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つくばフォーラム2024開催記念「NTT AS研 海老根所長インタビュー」【2】

INTERVIEW 有料

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サービスの高度化・多様化を支える技術

超大容量伝送を実現するマルチコア光ファイバケーブル技術

 海底および陸上ネットワークにおいて心線需要が飛躍的に増大している中、既存設備スペースにおける伝送容量の持続的な拡張が求められている。そこでAS研では、汎用ケーブルと互換性のあるマルチコア光ファイバケーブル(MCF)による既存光線路との併存、既存光ファイバとのシームレスな接続の実現に取り組んでいる。
 技術のポイントは、汎用ケーブル構造を活用するために125μmで4コアのマルチコア光ファイバを実用化することであり、これにより技術導入インパクトの最小化を図り、かつ既存インフラを維持した持続的・計画的な容量拡大を実現するという。海老根所長は「管路内という限られたスペースでマルチコア光ファイバを活用することを考えると、ファイバ外径を太くしてコア数を増やすのではなく、125μmという従来と同じ外径を維持してコア数を増やす方が敷設スペースの活用、また量産化の点で現実的であることから、4コアの研究を進めている。着実に進んでいる技術であり、今年は開発のフェーズに入っている。海底と陸上の両方をしっかりと進めていく」と話す。
 また、今後の開発ロードマップとして、4コアのマルチコア光ファイバに3モードの技術を組み合わせた10チャネル超が示されているので、より高密度なケーブルの実装、およびマルチコア一括増幅による高効率化が期待できる。

超大容量伝送を実現するマルチコア光ファイバケーブル技術。

光ファイバを切らない光分岐技術

 既存の光ネットワークに対し、IoTなど多種多様な端末を追加で接続する需要が増えている。ここで課題となっているのは、新たな端末を接続するためには光ファイバや光分岐点を新たに追加する必要があり、設備構築コストやサービス開通までの時間が必要となることだ。そこでAS研では、多種多様な端末が迅速かつ容易に接続できる柔軟な光ネットワーク技術の研究に取り組んでいる。
 この技術は、通信中の光ファイバに光分岐点を通信断なく後付けし、任意の光パワーを分岐するというアプローチとなる。海老根所長は「この技術による光分岐点の作り方は、光カプラと同じ原理を既設ファイバに現場で施すというものだ。具体的には、通信中の光ファイバの任意の箇所を削ることで光を片側に漏れさせ、追加する分岐用のファイバをここに接着することで光パワーを分岐させる。これにより、IoT端末等を簡単に追加していくことができるようになる」と説明しており、「これはチャレンジングな技術となるが、現在のように局側から新たな光ファイバを増設するよりも設備構築コストが削減できると見込んでいる。また、サービス開通までの時間も短縮できるので、利用者の利便性向上にも繋がる技術だ」と期待を示している。

光ファイバを切らない光分岐技術。

電柱や管路に依存しない簡易布設光ファイバケーブル技術

 これまでの光ファイバ敷設は、メタル時代に構築された電柱・管路を利用していたので、その整備は住居・オフィスが中心だったが、今後の社会のIoT化、自動運転、5G/6G基地局の展開に向けて、光ファイバ網の更なるカバレッジ拡大が求められている。
 そこでAS研では、電柱や管路を介さずに、路面に形成した溝に布設可能な光ケーブル、およびドロップの技術に取り組んでいる。この技術のポイントは、路面上でも容易に光ケーブル相互の接続を実現する一括接続コネクタを実装したことだという。
 海老根所長は「この技術により、道路掘削・復旧工事を抑制し、経済性と環境負荷低減を両立した光ファイバ整備を実現できる。また電柱・管路に依らない柔軟なルート新設・変更が可能であり、NW冗長性向上にも寄与する」と効果を説明しており、「常に自動車が走行している車道での敷設は耐久性の面で難しいが、自動車が駐車場を出入りするといった頻度であれば十分に耐えられるので、既に歩道では限定的な導入が始まっており、今後の普及に期待している。また、競技場などで路面がゴムの場合に相性の良い技術なので、そこでの使用も想定している。今後の研究では、車道での使用にも耐えることができる耐久性も視野に入れている」と進捗状況を話している。

電柱や管路に依存しない簡易布設光ファイバケーブル技術。

超低遅延の映像分割表示処理技術

 AS研では、リアルタイム映像コミュニケーションの実現に向けて、多拠点/多視点に適用でき、画面配置の自由度が高い超低遅延な映像処理技術に取り組んでいる。これにより、システム全体の映像遅延を人間がほぼ知覚できない程度まで短縮しつつ、スケール性を要する運用やユーザニーズに合わせた映像利用を実現するという。
 超低遅延の映像分割表示処理を実現するポイントは、非同期の映像処理による遅延時間の短縮と、分散型処理による多拠点/多視点化だ。海老根所長は「APNの超低遅延という特長を活かすため、映像を表示する側も映像処理を早くするというのが、この技術のコンセプトだ。テレビ会議など従来のコミュニケーションシステムの場合は、パケット情報を全て受け取ってから処理して表示する。対してこの技術は、パケット情報を受け取った順に即座に処理して表示する」と説明している。
 この技術とAPNによる非圧縮映像伝送と組み合わせることで、多地点間を20ms以下の低遅延で映像をやり取りできるコミュニケーションシステムを実現できる。20ms以下の遅延であれば問題ないとされている遠隔の音楽コンサートでは、既に複数のトライアルに成功している。また、身近なビジネスの案として、APNを活用した遠隔ダンス教室といった話も出ているという。
 海老根所長は今後の展望について「20ms以下の低遅延であれば、様々なアプリケーションで問題なく活用できるので、これからユースケースを増やしていく。また、今後の研究の方向性としては、伝送距離が長くても20ms以下を維持することをめざしている。例えば2022年にサントリーと共に取り組んだ『サントリー1万人の第九』の遠隔コンサートでは、東京と大阪間を光ファイバ長にして700キロ超えの距離で20ms以下に成功しているので、今は世界の国をまたいでも20ms以下を実現することを目標としている」と話す。

超低遅延の映像分割表示処理技術。

マルチ無線プロアクティブ制御技術 Cradio®

 新無線規格が登場する変革期を迎え、産業DXへ向けて多様な利用ケースでの無線活用が期待されている。そこでAS研では、マルチ無線プロアクティブ制御技術 Cradio®の高度化やシステム連携に取り組んでいる。
 海老根所長は「事業現場での実証実験により、効果を確認するとともに需要に即した技術の高度化を進める。また、新無線規格や高周波数無線システムに対応した中継局を含む自動設計、安定品質に寄与する障害推定、コネクテッドカー等の利用に資する品質予測の各技術と様々な社会システムを連携する」と説明している。
 この研究により、スマートシティやスマートファクトリーなど先進的な取組み実現を、複数無線アクセスの高度な組み合わせで支えることができる。また、新無線を含む複数無線システムのスキルレス対応も実現できるので、市場拡大にも繋がる。

マルチ無線プロアクティブ制御技術 Cradio®。

産業用NW機能のソフト化技術

 AS研では、APNを使ったサービスの一つとして、ミッションクリティカルな工場での産業用ロボット遠隔操作に着目している。
 この分野の課題として、産業用ロボットの操作系機器はベンダ提供が主流であり、独自仕様が多く、ユーザによるロボット選定の自由度が乏しい点や機能の拡張性が乏しい点、また操作性機器がロボットごとに必要なので設備投資額が大きい点が挙げられる。そこでAS研は、産業用NW機能のソフト化技術により、この課題を解決するという。
 海老根所長は「一般的に産業用ロボットの操作はFPGAにハードウェア記述言語で書き込むので、ベンダの仕様に影響される。それを誰でも扱えるソフトウェアにすることで、産業用NWプロトコルを入替可能とし、ユーザによる産業用ロボット選定の自由度や拡張性を高めるというのが、この技術のコンセプトだ。低遅延・低ジッタを担保する低遅延FDN上で、エッジサーバに機能実装すれば、複数の操作系機器を集約することや、性能劣化を回避することも可能になる。また、AI/ML等のオープンソースアプリの導入も容易になる。これらのメリットにより、産業用ロボットの導入を容易にし、工場内の自動化を促進するお役に立てればと考えている」と話す。

産業用NW機能のソフト化技術。海老根所長は「ソフトウェア化をすると、やはり信号処理の遅延が大きくなってしまうので、それを解決する低遅延FDN技術もこの研究のポイントだ」と説明している。

“つながり続けるNW”を実現するCradio®×低遅延FDN

 AS研は、マルチ無線プロアクティブ制御技術Cradio®と低遅延FDNと組み合わせることで、無線と光の両区間のNW資源を有効活用した、低遅延かつ“つながり続ける”高信頼な通信環境の実現に取り組んでいる。
 海老根所長は「この技術により、APN1回線を様々な用途にシェア活用できるようになるので、工場内DXを推進するサービスを検討している。例えば、遠隔操作では、低遅延+“つながり続ける”ことで安定操作を実現できる。また、データ解析では大容量通信でリアルタイム解析を実現できる」と説明している。
 これは、無線と光の双方に精通しているAS研が各々の長所を組み合わせるという取り組みであり、次の点が技術のポイントとなる。
・無線区間の変動把握・通知と外部連携制御 (Cradio®)
・Cradio®と低遅延FDNによる、拡張連携IF (eCTI) を 介した、無線と光のリアルタイム制御 (光無線連携技術)
・低遅延かつ安定性の高いNWサービスを提供可能な光区間+アプリ連携制御 (NWコンピュート連携技術)

“つながり続けるNW”を実現するCradio®×低遅延FDN。

アナログRoFを用いた上り通信の信号品質向上技術

 アナログRoFの技術では、上り通信の信号品質向上が紹介される。高周波数帯では見通し通信が必要であり、ユーザ端末の移動に伴ってアンテナを切り替えて通信することになる。そのためにはアンテナ部(張出局)の高密度展開が必要であり、これをアナログRoFにより効率的に実現するという。
 海老根所長は「ここでの課題は、ユーザ端末からの上り通信で経由していない複数張出局の熱雑音が集約局で加算されてしまうので、所望信号の品質劣化が発生するという点だ。その解決のためのアイディア自体は非常にシンプルであり、信号の時分割スケジューリングを行うことで集約局に届くタイミングが集中することを防ぎ、熱雑音の加算を抑制するというものだ。そこで我々は、集約局で上り通信のスケジューリングに基づいてスイッチ切換し、通信で経由している張出局と集約局のみが電気的に接続されることで加算される熱雑音の抑制を可能にする技術を研究している」と話す。

アナログRoFを用いた上り通信の信号品質向上技術。この技術により集約局における熱雑音の加算を抑制することで、上り通信の信号品質を向上しつつ、効率的な張出局展開も実現できるという。

通信サービスのカバレッジ拡張を実現する衛星通信技術

 NTN(非地上ネットワーク)分野の技術では、衛星/HAPSの特性(遅延、容量)およびサービス毎の要求QoSを考慮したルート制御技術という、他社との差別化要素が紹介される。
 NTNは、HAPS、LEO、GEOと多段構成となっているので、AS研ではその遅延を減らすことのできるルートを検討するためのシミュレータ等に取り組んでいるという。
 海老根所長は「被災地で地上ネットワークが使用不可な場合は衛星が有効だ。そこで我々は確実な災害対策として、現行ポータブル衛星の後継機開発におけるアンテナ簡易展開・運用性向上技術を研究している。また、平時におけるモバイル通信エリアの拡大にも衛星/HAPSのNTNが有効であり、そうした面でも役立つ技術となる」と説明しており、「Space CompassやNTTドコモ等と連携し、平時に新規サービスを創出可能な大容量かつ災害に強いNTNを実現する」と話している。

通信サービスのカバレッジ拡張を実現する衛星通信技術。

高周波数帯分散アンテナシステムにおける干渉低減技術

 6Gの超大容量通信を実現するため、ユーザ間干渉と同一ユーザ内干渉の生じる環境下でマルチユーザ無線伝送が必要となる。
 そこでAS研ではNTTドコモやNECと連携し、双方向のビーム形成により広い範囲でユーザ間干渉を低減する技術や、単一ユーザへ異サイトのアンテナ割当でユーザ内干渉を低減する技術に取り組んでいる。
 海老根所長は「6Gで注目されている100GHzのサブテラヘルツ帯をめざしている技術で、一昨年は28GHz、昨年は40GHzに成功しており、着実に成果を上げている技術だ。これにより、移動しても伝送品質を維持するマルチユーザ伝送や、干渉低減によりアンテナ数に応じた超大容量通信が実現できるので、6Gの世界で技術の先導性を取っていく」と話している。

高周波数帯分散アンテナシステムにおける干渉低減技術。

特集目次

■NTT AS研 海老根所長インタビュー

・研究開発の方向性

・サービスの高度化・多様化を支える技術

・運用を抜本的にスマート化する技術

・新ビジネス領域を開拓する技術

■パネルディスカッションや技術講演

・技術交流サロン・ワークショップ

■出展社Preview

・NEC

・エクシオグループ

・住友電工グループ

・日本コムシス

・横河計測