日本の学術研究を支える超高速ネットワークSINETを東京-大阪間で400Gbpsにスピードアップ【NII】
テレコム 無料世界最高水準の大容量回線を長距離区間で実用化
大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立情報学研究所(以下、NII)は12月6日、学術情報ネットワーク「SINET5」の東京-大阪間に、世界最高水準の長距離400Gbps回線を構築したと発表した。これは、現在運用されているSINET5で全都道府県を結んでいる100Gbps回線の4倍の通信容量となる大容量回線で、12月9日から運用が開始される。
この400Gbps回線は、大学・研究機関等が集中する関東エリアと関西エリア間でのデータ通信需要増が通信容量を圧迫している状況を解決するため、関東エリアと関西エリア間の通信容量増強を目的に構築された。これによって、大容量のデータ通信による回線占有などの懸念がなくなり安定した通信が確保されるだけでなく、大学間連携や大型研究プロジェクトなどのさらなるデータ増や新規の超大容量データ転送にも対応可能な基盤が整うことになる。
SINETは日本全国の大学・研究機関等が利用している通信ネットワークで、NIIが構築・運用している。現在運用されているSINET5は、2016年4月の運用開始時に全都道府県のDC間を超高速の100Gbps回線で結び、さらに2019年3月には欧州、米国、アジアの国際回線も100Gbps化した。現在では920以上の大学や研究機関が各地域のDCに接続しており、国内外の任意の研究拠点間で世界最高レベルの通信性能を提供している。
SINET5は活発に利用されており、大学・研究機関等が集中する関東エリアと関西エリア間での通信需要が増加している。今後も、全国の研究機関等における災害対策データバックアップ、大型研究プロジェクトによる大規模なデータ転送、フルスペック8K非圧縮映像を活用した医療分野での研究利用などにより、関東エリアと関西エリア間の通信容量増強の必要性が高まっていくと予想されている。さらに、SINET国際回線の100Gbps化による国際連携の拡大などによる通信需要の増加も見込まれている。
そこで今回、東京-大阪間に長距離・大容量伝送に優れたコア低損失大口径ファイバケーブルと、最先端の高度デジタルコヒーレント光伝送装置を利用した、光ファイバ総距離600km以上の400Gbps回線を新たに構築し、通信容量を増強したという。この長距離回線は、実用的なネットワークに組み込んでの運用としては世界最高水準の大容量回線となる。これにより、関東エリアと関西エリア間の通信において、品質が劣化する原因となる通信の混雑状態をなくし、より安定した通信の確保が可能となる。
NIIは「今回新たな基盤として構築する400Gbps回線の運用から得られる知見は、2022年4月運用開始予定の次期SINETの設計・構築に活かしていく予定だ」としている。
活用例
データ基盤の災害対策バックアップ
スーパーコンピュータなどのハイパフォーマンス・コンピューティング環境は日本全国から遠隔利用されており、解析用データならびに解析結果のデータの転送で、広帯域・低遅延なSINET5が頻繁に活用されている。近年、その環境でビッグデータ解析処理が可能となったことを背景に、蓄積されるデータも増加しており、データバックアップの重要度が高まっている。
これに加えて、医療情報データのバックアップなど、災害対策の観点から、バックアップ拠点を関東エリアと関西エリアなど遠隔地に置くケースが増え、拠点間でのデータ転送及びデータ同期の高速化も求められている。
400Gbps回線を利用すると、拠点間での大容量データ転送が可能となるため、同期時間を減らして同期頻度を上げることで障害時にバックアップされていないデータ量を減らすことが可能になる。また、大容量化により品質が劣化する原因となる通信の混雑状態が減るため、データ再送処理が減り、同時に複数の転送が行われても、それぞれに影響することなく完了できるようになる。
大型プロジェクト研究の進展
ノーベル賞受賞が続く素粒子物理学や天文分野などにおける大型実験施設は、世界中の研究者が共同利用している。特に大型検出器ではそのアップデートに応じて観測データの増大が続いている。
日本国内でも新たな大型実験設備が稼働するなど、日本はアジア地域の研究拠点としての役割を担っている。また、海外に実験設備があるプロジェクトでも、日本がデータミラーサイトとして期待されている。今年3月のSINET国際回線100Gbps化と今回の400Gbps回線の構築により、大規模データへの国内外研究者のアクセス環境がさらに向上するため、日本の国際連携研究力の強化が期待される。
フルスペック8K非圧縮映像転送
医療分野における8K映像高精細化は、遠隔医療の病理診断や遠隔手術のみならず、医学生の研修教育映像としても期待されている。現在の8K映像転送は、配信拠点の回線速度を考慮し、映像圧縮技術や、4K映像に分割しての表示同期技術などを用いて転送している。しかし、圧縮するとデータを小さくできるため低速回線でも利用できるという利点があるものの、圧縮により画像が劣化することがあり、さらには処理時間が大きくなるため応答速度が遅くなるという悪影響がある。また、映像分割は、転送遅延の違いによる同期不良や欠損による映像欠落の懸念がある。そのため、圧縮・分割なく8K映像を転送することが望まれてきた。現在主流になりつつあるフル解像度8Kの転送速度は48Gbpsであり、SINET5でも対応可能な容量だが、さらなる高精細化が進められているフルスペック8Kでは144Gbpsが必要なため回線速度が課題になっていた。
NIIは「400Gbps回線であればフルスペック8Kによる映像転送にも十分に対応できるため、高精細な動画を活用した遠隔医療などの実現に向けての貢献が期待できる」としている。