必要な諸条件などの知見の提供。

JR東日本 烏山線における実証実験の概要

 今回の実証実験は、2019年12月4日(水)から2020年2月6日(木)にかけて、栃木県高根沢町の宝積寺駅から下野花岡駅間で実施。烏山線の沿線に、NICTが開発した親局となるベースバンド装置(BBU)1台と無線信号の送受信処理を行う無線機(RRH)3台を設置し、総長3kmの範囲がサービスエリアとなる自営のリニアスポットセルを仮設した。これら3台のRRHと、烏山線を走行するACCUM(蓄電池駆動電車)の営業車両内に設置した端末との間で通信を行い、公衆網と自営網の接続切替えの実証を行った。
 実験の内容としては、32GHz帯の電波を使い、RRHに取り付けた指向性のあるホーンアンテナでリニアスポットセルを形成し、リニアスポットセル突入時の自営網への接続切替えと、接続先の3台のRRHをシームレスに切り替える接続実験を行った。また、地上に設置した複数のカメラから車上端末への複数動画同時伝送実験を行った。サービスエリアには下野花岡駅も含まれており、走行速度60km/hでの突入時における接続切替実験のみでなく、駅での停車までの速度変化による接続安定性なども評価した。

実証実験を実施したJR東日本 烏山線沿線の実験エリアと機材設置の様子
地理院地図(国土地理院)を利用

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