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毎秒80ギガビットのデータ伝送を可能にするシリコンCMOS集積回路を用いた300ギガヘルツ帯ワンチップトランシーバの開発に成功

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 広島大学、NICT、パナソニックは2月19日、共同で、シリコンCMOS集積回路により300ギガヘルツ帯を用いて毎秒80ギガビットのデータ伝送を可能にするワンチップトランシーバの開発に世界で初めて成功したと発表した。従来に比べデータ伝送速度を大幅に向上させるとともに、実用化に必須の「ワンチップ化」を達成したことで、300ギガヘルツ帯無線通信の実用化がより近づいた。
 スマートフォンなどで広く用いられている無線トランシーバと同様にシリコンCMOS集積回路で300ギガヘルツ帯を用いた超高速データ通信が可能となったことにより、2020年から始まる第5世代モバイル通信の次の世代(ビヨンド5Gモバイル)の無線トランシーバに利用できる可能性が高くなったという。
 同研究成果は、International Solid-State Circuits Conference (ISSCC) 2019(2019年2月17日~2月21日、サンフランシスコ)で発表および伝送実験のデモンストレーションを行うという。

図1:開発したトランシーバ集積回路のシリコンチップ写真

開発の背景

 テラヘルツ帯は、これからの高速無線通信への利用が期待されている新しい周波数資源だ。2017年には無線通信規格IEEE Std 802.15.3dにより252ギガヘルツから325ギガヘルツの周波数帯域のチャネル割当が示された。研究グループは、この中のチャネル66の周波数帯を用いて毎秒80ギガビットの通信速度を実現するワンチップトランシーバを開発した。

図2:IEEE Std 802.15.3d規格の周波数チャネル割当

 研究グループは、これまで、シリコンCMOS集積回路を用いて1チャネルあたり毎秒105ギガビットのデータ送信を実現する送信器や毎秒32ギガビットのデータ受信を実現する受信器を実現してきた。今回の研究成果は以下の通り。

ひとつの回路で送信と受信が可能なワンチップトランシーバを実現

 これまでは送信と受信が別々のシリコンチップになっていたが、今回は両機能を1つのシリコンチップに統合し「ワンチップトランシーバ(送受信)」を実現した。これにより、電子機器に搭載する際の部品数の削減とシリコンチップ面積の削減によってコストダウンが可能となり、より実用化に有利となる。

データ受信速度を大幅に向上することで毎秒80ギガビットのデータ伝送を可能に

 これまで受信回路の性能制限により毎秒32ギガビットに留まっていたが、受信回路の性能を向上させるとともに、送信回路にも改良を加え、トランシーバとして大幅なデータ伝送速度の向上を達成した。

今後の展開

 今回の研究成果により、量産性に優れたシリコンCMOS集積回路による300ギガヘルツ帯を用いることにより、情報通信ネットワークなどのインフラに使用される光ファイバに匹敵する毎秒テラビットの通信能力を一般ユーザが利用可能なほど安価に実現できる可能性があることが示された。これにより、図3に示すような300ギガヘルツ帯無線の応用展開が考えられる。

図3:300ギガヘルツ帯無線の応用展開

 さらに将来的には、300ギガヘルツ帯を含むテラヘルツ帯の無線通信は、地上と人工衛星間の超高速無線通信に適用されることも期待されている。地上の医師や医療AIとリアルタイムに通信を行いながらスペースプレーン内で無重力状態で手術を行うなど、現在の技術だけでは考えられないようなことが実現できる可能性がある。

図4:地上の医療AIと医師がテラヘルツ無線通信を介して宇宙空間の無重力状態で遠隔手術を行う。

 今回の研究成果は、総務省「テラヘルツ波デバイス基盤技術の研究開発-300GHz帯シリコン半導体CMOSトランシーバ技術-」の研究開発の一環だという。