通信装置のソフトエラー対策、ITU-T国際標準制定
テレコム 無料宇宙線起因のソフトエラー対策に関する設計・試験・評価基準に基づく更なる信頼性向上へ
2018年11月13日、ITU-Tにおいて、宇宙線が主たる原因である地上の通信装置の誤動作(ソフトエラー)対策に関する設計・試験・評価の方法および品質基準を定めた国際標準が制定された。
この国際標準の制定に向け日本電信電話、富士通、日立製作所、日本電気、沖電気工業は、情報通信技術委員会に開設された「通信装置のソフトエラーに関する標準化Adhoc」(以下、SOET_Adhoc : Soft error testing Adhoc)において共同で国際標準案を起草し、ITU-T SG5会合ではOrangeとともに勧告化を推進してきた。
この国際標準勧告により、通信装置のソフトエラー対策基準に基づく更なるネットワークの信頼性向上が期待できる。
背景
近年、宇宙線によって生じる中性子線に起因するソフトエラーが地上で使用する通信装置でも増加しつつある(図1)。ソフトエラーによって、半導体メモリに保存されているデータが一時的に書き換わることで誤動作やシステムダウンを引き起こす恐れがある一方で、再起動や上書き保存といった簡易な処置で故障が回復するため、ソフトエラーに伴う故障の原因特定が困難と言われている。ソフトエラーが発生すると、通信サービスの利用者に多大な影響を及ぼす可能性があり、また運用者にとってもその原因究明・対策が大きな負担となる場合がある。通信装置は、このような故障も想定して通信サービスに影響を及ぼさないように設計されているが、ソフトエラーはその再現が難しいため、開発段階で十分な検証を行うことができなかった。
しかし、近年、加速器中性子源を用いてソフトエラーによる通信装置への影響を測定できるようになったことで、開発・導入段階でソフトエラーの影響を把握し、改善を行った上で通信装置を実運用ネットワークへ導入することが可能となりつつある。これにより、大幅な通信品質の向上を図ることができるが、設計や試験の手法・評価について指標となる品質の基準が求められていた。
ソフトエラー対策に関するITU-T勧告について
このような背景から、ソフトエラー対策に関する設計から評価、品質基準を定めることを目的に、2015年10月のITU-T SG5会合において、通信装置のソフトエラー対策に関する検討プログラムの開始が承認され、SOET_Adhoc委員各社が中心となり勧告草案の作成を行い、今回、国際標準として制定された。
この勧告は、5つの勧告本編と補足資料で構成されている。(図2)
ソフトエラー対策に関する設計・試験・評価の方法および品質評価基準が定義され、またネットワークに求められる信頼性のレベルに応じたソフトエラー対策を実施するための指標も示されている。
各勧告の内容は下記の通り。この勧告により高い品質基準を満たした通信装置が普及することとなり、通信サービスの更なる信頼性向上が期待される。
K.124 (概要編)通信装置の粒子放射線影響の概要
<1>粒子放射線により発生するソフトエラーの影響
<2>ソフトエラー対策としての設計方法に関する概要
K.130 (試験編)通信装置のソフトエラー試験法
<1>通信装置のソフトエラー試験をするための加速器施設の要件
<2>加速器を用いた中性子照射試験方法
K.131 (設計編)通信装置のソフトエラー対策設計法
<1>使用部品や装置構成に基づいたソフトエラー発生率の見積り方法
<2>ソフトエラー対策が必要な箇所を抽出する方法
<3>具体的なソフトエラー対策設計法の例とその効果・対策設計時の主な注意点
K.139 (基準編)通信装置の粒子放射線影響の信頼性要求基準
<1>ソフトエラーによる保守交換頻度、主信号断頻度、サイレント故障が発生しない確度に関する基準値の定義
K.138 (評価編)粒子放射線検査に基づく対策のための品質推定方法とアプリケーションガイドライン
<1>K.130(試験編)に記載の中性子照射試験で得た結果をもとに、K.139(基準編)に定義されている通信装置のソフトエラーに対する各信頼度規定が満たされているかを評価する方法
(補足編)K Suppl. 11 FPGAのためのソフトエラー対策
<1>ソフトエラー対策設計を実装する上で特に重要なFPGA(Field programmable gate array)のソフトエラー対策例