40Gbpsの光信号に対応した超小型の4波長多重光受信チップを開発【NEDO、PETRA、OKI】
モバイル/無線 無料5Gネットワーク用基地局装置の小型化に貢献
NEDOとPETRA、沖電気工業(以下、OKI)は7月8日、光通信ネットワークに用いられる光トランシーバ向けに世界最小のTWDM-PON用光受信チップを開発し、受信動作を実証したと発表した。このチップは、波長が異なる4つの光信号を受信する方式(4波長多重)で合計40Gbpsの光信号を偏波状態によらず受信できるもので、シリコンフォトニクス技術の採用により、超小型化を実現した。
このチップを用いることで、5Gネットワークで利用されるスモールセル基地局装置に内蔵できる超小型光トランシーバの開発が可能となり、モバイル環境で高精細動画コンテンツを配信するなどの5Gサービスを、より広い地域で利用できるようになることが期待される。
概要
5Gネットワークではミリ波近傍の電波を用いて超高速、同時多数接続、低遅延の通信サービスが提供される。ミリ波は、4Gに使用されている電波に比べて減衰しやすいほか、物陰に回り込みにくい性質がある。そのため、5Gネットワークの構築には、スモールセルと呼ばれる小さなエリアごとに基地局を設置する必要があり、設置数は4Gネットワークの基地局に比較して約100倍に上ることが想定される。
このようなネットワークの構築には、既存の光アクセスネットワークにパッシブ光ネットワーク(PON)の構成を用いてスモールセル基地局を追加する方法が考えられる。また、その普及のためには、設置場所を選ばない小型スモールセル基地局が必要であり、そこに内蔵できる手のひらサイズの超小型光トランシーバの開発が待たれている。
こうした背景から、NEDOとPETRA、OKIは、シリコンを材料とする光素子技術(シリコンフォトニクス技術)を開発し、5Gネットワーク向け超小型光トランシーバを実現するプロジェクトに取り組んでいる。
そして今般、5Gネットワーク向けを想定した「TWDM-PON」に用いる光トランシーバ向けに世界最小の光受信チップを開発し、波長が異なる4つの光信号を受信する方式(4波長多重)で、合計40Gbpsの光信号を偏波状態によらずに安定して受信できることを実証した。
今後NEDOとPETRA、OKIは、今回開発した光受信チップに光送信機能も集積した超小型光トランシーバの開発を進め、5Gネットワークのスモールセル基地局に向けた超小型光通信ユニットの実現を目指すという。この開発を通じて、モバイル環境で高精細動画コンテンツを配信するなどの5Gサービスを、より広い地域で利用できるようになることが期待される。
今回の成果
5Gネットワーク向けを想定したTWDM-PONに用いる光受信装置には、波長多重化された光信号を各波長成分に分離して信号を取り出す機能が必要だ。加えて、光ファイバを経由したランダムな偏波状態の光信号でも安定して受信できる「偏波無依存受信動作」が求められる。これらの機能は多くの光学部品や受光素子を個別に組み合わせて構成することが必要なため、これまではスモールセル基地局に内蔵できる小さな光受信モジュールを作ることは困難だった。
今回開発された光受信チップは、新たに開発された偏波分離回転素子や光波長フィルタとしてのアレイ導波路型回折格子(AWG)、ゲルマニウムフォトダイオードアレイなどの光素子で構成されている。シリコンフォトニクスの技術を用いて、これらの光素子をチップ上に集積し、さらに光導波路で接続することによって、5mm角以下という超小型化に成功した。
また、偏波無依存受信動作を実現するために、波長多重化された光信号を2つの偏波成分に分離したのち4つの波長成分に分離し、波長ごとに偏波成分を合波する光回路を開発した。
このチップを光ファイバコネクタ付きプロトタイプモジュールに実装して、ランダムな偏波状態の10Gbpsの光信号を、1本の光ファイバを経由して4つの異なる波長に切り替えて入力することにより、合計40Gbpsの偏波無依存受信が可能であることを実証した。
同じ機能を持つ光受信モジュールを従来のように個別部品を組み合わせて構成すると数cm角のサイズになるが、このチップを用いることにより、光受信モジュールの体積を従来比1/100以下に縮小することが可能になる。
今後の予定
今後は、今回開発した光受信チップをさらに高感度化するとともに、光送信機能も集積することにより、5Gネットワークのスモールセル基地局装置に内蔵できる超小型で超低消費電力の光トランシーバの開発に取り組むという。
また、波長多重光受信チップが小型である特長を活かし、光学分析などの微小センサーへの応用展開も進めていくという。