電波送信装置の小型化を可能にする高出力広帯域パワーアンプの設計技術を開発【富士通研究所】
DX/IoT/AI 無料電力合成器への適用により増幅器の広帯域性能を従来の2倍へ拡大、装置の小型化を実現
富士通研究所は、1台で数百MHzから数ギガヘルツGHzまでの幅広い周波数帯で信号を出力できる電力増幅器(以下、パワーアンプ)の設計技術を開発したと発表した。
我々が生活する空間では、気象レーダーやリモートセンシングなど、様々な用途に応じて幅広い周波数帯の電波が利用されている。電波送信装置においては複数の周波数帯に対応しなければならない一方で、装置の小型化ニーズも強く、広帯域パワーアンプの設計技術が注目されている。
今回、パワーアンプの電力合成器にインピーダンスを変換する機能を持たせることで、トランジスタと電力合成器とのインピーダンスの差分を小さくした広帯域パワーアンプを開発した。その手段として、薄い回路基板の下部の筐体を空洞化し、その基板の表面と裏面の両面に幅広い信号配線を形成した3次元配線構造の結合線路を電力合成器に世界で初めて適用した。この設計手法に基づき、これまでの増幅器性能に比べて2倍の周波数広帯域化を、高出力特性を損ねることなく実現したという。
この技術を適用することにより周波数ごとに複数必要であったパワーアンプの共用化が図れ、電波送信装置の大幅な小型化・構造の簡素化を実現することが期待される。
開発の背景
様々な周波数帯の電波を送信するためには、用途ごとの規格に対応した周波数帯をカバーする電波送信装置を設置し、それぞれに異なるパワーアンプを用意する必要がある(図1左)。しかし、これにより電波送信装置が大型化するため、一台で複数規格に対応する周波数帯をカバーでき、共有化できる高出力なパワーアンプの開発が求められている。パワーアンプは、送信信号を必要な出力まで高めることにより電波の到達距離を伸ばす働きをするが、電波送信装置を構成する部品において、高出力かつ広い周波数帯をカバーするのが困難な部品であるため、電波送信装置の共用化を阻む要因となっていた。
課題
パワーアンプは、信号を増幅するトランジスタを並列に並べ、各トランジスタからの出力を電力合成器で合成することで高出力化する。パワーアンプからの出力信号は、アンテナに供給されて電波として送信される。一般的に、出力電力を高めるためにトランジスタの数を増やすとインピーダンスが小さくなり、トランジスタと電力合成器とのインピーダンスに大きな差が生じる。狭い周波数帯では、インピーダンスに差があっても、信号を減衰させることなく接続することは容易だが、周波数の範囲が広がるとその周波数の信号は減衰してしまう。このように、トランジスタと電力合成器の間のインピーダンスの差が大きいと、広帯域にわたり高い出力特性を得ることが難しくなるといった問題があった。したがって、一台の電波送信装置で高出力、かつ複数規格に対応する広帯域特性を実現するためには、パワーアンプの新たな設計技術の開発が課題となっている。
開発した技術
今回、3次元配線構造を用いた結合線路を電力合成器に適用し、電力合成器にインピーダンス変換機能を持たせることで、インピーダンスの差分の緩和と電力合成の両方を実現し、従来の増幅器に比べて2倍の広帯域性能をもつパワーアンプの設計技術を開発した。
3次元配線構造を用いた結合線路は、配線間の電気的な結合の強度により帯域幅が決まるため、基板を実装している金属部分に空洞を設け、薄い基板の表面と裏面に幅広い配線とすることで強い電気的な結合をもつ結合線路構造を実現し、広帯域かつインピーダンスの調整を可能とした(図2)。さらに、トランジスタと電力合成器間のインピーダンスの差分が小さくなるように異なる配線幅を持つ結合線路を構成し、段階的にインピーダンスを変化させることで信号の損失が少ない広帯域な電力合成器を実現した。
効果
今回開発したパワーアンプの設計技術と、同社が保有している窒化ガリウム(以下、GaN)のトランジスタ技術を統合させ、GaNパワーアンプを試作し、その特性を評価した。試作したGaNパワーアンプでは、中心の周波数とカバーする周波数(0.5から2.1GHz)の比である比帯域120%で、200Wの出力を得られた。出力電力と周波数帯域の積で定義する広帯域増幅器の性能指標は、従来と比べて2倍以上を実現し、広帯域に電力合成ができていることが実証された(図3)。
同技術は、各種レーダーやセンシングなどで使用されている幅広い周波数を1台でカバーする多目的電力送信装置への適用が期待でき、送信機の小型化に貢献する。
今後
同社は「広帯域増幅器のさらなる高出力化・広帯域化を進めていき、電力送信装置の小型化・高性能化に向けて開発を継続していく」との考えを示している。