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シリコンフォトニクスによる新しい光ネットワークの実運用を開始【産業技術総合研究所】

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超高精細で超低遅延の映像サービスなどの実用化へ期待

 産業技術総合研究所(以下、産総研)データフォトニクスプロジェクトユニットは9月28日、ダイナミック光パスネットワークと呼ばれる新しいネットワーク技術の開発を進め、今回そのテストベッドを東京都内に構築し実運用を開始した。
 従来の光ネットワークでは、電子ルータを用いているため、通信量に比例して消費電力が増大する。一方、今回のシステムでは、光スイッチにより信号を光のまま振り分けるため、通信量によらず超低消費電力で通信できる。また、4K/8Kなどの超高精細映像を遅延少なく非圧縮伝送でき、それによって実現する遠隔共存は、医療や教育、産業などの幅広い分野で革新を引き起こすほか、AR/VRなどを活用したeスポーツなどの新産業創出の契機になることが期待されている。
 今回のテストベッドは都内の既設の未使用光ファイバを利用した。ユーザの要求に基づき、任意のユーザ間を光回線(光パス)でつなぐ回線交換型の光ネットワークだ。数万人規模のユーザに対応するには高性能な光スイッチが多数必要となる。シリコンフォトニクス技術による光スイッチは、信頼性が高く、小型・低消費電力で大量生産に適しているが、実用面での課題が多く、これまで実験室での検証にとどまっていた。今回、光スイッチの多くの課題が解決でき、実環境で安定に動作するレベルに達したため、今回のテストベッド実運用を初めて実現した。この技術の詳細は、国内外の学会などのほか、10月3~6日に幕張メッセ(千葉県幕張市)で開催されるCEATECで技術展示される。

ダイナミック光パスネットワークの概念図

開発の社会的背景

 今日、情報通信ネットワークを介したサービスは多様化しさまざまなイノベーションが生まれている。とりわけ進展が著しいのは映像を利用したサービスであり、映像機器の進展も著しく、精細度ではHDから4Kさらには8Kへと向上しつつある。8Kは初めて人間の視覚を超えたデジタル映像技術であり、かつて無い臨場感や没入感が得られる。これら映像技術と大容量ネットワークを組み合わせると、遠隔地の人々があたかも同じ場所にいるような感覚でコミュニケーションできる遠隔共存が可能になる。
 一方、インターネットの通信量は動画コンテンツの増加などにより年30~40 %の割合で増え続けている。これに伴う電子ルータの消費電力の増加は、通信量上昇のボトルネックになると予想されている。また、インターネットは、現在、帯域の保証が無く、遅延の発生や変動が避けられない。遠隔共存の実現に向けて、これらの問題点を解決し巨大な超高精細映像情報を効率良く快適に扱える新しいネットワークが望まれている。

研究の経緯

 現在のネットワークの電子ルータではデータ量に比例して消費電力が増大するため、今後、高精細映像などの巨大データ処理の需要が増加すると消費電力が激増すると懸念されている。そこで、産総研はルータを介さず光スイッチを使用した回線交換と、これをユーザが快適に活用できる資源管理という技術を組み合わせた「ダイナミック光パスネットワーク」を提案し、その実現に向けて通信関連企業10社とプロジェクト「VICTORIES拠点」を2008年に形成した。また、低消費電力で信頼性の高い多ポート光スイッチを安価に生産するため、シリコンフォトニクスと呼ばれる光集積化技術を用いた光スイッチの開発を進め、2016年には、実用的な光スイッチを開発した。さらに、さまざまな通信機器を、異なるメーカーの製品でも同一システムに搭載できるディスアグリゲーション方式を提唱し、次世代光通信ネットワークシステムを効率的に導入できる標準化を推進した(2017年3月16日 産総研プレス発表)。
 産総研は「本年度はVICTORIES拠点プロジェクトの最終年度であり、10年間の研究成果を実用化、普及させるために東京都内にテストベッドを構築し運用を開始した」としている。
 同研究開発は、文部科学省「先端融合領域イノベーション創出拠点形成プログラム/光ネットワーク超低エネルギー化技術拠点」(平成20~29年度)の支援を受けて行ったという。

研究の内容

 ダイナミック光パスネットワークは、ユーザの要求に基づいて光パスを動的に設定する資源管理システムと光パスの切り替えを行う光ノードで構成される。今回、都内に開設したテストベッド(図1)は、4つのユーザ基地局が光ノードと接続されるスター型の構成である。2つの基地局は産総研臨海副都心センター(東京都江東区)に置かれ、他の基地局は東京大学(東京都文京区)と8K技術の医療推進を図る一般社団法人 メディカル・イメージング・コンソーシアム(東京都千代田区、カイロス社内)に置かれる。さらに2つの病院を接続する拡張作業も行っている。光ノードは大手キャリア基地局(東京都中央区)に設置されており、光スイッチや光増幅器、中間制御装置で構成され、これらは全て1U標準ブレードに収納され、19インチ標準ラックにマウントされている(図1、写真参照)。

図1:今回構築したテストベッドの構成

 光ノードでは、シリコンフォトニクスによる偏光無依存型8入力8出力(8 x 8)の光スイッチを用いているが、その消費電力は10 Wで、同等の電子ルータの消費電力4 kWの1/400に削減されている。8ポートというごく小規模なテストベットでもこのような差があるが、数十万ユーザの大規模システムではこの差がさらに広がるため、1/1000まで消費電力を抑えることが見込まれることから非常に高い省エネ効果が期待できる。
 ポート数が(8 x 8)の光スイッチではユーザ数が限られるが、複数個の(8×8)光スイッチを規則に従って3段カスケード接続して(32 x 32)光スイッチを構成できる。10万人規模のネットワークではポート数が(512 x 512)の光スイッチが必要となるが、これは(32 x 32)光スイッチを複数個組み合わせれば実現できる。さらに、これらと波長単位で切り替えができる波長選択スイッチを組み合わせれば数百万~数千万ユーザに対応できる。

図2:誤り率の時間推移

 図2にテストベッドで10Gbpsの信号を4日間連続して伝送した際の誤り率の推移を示す。通常の条件ではエラーは発生しないので、この実験では伝送路に光減衰器を挿入して信号強度を通常より20dB減衰させ、信号が光スイッチを4回通過する構成にしてエラーの発生頻度を増やしたが、訂正限界を十分下回る安定した特性を示した。また、3段カスケード接続下(8 x 8)光スイッチの特性は(32 x 32)光スイッチの特性に相当するため、このデータは(32 x 32)光スイッチを用いたネットワークの模擬的検証にもなっている。

図3:4K映像によるテレセッションを利用した合奏練習の風景[/caption]

 今回構築したテストベッドでは8K映像を非圧縮伝送して本格的な遠隔共存を実現できるが、8K映像機器はまだ本格的に普及していないことから、すでに普及が進んでいる4K映像機器を用いて非圧縮伝送によるテレセッションシステムを構築したという(図3)。一般に、システムの伝送による遅延が往復200 ms以下であれば自然な会話ができ、60 ms以下になると遠隔合奏が可能になる。今回のシステムは、安価な家庭用AV機器を使用しているため、遅延が往復80 ms程度であるが、自然な会話を楽しむことができる。

今後の予定

 今年度は、大学や企業に今回構築したテストベッドをモニター利用してもらい、遠隔共存の効果的な実施形態について調査を進める。その一環として、8K映像の非圧縮伝送による遠隔医療に取り組む。来年度以降は、一般ユーザがテストベッドを有償で利用できる体制を構築するとともに、企業による事業化を行い、ダイナミック光パスネットワークの普及に努めていく。