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毎秒1ペタビット容量で世界最長200km超の長距離光伝送実験に成功

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従来の半分の光信号帯域で1000km級光増幅中継伝送を実現可能に

 NTTは3月23日、デンマーク工科大学(以下 、DTU)、フジクラ、北海道大学(以下、北大)、サウサンプトン大学(以下、UOS)、コリアント(以下、COR)各社と協力し、32個のコア(光の通路)を持つ光ファイバ1本で毎秒1ペタビット以上の超大容量データを、205.6kmにわたり光増幅中継することに成功したと発表した。これまでの1本の光ファイバを用いた毎秒1ペタビット容量級の伝送実験に比較し、必要な光信号帯域を従来の半分以下としながら、高効率な世界最長の長距離光増幅中継伝送を実証した(図1)。さらに新たな超高速多次元符号化変調技術の適用により、毎秒1ペタビット級光信号の1000km以上の長距離伝送の可能性を初めて示した。
 毎秒1ペタビットという数値は、2時間のハイビジョン映画5000本を1秒間で伝送可能な速度に相当し、約1000km級の伝送距離は、日本やヨーロッパにおける主な大都市間の伝送距離に相当する。現在の長距離光ネットワークの伝送容量を、今後も100倍以上に拡大し、ICT社会の更なる発展を支える情報基盤を実現できる可能性を示している。
 今回の成果は3月20日からアメリカのロサンゼルスで開催されている北米最大の光通信国際会議(OFC2017)において、3月23日(現地時間)にポストデッドライン論文として発表する予定だという。
 なお、本研究開発の一部は、総務省と欧州委員会(EC)から受託している戦略的情報通信研究開発推進事業(国際標準獲得型研究開発)「再構成可能なインフラのためのスケーラブル・フレキシブル光通信技術の研究開発(SAFARI) http://www.ict-safari.eu/ 」の成果を用いているとしている。

図1 大容量空間多重光通信における本発表の位置づけ

1.研究の背景

 総務省統計(http://www.soumu.go.jp/main_content/000462459.pdf)によれば、近年のスマートフォンの普及に伴うブロードバンドサービスやクラウドサービスの急速な発展とともに、通信トラヒックは年率1.4倍(20年で約1000倍)以上のペースで増え続けている。通信トラヒックの急増に対応する光ネットワークの大容量化は、これまで、光ファイバの基本構造は変えずに、光通信システム装置の大容量化を実現することにより経済的なインフラを実現し、ブロードバンドサービスの普及を支えてきた。現在の大容量光ネットワークの基盤となっている光ファイバの物理的な容量限界は、現在の10倍程度の毎秒100テラビット付近と予測されており、今後も現在と同様のペースで通信トラヒックが増え続けると、2020年代半ばには、既存の光ファイバの容量限界を超える状況(Capacity Crunch)が懸念されている。
 Capacity Crunchを回避し、将来にわたり通信トラヒック増に対応可能な大容量光ネットワークを実現するための新たな光通信システム技術として、1本の光ファイバに複数のコアを持つマルチコア光ファイバ等を含む新しい空間的な構造を持つ光ファイバを用いた空間多重光通信技術の研究開発が世界的に注目され研究が活発化している。NTT、フジクラ、北大、DTU、UOS、CORは、産学連携により、これまで、それぞれの有する優れた技術を結集し、空間多重光通信技術による大容量光ネットワークの実現を目指して、マルチコア光ファイバ設計・製造技術やその性能を極限まで引き出すための基盤技術の研究開発を進めてきた。

図2 毎秒1ペタビット 205.6km伝送実験結果

3.技術のポイントおよび役割分担

32コア-マルチコア光ファイバ伝送路

 今回適用したマルチコア光ファイバは、DTU、フジクラ、北大が共同で設計・試作し、32個のコアにおいて種類の異なる複数のコアを用いた新構造(シングルモード異種コア構造MCF)を有している。このファイバの特徴は、屈折率のわずかに異なる2種類のコアが正方格子状に配列されていることだ。この構造により、1種類のコアを用いる同種コア構造のマルチコア光ファイバに比べて、コア数を20以上に増やしても隣接するコア間のクロストークを大幅に低減でき、長距離伝送を実現できる。今回、NTTおよびCORにより、本32コアMCFとフジクラ・UOS・NTTで設計試作した入出力デバイスを接続した51.4kmマルチコア光ファイバ伝送路としての長距離伝送特性を評価した。その結果、全コアのC帯全波長域にわたり、32コアMCF伝送路として1000km以上の伝送に適した低クロストーク特性と低損失特性との両立の実現を確認した。

図3 シングルモード異種コア構造32コア光ファイバ

多次元符号化16QAM変調技術

 近年の大容量光通信では、光ON/OFFの2つの状態を使って伝送する強度変調信号に代わり、光の波の性質(位相・偏波)を用いて多数の信号状態を作り高効率な光伝送を実現する偏波多重多値QAMデジタルコヒーレント信号が用いられている。多値QAM信号は、光の位相や偏波を用いた複数の光信号状態に複数ビットのデジタル信号を対応させ高効率な超高速光信号を実現できる反面、多値数が増加し伝送効率を増加するほど、伝送可能な距離が急激に短くなる。また、マルチコア光ファイバ伝送に特有のクロストークに対しても劣化しやすくなることが課題だった。
 今回、NTTは、QAM信号の多値数を従来報告の32値以上から16値まで低減し、高効率な誤り訂正符号を用い、広帯域なデジタルアナログ変換技術をデジタルコヒーレント信号に適用した。その結果、1波長あたり毎秒680ギガビット(1ファイバあたり1ペタビット)容量で毎秒ぺタビット容量としては世界最長の205.6km伝送に成功した。さらに、新たに8次元符号化16QAM変調技術の適用により、デジタル信号と光信号状態の割り当て方を工夫することで通常のQAM符号に比較して伝送品質を向上し、同じ16値QAM信号を用いながら、1波長あたりの毎秒510ギガビット容量で、伝送距離を1000km以上長距離化可能なことを実証した。

図4 8次元符号化変調による偏波多重16QAM信号1000km級伝送

4.今後の展開

 今回の実験により可能性を示した1000kmという伝送距離は、日本やヨーロッパにおける主要都市間を結ぶ光ネットワークの構築に必要な距離に相当する。今後は、ヨーロッパのコリアント社において構築するテストベッドにおいて、マルチコア一括光増幅技術やネットワーク制御等との連携実験を進め、今後のブロードバンドサービスの発展を支え続ける将来の長距離大容量光ネットワークの実現に貢献していくという。